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異世界メモリアル【6周目 第15話】


「ねえねえねえ、天皇賞行こう、天皇賞~♪」

「その日、ハロウィンなんですよ。児童館で子どもたちにイベントやるんで」

「あぁ、そっかー。すごいよね、ボランティア部。大活躍だよね」

「次孔さんのラジオのおかげだよ」


リズム天国に寄せられた、ボランティア部の活動への感謝の手紙は広く知られることとなり、ついに市長から表彰されるに至った。

学校新聞ではない、普通の新聞に取り上げられたり、テレビにも少し映った。


「また新聞部の取材とかラジオにも出てよね」

「もちろんいいですよ」

「うんうん。あとさ、菊花賞行こう菊花賞」

「わかりましたよ」

「有馬は? 有馬もいいよね?」

「わかりました。天皇賞行けないお詫びに有馬は行きます」

「ほんと? ほんと?」


こんなにしっぽを振っているかのような次孔さんの誘いを断れるわけがない。

どうもボランティア部での活動が評価され始めてから、次孔さんは明らかにぐいぐい来るようになった。

ニコ・ラテスラを攻略する際に理系学力が重要で、寅野真姫を攻略する際に運動能力が重要であったように、次孔さんについては部活動での活躍が重要視されるのだろう。

そのことは彼女との出会いの条件がそうであることから、推測できることだった。

甲子園とかインターハイとか、絵画展とか合奏コンクールとかだよな、普通。

ボランティア部で活躍とは、妙なことになったものだ。


さて、ハロウィンでのボランティアは成功を収めた。

もはや俺はアイドル扱いだ。サインや握手を求められるのにも、慣れてきた。

ボランティアが終わった後、実羽さんと俺は軽くお茶をする。こういうイベント終了時にはよく行う。いわゆる、打ち上げだ。

実羽さんは意外にもお酒が飲めない。お茶とケーキだ。見た目だけは、一番お酒を飲みそうなのになあ。この世界ではニコや舞衣のような飲まなさそうな女の子ほど、飲む気がする。


「お疲れ様」

「お疲れ様~。今日もモテモテだったね、女児に」

「ははは。可愛かったなー、みんな」

「喜んでくれてよかったよね」


こういうとき、実羽さんは本当に優しい顔になるんだよな。

ケーキも本当に美味しいし、最高だ。

やっぱり、このままずっと実羽さんと一緒に……。


「クリスマスはどうする?」


クリスマス……去年は二人でサボったんだよな……あれはいい思い出だった……。

来年も一緒に過ごせたらいいね、なんて言われたんだよな。

今年もイブはボランティア部の活動があるから、クリスマスはデートしたいよな。


「そうだね一緒に……」


そこまで言ってから気づく。

有馬記念っていつだ?

年末の競馬のグランプリである有馬記念は……。

生徒手帳のカレンダーを見ると、クリスマスだった。

マズイ。

この場合、どっちが先の約束になるんだ?


「ん。じゃ楽しみにしてるね」


そう言って紅茶を啜った。

どうしよう……今、謝れば許してくれると思うんだけど……。

いや、ひょっとしたら去年のクリスマスからずっと楽しみにしてくれていたとしたら。


「ふんふふ~♪」


懐かしい歌謡曲のハミング。

俺は何も言えなくなった。


「またやっちゃったんだよなあ……」


いや、やるよね。

ダブルブッキング。だってそういうゲームだもんね。

毎回二度とやるかよ、って思うけどさ……。

次孔さんに言えば大丈夫でしょ。


そしてその週のラジオ。


「次孔律動の、リズム天国ぅ~」


俺は、いつもどおりに気楽に、楽しみに聞いていた。


「今週はとってもイイことがあったんです」


そうなんだ~。よかったね~。

ゲストが来てるときのノリノリのパーソナリティもいいけど、こういう自分語りは癒やされる。

最近ハマってるお菓子の話とかでも、次孔さんが喋ってると面白いんだよね。


「今週あったことと言えば、そう、天皇賞ですよね~」


そうだよねー。ハロウィンじゃないよねー。競馬の話だよねー。

それにしても、この世界には天皇はいないのに天皇賞はあるのって不思議だよねー。

レースの結果は知らないが、当てたのかな。

次孔さんは基本的には当たらないからなー。馬の表情で買ってるからなー。


「そこで出会ったんです。ついに。ついに出会ったんです!」


出会った。ふーん。運命の馬に、みたいなオチかな。


「数年ぶりにお父さんに会ったんです」


そうなんだ~。よかったね~。

……えっ!? お父さん!?

確か、離婚して月に一度しか娘に会えなくなったのに競馬場にしか行かなかった人だ。

その後、次孔さんは母親とともに引っ越してしまい、それ以来会っていない。そんなことを以前言っていたと思う。


「お母さんと離婚する前からずっと競馬好きだったからいつかはと思っていたんですが、ついにね~」


そ、そうか。

それはよかった。

なんとなくやな予感がするのだが、次孔さんの声は心底嬉しそうだ。


「ずっと真面目に働いてたから競馬してなかったけど、ちゃんと生活費と別にお小遣いを準備して競馬を再開したんだって。よかったなあ」


うん。

それなら、よかった、ね。


「天皇賞は外しちゃったから、またしばらく会えないけど、有馬でまた一緒に競馬しないかって誘われまして」


お。

じゃあ、俺との約束はキャンセルした方が都合がいいじゃない。

よかったよかった。


「有馬はもう約束があるって断ったら、本当はクリスマスデートなんじゃないか、なんてからかわれちゃって~」


……どうしたの、次孔さん。

こんなに乙女なトーク、初めてですよ?


「本当に有馬に行くだけですよ。うふふ」


おおう……。

これを断るのは、なかなか厳しいな……。


6周目は誰を攻略するのか予想、感想でいただくのは嬉しいです。そう思いながら読んでくれるといいな、と思って書いているので。

感想によって攻略ヒロインに影響があるということはないです。ただ、感想によって出番が増えることはあります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 舞衣ちゃん、ニコちゃんとお酒飲みたい。実羽さんとお茶したい。 舞衣ちゃんに地元の地酒の銘酒を奉納したい。 [気になる点] ダブルブッキング魔で、うっかりマンのロト君よ、良い手があるぞよ! …
2020/05/09 13:20 にゃんこ聖拳
[一言] …そういえば二人同時に攻略しては駄目なきまりはないしここは両手に花でいいのでは?(名推理)ギャルゲーなんかはある程度同時攻略しておいてルート分岐のとこでセーブとかありがちですけどそういうわけ…
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