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異世界メモリアル【11周目 第19話】


デートは成功するようになった。

なんてことはない、エスコートしよう、なんて考えを放り投げただけ。

気取らずに、本当に友達だと思って誘うだけだ。

つまり「サーカス見てみる?」とか「スケボーやろうぜ」とか「今度やるあの映画興味あるか」というような。

要するに男だと思って接するとうまくいく。

本当は女性だが、中身が男だという情報を知ってしまったことで、逆に女性として扱わないといけないって思い込んでしまったようだ。

そうだよな、女の子扱いされたかったらもっと口調とか気をつけているはず。

男っぽい話し方をしているのは、男だと思って気軽に話して欲しい。

そういうことだろう。

もうすぐ三年生になる。

来年の春はもう12周目になっているから、この春休みにしか行けないところに行っておくか。


「義朝~、今度はお花見でもいかないか」

「おっ、いいな!」


花見はみんな好きだからな。

当日、雨が降って台無しとか、寒すぎてしんどい、というような現実みたいなことは起こらない。

ここはギャルゲーの世界でよかったと思う。


「お~、満開だ~」


義朝がはしゃいだ声で、両手を広げてくるくる回った。

この世界ではシーズンになってれば基本満開だ。

デートコースとしてはかなり無難なこともあり、11周目ともなった今、俺は見慣れている。


「さ、食おうぜ~」


手早くレジャーシートを敷いて、お重を広げる俺。

男にとっては花より団子。

結局のところ、花見なんていうのは公園でピクニックをするための言い訳みたいなもんだ。

ましてやこの世界では三年生になる頃にはみんなビールは解禁。


「乾杯だ!」

「お、おう」


ぷしゅっ。

いいねー。

温かく、そよそよと気持ちのいい風。

日の高いうちに、外で開ける缶ビール。

最高だな!


「ぷっはー!」


んめー!


「ほら、義朝。これ美味しいよ、ビールにあう」

「ああ」


今回はハードモードで『世界の基礎知識』の特技を持っていない。よってチョコレートとかビールなどの一部を除いて、食い物や飲み物は異世界仕様だ。

食ってるものが、獣の肉なのか深海魚なのか、そもそも動物なのか植物なのか海藻なのかもよくわからないことが多い。気にしないことに慣れたね。

よくわからないが、ビールにあうように料理することはできる。


「だはー、うめー」

「そうだな」


義朝はなんやらそわそわしているように見える。


「義朝、トイレか?」

「え!? いや、違うけど」


違ったらしい。

ま、気にするまい。


「そっか。ま、食おうぜ」

「あ、うん」


我ながら料理が上手になったもんだ。

うまい、うまい。

……。


「義朝? 美味しくないか?」

「え!? いや、そんなことないぜ」


なんか落ち着かない様子だ。

なんだ?


「せっかくの花見で、飲み食いだけってのもつまんないか?」

「あ、うん! そうだぜ」


なるほど。

そうだよな、おじさんになれば飲み食いだけでいいんだが。

若いうちはそれじゃ退屈ってもんだよな。


「よしよし、じゃあやるか! 花札」

「へ?」

「花見でやるなら、やっぱ花札だろ。こいこいでいいよな?」

「……」

「あれ? 知らないか、花札。じゃあ別のゲームでもいいけど」

「もういい!」

「えっ!?」


勢いよく立ち上がって、どこかに行こうとする義朝。


「ま、待てよ、どうした。やっぱりトイレ?」

「ロトは俺を女の子だと思ってない」

「えっ!?」

「せっかく桜がきれいだからもっと見たいのに」

「えー」

「お花見にぴったりの洋服着てるのに、何も言ってくんないし」

「あー」

「水着のときはあんだけ撮るくせに、写真も撮ってくんないし」

「んー」

「トイレトイレってデリカシーもないし」

「うー」

「ビール飲んで花札したいなら、そこらのおじさんとしたらいいだろ!」


俺の掴んでいた手を振りほどき、桜色のワンピースを翻して駆けていった。

な、なんてこった……。

ここまでデートに大失敗したのはいつ以来だろうか……。

缶ビール片手に、桜の花をじっと見る。

きれいだな……。

確かに、この場所で、義朝が笑顔ではしゃいでいるとき。すごく可愛かった。

でも、男だと思って接しないと……そう思っていたからな。


「わ、わかんねー」


難しいぞ義朝……。

女性扱いしてもダメ、男だと思ってもダメとは。

今にして思うと、てんせーちゃんとかわかりやすかった気がするよ。


「お花見か……」


デートの定番として何度も来ているから、思い出は山のようにある。

残ってしまった重箱の中身をつっつきながら、ビールを煽る。

デート相手が怒って帰っちゃった男が、別の女の子の思い出に浸るとかダサすぎるだろとわかっているが。

それでも思い出す。

いままでのデートを。

いままで出会ってきた彼女たちのことを。


「……みんな全然違うな」


義朝が特別みたいに思っていたが、なんてことはない。

みんな特別だったじゃないか。

誰一人、似てなんかいない。

むしろヒトであるだけ、江井愛よりは普通と言ってもいいな。


「ふふっ」


そう思ったら、可愛くなってきた。

普通だよ。

女の子がおめかしして、デートに来たら全然褒めてくれないから怒ってたんだ。

なんて可愛らしいやつなんだ、義朝は。


「ふふふふふ」


よかったよ。

フラれてよかった。

俺は今、義朝に夢中だ。

一人でするお花見も、悪くないな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここにきて素晴らしい一話
[一言] イギリスにいたときビールのんでいい年齢イギリス人が知らなくて草でした パブとかは18歳だけど親父がいて家なら16からいいとか 未だに嘘かほんとかわからんけど飲酒20歳って日本だけだぞおかしい…
[良い点] ハードモード正直めちゃくちゃ面白い
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