異世界メモリアル【11周目 第6話】
夏休みに入った。
中間試験はもちろんほとんど0点だったが、そんなことはどうでもいい。
俺は早く死ねればいいんだ。
目的は死。
目標は一刻も早い死。
こんなハードモードとかいう馬鹿げたものはさっさと終わらせて、ノーマルでやりたい。
せっかく『TS』を選んだが、義朝なんて出会ってすらいない。
生きていてもどうしようもないし、早く死のう。死ぬためには、死ぬバイトをするしかない。
「舞衣、バイト、そろそろいいんじゃないか。時計も読めるし、階段も登れるよ」
「それだけでバイトできるかな。見た目もガリ勉だし……」
「ヤンキーならともかく、ガリ勉はいいでしょ別に」
ヤンキーでもボランティア活動めっちゃ出来たしな。
見た目がガリ勉だからバイト出来ないってこともないだろ。女装メイド喫茶は無理かもしれないけど。
「うーん」
なぜ悩むのか……。
「バイトはね、死ぬやつね。犯罪でもいいから死ぬやつ」
犯罪じゃなくて死なないバイトを頼んでいた頃を思い出す。
そんなの言うまでもなく当たり前だと確信していたが。
まさか犯罪でもいいから死ぬバイトを頼むときが来るとはな……。
「うーん」
渋るなあ。
前は犯罪になるやつとか、死ぬかもしれないやつをポンポン提案してたのに。
「要人警護とかさー」
俺が唯一死んだことのあるバイトだ。
唯一死んだことがあるって言うのも、変な話だが……。
「うーん」
なんか首をひねっている。
舞衣はバイトの提案をする際、何かを見たり調べたりしない。
なぜか知っていて、なぜか三択だ。
いまさら、なんでこんなに出し惜しむのか……。
「雪山とかでもいいよ?」
ほんとは寒さで死ぬのはつらいのだが。
ヘッドショットとかで楽に死にたいものだ。毒でもいいが。
「……じゃあ、死ぬかもしれないバイト、舞衣ベストすり~!」
「パチパチパチパチ」
楽しみだー!
どんな死に方なんだろう。
「お金はどうでもいいからね、危険度優先で!」
「うーん、はーい」
わくわく。
早く死にてー!
1.冒険島
2.最後の戦い
3.子ブタ
うん、相変わらず全然わからねえ!
「説明を頼みます」
バイトの詳細はちゃんと聞かないといけない。
じゃないと死ねないかもしれないからね。
きちんと危険なやつを選ばないと。
「冒険島は石オノを武器にして敵を倒しながら進んでいくみたい。雲の上とかも走れるって」
「うん、まさにアレだね。そしてアレは激ムズなんだよ。いいね、死にそうだね」
「さらわれた恋人を助けて欲しいって」
「自分でいけよ!?」
名人なにやってんだよ。バイトにやらせんなよ。
とはいえ、死にやすそうだ。すぐ死ぬイメージある。
「最後の戦いは、超犯罪都市の市長の娘がさらわれたから助けてほしいって」
「はいはい、ファイナルなファイトだね」
「市長の依頼だね」
「自分でいけよ……って思うけど、まぁ普通は自分で行かないな」
マッチョで腕を振り回して「デヤーッ」って出来る市長のほうがレアであろう。
これもまあ死ぬか。敵は銃とかナイフとか持ってたはずだ。
「子ブタとは?」
これはまったく意味がわからない。
バイトの名前じゃない。
「オオカミから子ブタを守って欲しいって母ぶたからの依頼です。オオカミは風船で飛んでくるから弓矢で倒してくださいって」
「あー、あれか」
母ブタも息子を守るのにアルバイトに頼むなよ……どいつもこいつも。
まぁブタが弓矢が使えるほうがヘンか。
今回のバイトはレトロゲーム関係のものだったようです。
修学旅行はいつも知ってるゲームなんだが、バイトは別にそうとも限らないのだけど。
ま、それはともかく。
「でも、これ死ぬかな」
問題はそこなんですよ。
「オオカミが石を投げてくるから当たると死ぬかもって」
「うーん」
弱いな……超痛いだけで死ねない可能性が高いぞ。
なんでオオカミの攻撃手段が投石なんだよ。噛み付いてこいよ。
死ぬためには……1か2か……。
「バイト代だけど」
正直、死ぬんだからバイト代はどうでもいいが。
「1が10万円、2が30万円、3が豚肉だって」
「豚肉!?」
ブタを救うバイト代が豚肉。
シュールすぎる。
今回のハードモードの世界は『世界の基礎知識』が無いので、知ってる食材が出てこないから貴重ではあるけども。普段、なんだかわからない肉を食べています。
バイト代なんてどうせ死ぬからどうでもいいけど、さすがに3は無いな。
「……かわいそう」
「え?」
泣きそうな顔をしている舞衣。
どうしたのか……。
「1と2はバイト代が高いからきっと誰かが助けてくれると思うけど、3はお金じゃないし。多分誰も助けてあげないよね……子ブタさん……」
「3にします」
妹の心の優しさに負けた。
そしてバイトをしたのだが……。
「うをおおおお! 間違えたあああ!」
風船で落下してくるオオカミ共!
確かに、石を投げてくる。
しかし、それに当たって死んでしまったら……。
下で待ってる子ブタは食われてしまう。
つまり、俺は死んでる場合じゃないんですよ!
死にたくてバイトしてんのに!
「死ねねえじゃねえかー!」
このバイトは、ゴンドラに乗って子ブタを狙うオオカミを倒すのが仕事。
ゴンドラを動かす方法は、マニュアルに書いてあったが俺の学力でもぎりぎり理解できた。
オオカミは風船を持って落下してくるので、その風船を矢で割る。
無事に落下させてしまうと、子ブタは食われてしまうのです。
子ブタを持って逃げたいんですけど、それは出来ないそうです。まぁ、それが出来るならバイトにならないよね……。
弓を射っても、直接だと盾で防がれる。
風船を正確に射るのは難しく、打ち損じたらその分多く打たねばならない。
もちろんAボタンを押せばいいわけじゃなく、何度も弓を引かなければならない。
運動能力としては、弓矢はなんとかできるって感じで、連発するのはキツイ……。筋肉が悲鳴をあげる……。
「ブヒィ……」
母ブタが目をうるませながら、俺を見ている。どうやら応援してるっぽい。
「わかったよ、絶対守ってみせる」
そういうしかないだろ。
そもそも俺は絶対に舞衣に、豚肉を持って帰らなければならない。今夜は生姜焼きだって言ってたからな。




