異世界メモリアル【11周目 第16話】
「次もハードモードにしてください」
「えっ」
デジャヴュ?
タイムリープ?
「今回は残念ですが、やっぱりロトさんは苦労してこそロトさん」
いや、目の前にいるのは星乃さんではない。
「余裕のあるロトさんなんて、全然おもしろくない」
どんどん本性が出てくる……。
「やっぱ、泥水すすってど根性出して、それで頑張って頑張って、そういう姿に惚れたんですよ!」
目をきらっきらさせて恐ろしいことを言う。
しかし思い起こせば、納得だった。
実羽映子。初めてこの世界で会った女の子。
彼女との思い出は、それはもうたくさんある。
その中でも印象的なことのひとつ。
キック力増強シューズというアイテムを使って体育祭で活躍しようとしたことだ。
あのときの残念そうな顔。
本当なら問題ないはずだ。この世界において有効なアイテムを買って、それで活躍するというまっとうなプレイスタイル。
それなのに、裏技を使ったかのようなリアクションだったことは、今でも忘れていない。
つまり、つまりそういうことだったのかと。
「いやー。正直最近はなんだかなーと思ってたんだ」
髪の毛わしわしさせながら、ぶっちゃけはじめたよ。
「ただイケメンでなんでもできる男なんて、乙女ゲームみたいでつまんない」
そんなふうに思っていたのか……。
「やっぱり努力。どれだけ頑張ってるか。男は、ロトさんはそこでしょ」
うんうんと深く頷いている。
俺はなるべく苦労したくないんですけど?
自慢じゃあないですけどね、俺は確かにゲーマーではあるけど、難易度を高くして遊ぶタイプじゃないんですよ。
ペルソナなんかも、なんとなくプライドもあってノーマルを選ぶけど、イージーしとけばよかったと後悔したし。
ファイアーエムブレムで、ルナティックで遊ぶとか絶対しませんからね。
青ざめる俺を尻目に、実羽さんはますます調子づく。
「底辺からどこまで這い上がってこれるか……楽しみだな」
ばっちりネイルアートされた手をもみもみしながら、うきうきしている。
俺は絶望だよ。
ハードモードなんて、絶対今回限りにしようと思っていたのに、星乃さんも実羽さんもハードモード希望とは。
星乃さんはわからないが、実羽さんは別にハードモードじゃないと攻略できないわけじゃないのだろう。
早めに攻略すべき相手だった……そういうことだ。
悔やんでも悔やみきれないぜ、ちくしょう。
「さて、今回は義朝くんを攻略するんだね」
「うん」
義朝を選んだ理由。それは合理的というか、現実的というか。
一つはどうも登場する条件がよくわからなく、今回は同じ部活なのでいいが次に出会えるのとは限らないということ。
もう一つはせっかく『TS』を選んだんだからそうしないともったいない。そういう理由だ。
だって星乃さんを攻略するためのスタートで『TS』を選ぶのは損だ。
星乃さんはもともと巨乳なので、『巨乳化』はいらないにしろ、『ラッキースケベ』があった方が嬉しいに決まっている。
そこで義朝に決めたからには、実羽さんにも協力してもらおうと相談したのだが……まさか星乃さんと同じ条件を提示してくるとは。
「星乃さんが言うには、義朝は本来、女の子らしいんだ」
そう。
これが今、義朝攻略のモチベーションが上がっている理由だ。
単にもったいないからという理由だと、いまいち乗り気にはならないのだが、実羽さんの協力を早めにもらおうと思うまでになったのは、星乃さんからこの情報を手に入れたためである。
ずっと義朝は男だったわけで、女の子に見えるのは『TS』というクリア後の特典によるものだと思っていた。
つまりこのゲームとしては、男性も攻略相手であり、あくまでも『TS』はボーナスだと。
ところがだ。
「え? 女の子だったの?」
「体はね」
性同一性障害とかトランスジェンダーとか……そういったことを俺は詳しくは知らないのだが、要するに義朝の生前の体は女性だった。星乃さんが言うには、精神が男性だったからこの世界では男性として登場したのではないか……ということらしい。
だとすると、今の『TS』を実装している今こそが本当の義朝ということになる。
「ってことは、恋愛対象が男性じゃないかもしれないってこと?」
実羽さんの声のトーンが変わった。
ちょっと複雑だし、話題として軽くないからな。
「そうなんだよなあ……そもそもあいつは、ロリ……いや、小さい女の子が好きだし」
そう。
肉体が男だったときの義朝と、中身は変わっていないのである。
まぁ、舞衣を可愛いと思うのは全人類共通だと思うが……。
ふむむと考え込む俺に、実羽さんはぴこーんと人差し指を立てた。
「むしろ、普通の女の子が恋愛対象じゃなかったからそういう発言になったんじゃ」
「……! 確かに!」
仮に俺が女の子になったとして。
好きな男の話になったら?
とてもじゃないが、クラスメイトや男教師の名前など上げられない。
小さな男の子だったら、俺でもそりゃあ可愛いと思わないこともないな。
「かといって、男の子を好きになるかどうかはわからないってことか」
「そうなんだ。とにかく情報が足りないから、義朝のことがわかったら教えて欲しい」
親密度がわかっても、恋愛対象としてなのか友達としてなのかいまいち判別できない。
そして、どうすれば義朝の親密度が上がるのかもよくわからない。
このような状態のため、星乃さんや実羽さんの協力は不可欠だと思った。
「よし、頑張りましょう。ハードモードのロトさんの頼みですから」
……多額の借金を背負った気分だ……。




