異世界メモリアル【11周目 第9話】
「おいロト」
「なんだよ」
「溺道を舐めるなよ」
「舐めてねえよ!」
「は? ふざけんなよ」
「ふざけてねえよ!」
俺がふざけてるだと。
それこそふざけるな。
俺は一刻も早く死にたいんだぞ。死にたいのに、死なずにやってんだぞ。
「とにかく駄目だ」
「なんで!? 俺は溺道だけが生きがいなんだよ!」
「その格好じゃ、こっちがやる気しないんだよ!」
クッ……。
やはり見た目か。
「見損なったぜ、義朝。見た目なんかで人を判断するとはな」
「そんなこと言っても駄目だからな。ちゃんとしてない方が悪い」
駄目か……。しょうがないか。
11周目はとにかく状態異常になりやすい。
ヤンキー状態から回復したと思ったらガリ勉になったが、ようやくガリ勉が終わったと思ったらまたも状態異常だ。
部活動しか興味のない俺は、授業と運動部以外何もしてない。結果、芸術が0になった。
そんな俺がなったのが『野暮』です。コモンセンスが無いというか、感性がズレているというか。そういうヤツということらしい。
この状態だとまともな格好が出来ない。
とにかくクソダサい見た目になるため、容姿が-50となる。
それはまぁ、どうせ0だからぶっちゃけどうでもいいと思っていたが。
「その水着でふざけてないって……プッ……くくく」
「クスクス……」
周囲からも失笑を買っている。
俺だってなんでこんな水着なのかわかんないんだっての。
なぜか着ている俺の水着は……いうなれば女児が身につけるようなデザインだった。ワンピースタイプで胴体は全部隠れていて、ひまわりの柄。腰の周りにフリルみたいなのがついている。
確かに、ふざけているようにしか思えないか……仮に男の義朝がこんな格好だったら、ふざけていると思うだろう……。笑っちゃうかもしれない。
ただ、俺は今容姿が0ですからね。笑えないくらいクソダサブサイクなんだよな。やっぱり死にてー!
「はぁ……」
プールから出て、着替える。さすがに制服は変更されないらしく制服のままだが、ひどく趣味の悪い眼鏡を強制装着。やたらでかくて、薄くサングラスっぽくなってて、フレームがデコられている。
ガリ勉のぐるぐる眼鏡もダサかったが、これはわざとらしいからサムい。
やはりこの状態異常を回復させるのが優先か……芸術を向上させるしかないということだ。
とはいえ、どうやって上げたらいいものか。
溺道をやめたら生きている意味すら無いので、部活を変えるわけにもいかない。
部活以外で絵を描くか、音楽をやるか。ダンスという手もある。
……どれも、死にたいと思いながら出来るようなことじゃないぞ……。
「……実羽さんに会いに行くか」
ボランティア部の部屋の前。
正直、開けるのが憂鬱だ。
でも、俺は彼女が人を見た目で判断するような人じゃないと信じるぜ!
「実羽さ~ん」
「あ、ロトさん……うわー」
引いてるわ~。
がっつり引いてるわ~。
「ごめんね、おとなしく不登校やってヤンキーになってから出直すよ」
「待って! さすがにそれを望んでいる人だと思われたくないんだけど!?」
「いや、わかる。わかるよ。いくら状態異常のせいだって、クソダサブサイクを見るのはしんどいよね。せめて実羽さんの好みに近づけて来ないとね」
「これでロトさんをすんなり帰すと、カルマが上がっちゃうんですけど!?」
俺が女の子の親密度を上げるゲームをしているように、彼女はいい人になるゲームをしている。悪い人っぽい行動や言動は、かなりのダメージになるようだ。
とりあえず、このまま帰ってはいけないようなので、ドアを後ろ手に閉めて、彼女の近くの椅子に腰を下ろす。
「ごめんごめん。じゃあ、ボランティア部に助けてもらうようお願いするよ」
「何を?」
どうやって芸術を上げたらいいか……?
いや、違うな。
もう、めんどくさい。
「早く死にたいんだけどどうしたらいい?」
「あー! もー!」
実羽さんは手を上げて叫んだ。
「それ聞いて死に方教えるわけないじゃん! 何聞いてんの!?」
おおう……。
おっしゃるとおりなのだが、口調が……いや、こっちが素な気がする。妙に似合ってるというか。
「なんで死にたいなんて言うの」
実羽さんは、目をすっと細めつつ、髪をばさっとなびかせ、長い脚をすらっと組んだ。似合うなあ……。
「ほら、だって俺ってブサイクだし? ダサいし? 頭も悪いし? 料理も出来ないし?」
「だからと言って死ななくても……」
「義朝の胸を揉むことくらいしか、生きる目標がないし?」
「……」
「ほら、今、実羽さんだって、死んだほうがいいじゃないかと思ったでしょ?」
「だから、私のカルマを上昇させないでよ!?」
別にそういう目的だったわけではないのだが。
「どうせ、俺のことなんて誰も好きになってくれないから」
「……そんなことないよ」
「え? ああ、実羽さんは俺がヤンキーだったらアリなのか」
「べ、別にそういうわけじゃないし!」
「いやそれ、もうそうだって言ってるようなもんなんだよなあ……」
うんうんと頷く俺を、むーっと睨む実羽さん。いいんだよ。認めちゃいなよ。
「……星乃さんに聞いてみたら」
「え? 星乃さんは出会ってないけど」
そうなのだ。今回はなぜか出会っていない。というか、条件もよくわからない。
「出会ってなくても、聞けるじゃん」
へ?
どゆこと?




