異世界メモリアル【11周目 第8話】
この部活の溺道なるもの。
当然ながら死人は出ていない。
しょっちゅう意識は失うようだが、溺れてもすぐに助けられるため、そうそう人間は死なないようだ。
だが、俺は諦めない。
諦めなければ、死ぬことだってできるはずだ。
絶対に死んで見せる。
それに……。
「ロトも溺道部に入ったのか、よろしくな」
義朝がいた。
死にたい一心で選んだ部活だが、実は義朝の所属している部活だった。
しかも……。
「よ、義朝はなんでそんな水着なんだ」
信じられないくらい面積が少ない水着だった。お尻は丸出し、胸も九割見えている。ごくり。
女の子の義朝は、非常に健康的で豊満なボディをしている。そんな義朝がここまでセクシーな水着を着ていると、もはや少年誌のグラビアではなく、週刊誌の袋とじレベル。
「そりゃ、溺道の最上位の尻出だからだよ」
「し、しりだし……」
「ああ、初心者だもんな。説明してやるよ」
義朝の説明によると溺道は強さのランクがある。
柔道に白帯と黒帯とかがあるように。
身長、体重、性別も関係ない格闘技の溺道だが、ハンデキャップがある。
それは、水着の面積。
もともと溺道のルールは、水着は触れてはいけない、触っていいのは水中の地肌のみ、というのがある。
そうしないと股間を攻撃していいことになるし、男女混合の格闘技だから、どこを攻撃していいのかわからない。
そこで初心者は水着の面積を多く、上段者は水着の面積を少なくするというルールになったと。
それによって初心者も上段者も一緒に闘うことができる……ということらしい。
義朝は最上位だから露出も激しいと……素晴らしいことですね。
俺は膝から先と、肘から先しか露出していない水着を着ている。肘は見えているが、膝は見えていない。半袖半ズボンみたいな感じ。
「ロトは膝隠になる」
「ひざかくし……」
膝も見せられないほど弱い、ということらしい。
確かに、これほどハンデがあれば有利な気もする。
それでも手を引っ張って、足を決めれば溺れられるだろう。死ねる、死ねる。
「膝隠とやるのも久しぶりだし、いい試合になるかもな」
「義朝と? 俺がやるの?」
「おう、かかってこい。遠慮するなよ?」
「マジで? 遠慮しなくていいの?」
「バカにするなよ? ジュニアでは最強だったんだぜ」
入学したばかりで最上位のクラスであるということだから、そりゃ強いんだろう。今までの実績があるんだろうぜ。そこは疑っていない。
「水着に覆われていない、素肌なら掴んでいいんだよな?」
「もちろん」
遠慮しなくていいのかと聞いているのはそっちの方だ。
だって、ティーバックでお尻は丸出し。胸はぎりぎり肝心な部分を隠しているだけ。
要するにどこも触り放題だ。
一刻も早く死にたい俺だが、ここは『TS』を選んでよかったという思わせてもらうぜ。
二人ともプールの中に入り、スタンバイ。
柔道や剣道のように、
「よし、来ーい!」
「お願いします!」
絶対に勝つ!
なんて気持ちは皆無!
全力でお尻を触りに行く!
「ごばばばばば!」
知らない間に腕を取られて固められてた。
何がどうなってるのかもわからないスピードだし、突然水の中に顔が沈むと冷静ではいられない。
まさに溺れるという感じだ……死にそうだ……!
死ねるかも。
死ねるかもしれない……いや。
死ねない。
まだ俺は死ねない!
尻を触るまでは!
「おっ?」
陸地ではできない体勢を取れるのがこの溺道の特徴だ。
足を上に、潜ることで脱出。
あえて潜水していくことで距離を取った。
ここから足首を掴んで引きずり込む。それを警戒して構えを取っているようだ。
馬鹿め、義朝。俺はお前の足首など狙っていない。
ただ尻を触りたいだけだ!
俺は手を後ろに隠して尻に特攻。
肩は水着に覆われているから、止めることはできまい。
頭から近づいて、脚を防御しているスキに尻を揉む!
「頭ががら空きだぜ」
「!?」
頭を両手で掴まれた!?
そうか、首から上は水着を着てないし、水上での攻撃は禁止だけど、今は潜っているから、反則じゃないのか。
水中に潜ると頭も攻撃対象になると思っていなかった、ヤバい!
義朝は左手で頭を掴んだまま、右腕を俺の首に回してロックした。水中でのヘッドロックはマジで死ぬ!
い、意識がなくなりそうだが……もうちょっと頑張れ!
なぜなら、なぜなら肩におっぱいが当たってるからだよ!
『ラッキースケベ』を持っていたときは、このくらいしょっちゅうだったが、久々の感覚だ!
肩に意識を集中しろーっ!
死んでもいいから!
死んでも……いや、よくないね。
なぜなら、まだ尻を触っていないから!
「むごおー!」
義朝の太ももを掴んで持ち上げる。このまま回転して義朝の頭の方を水中へ。
「ぷはーっ」
ようやく息を吸うことが出来た。
よし、これで俺が水上、義朝は水中。
形勢逆転だ!
と油断したら……
「い、痛えーっ!?」
足首をキメられた!?
水中の義朝はどうやら俺の足首を腋に締めて、捻り上げている。
プロレスで言う、アキレス腱固めというやつだ!
「ギブアップー!」
周りからドッと笑いが起こる。
溺道は基本的に溺れて負けるもの。
顔を水につけずに負けを宣言するというのは、一番恥ずかしい負け方……ということを後で知った。
義朝の尻を揉みしだくまで、俺は死ねない。
中学校のとき水泳部でした。
男子はみんなこれと似たような遊びをしていた……と思う。ええ。
女子はしません。バカじゃないから。




