異世界メモリアル【4周目 第9話】
男、いや漢たるもの、見た目より強さ。強さこそが格好良さ。
そう腹をくくった俺はアイテムショップにやってきていた。
いつもの店では品揃えが少ない、との舞衣の助言によって電車を乗り継ぎ港町へ。
なにやら風光明媚な公園を散策した上で到着した。
さざなみは光り、フェリーはゆっくりと運行し、波止場ならではのポーという音が聞こえたり。
木漏れ日を身体に浴びながら歩く舞衣は、鼻歌を歌いながらジェラートを食べたりして、なんかデートみたいだと思ったが口に出すことはなかった。
店の中はいつもとそれほど何かが違うのか俺にはわからない。
なんせいつも妹の選択肢から選ぶことしかしていないのだから。
俺が普通に買おうとしたら効果を知らずにカネを払うことになってしまう。
ダウンタウン熱血物語のようにマグロの刺身を握りつぶしてパンチ力がアップ。みたいな買ってみないとわからない買い物をすることになるだろう。あれ意味わからないよね。
マッハキック覚えたいなあ。どっくーんと来たよーって言わせたいなあ。
そんなことを思っている間にどうやら妹によるアイテムのチョイスが終わったようだ。
「ではでは、めざせ天下一、舞衣ベストスリ~」
天下一か。さすが舞衣、良いことを言う。やっぱりロマンを掴み取らないとね。
ドラゴボのゲームはかなりプレイしたが、悟空伝は名作だった。カードバトルがアツい。
1.呪いの道着
2.ミートテック
3.風来の試練
3アイテムが提示された。慌てず騒がず詳細を聞くことが大事です。
「説明をお願いします」
「かしこまりました」
芝居がかった態度でぺこりとお辞儀をする舞衣。こういうところが控え目に言って可愛すぎる。
「1.はいくつもの武道家の血と汗を吸ったことで呪われてるよ」
呪われてるよ、とかにっこり言われても……。
とりあえずこれじゃ説明になっていないので質問をしよう。
「装備するとどうなるの」
「右ストレートだ―! とか いまだ、ハイキックだ―! とか強いおじさんがアドバイスしてくれるんだって」
ふむ、舞衣の演じる強いおじさんが可愛すぎてちょっとピンと来ないが、ヒカ碁みたいなアイテムだったか。
囲碁ならアドバイスされてもいいが、格ゲーだとウザすぎる。ないな。
「2の説明をお願いします」
「はいはい、えっと、これは最強の格闘であるスモウレスラーになれる服だね。肉がダメージを抑えてくれるから防御力アップ」
スモウレスラーが最強なのかどうかは兎も角、気になることが一点ありますね。
「それ容姿下がる?」
「下がるみたい」
やっぱりか……。
これ以上下げるのはマズい。
「じゃ最後ね。風来の試練は、日常が修行に変わる――。というキャッチコピーでお馴染み。持っているだけで艱難辛苦が起こるんだけど、必ず強くなるというある意味不運のアイテムだね」
お馴染みってどこでお馴染みなんだろう……。
ある意味っていうか完全に不運のアイテムだよな。なんでわざわざ大金出して買うんだよっていう気がしますね。
「死ぬ?」
「ちゃ~んと、死なないことは確認済みだよ」
人差し指を立てつつドヤっとした顔でそう言うが、死なないアイテムにするのは普通のことだからね?
ま、死なないならいいか……。
結局の所、簡単に強くなるパターンはどうせうまくいかないんだ。
「よし、3を買います」
「さっすがロト。そう来ると思ってたよ」
むふんと満足気に腕を組んで口角を上げる舞衣。
よくわからないが、評価が上がったようだ。ならばよし。
購入後すぐに装備したのだが、効果はそれはもう凄いものだった。
店のドアが重くて全力で押さないと出られないのは序の口。
明らかにお金持ちが連れた品のいいプードルが血迷ったように襲いかかってくるし、どこからか野球のボールは飛んでくるし、歩く歩道は故障してハイスピードで逆に流れる。
疲れる……。
苦労が耐えない様子を、舞衣はけらけらと笑いながら見ていた。
悲劇は見ている側にとっては喜劇、ということなのだろう。
しかしモチベーションは断然上がる。妹の笑顔のためなら頑張れる。
その後、部活と修行に明け暮れる日々が続いた。
夏が終わり、秋も半ばになった頃、それは起こった。
「おはよー、ロト……あー。あっちゃ~」
顔をぱっちーんと手のひらで覆う舞衣。
どうしたのだろう。
「ドウシタノ」
あれ?
自分の声がオカシイな。
「勉強と運動ばっかりで容姿や感受性をないがしろにしたことによる状態異常、ロボだね」
あー。
思わずこめかみを押さえるが、固い。言われてみれば皮膚が固いです。
ステータスが極端だとガリ勉以外にも状態異常があるのは想定していたはずなんだが。
それにしてもマッチョとかならわかるけどロボってなんだよ。状態か? 存在が変わってない?
「コレ、ドウナルノ」
まぁ片言しか話せなくなるという弊害はもうわかってるけど。
「運動能力が上がらなくなるのと、容姿が上がらなくなる。味がわからないから料理が下手になる。勉強は捗るようになるけど」
運動能力が上がらない時点でもう駄目だ!
それにしても味がわからないのツラすぎるな……。江井愛だって味はわかったのに……。
「ドウスレバイイカナ」
片言で妹に縋るというのは情けないことこの上ない。
本当、早く人間になりたい……。




