1話
新作「素肌のアトリエ」に目を止めてくださりありがとうございます。
当方の作品はPC環境で執筆しているため、
スマートフォンで読む際に「文字が詰まって見える」「スクロールが途切れる」など、
ちょっとした読みにくさを感じられる方もいるかもしれません。
快適に読み進めたいという方には、
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もし読みづらさを感じていたら、ぜひ一度お試しください。
これからも物語の続きを静かに紡いでいきますので、
暇つぶしで構いませんので、また寄っていただけると嬉しいです。
金曜の夜、アイビーは缶チューハイの袋を片手に、お蜜のアパートの階段を上っていた。
今日はバイトが早く終わり、珍しく二人の予定が合った夜だ。
つまみはコンビニの唐揚げと、ポテトサラダと、なぜかお蜜が好きな乾き物のチーズサンド。
二十歳らしい、まとまりのない組み合わせだった。
玄関を開けると、絵具のにおいが鼻をくすぐった。
散らかった筆、洗ってないパレット、壁にもたれた未完成のキャンバス。
お蜜らしい混沌の空間だ。
「アイビー、おつかれ。ほら座って、飲も飲も」
お蜜は缶ビールを二本同時に開け、テーブルに置いた。
アイビーは黒髪をひとつにまとめたポニーテールを軽く揺らしながら座り、缶チューハイを開けた。
T165・B93(G)・W61・H88という豊かなラインの身体は、普段は隠されているが、
飲みの席ではお蜜にしばしば“観察対象”にされる。
缶が三本、四本と空く頃には、お蜜の頬はすっかり赤い。
目がすこし潤んで、語尾が伸びるいつもの酔い方だ。
「ねぇアイビー、今日の私、ちょっと描きたい気分なんだよねぇ……」
「キャンバス描けばいいじゃん」
「ちがうの。キャンバスが平面すぎて退屈なの。線が走らないの。乗らないの」
アイビーは笑って、唐揚げをつまみにした。
「またそれ? この前も言ってたでしょ。平面に飽きたって」
「飽きたの。世界が平らに見えるの。
もっとこう……“流れる面”がいい。立体で、呼吸してる感じの」
お蜜はテーブルに転がっていた細筆をひょいと拾い、アイビーの腕に向けてのぞき込んだ。
「……描いていい?」
この一言が、妙に真剣だった。酔っているくせに、目の奥だけが醒めている。
アイビーは苦笑しながらTシャツの袖をまくった。
「腕くらいなら。ていうか、筆インクついてる? 乾いてるやつじゃ――」
言い終える前に、お蜜は筆を絵具皿に突っ込んだ。
赤、青、金、混ざってはいないが、混ざりかけている混沌の色。
「動かないで。線が逃げる」
筆先が肌に触れた瞬間、アイビーは肩をすくめた。
ひんやりした絵具が、細い線になって腕を走る。
痛くも気持ちよくもない。ただ、知らなかった感覚があった。
「なにこれ……変な感じ」
「変じゃない。面がいい。カーブがいい。あぁアイビー、やっぱり平面より全然いい……」
お蜜は酔っているはずなのに、筆の動きだけは異様に正確だった。
鎖骨、肩の丸み、上腕のねじれ。身体の地図をなぞるように、色が走る。
「お蜜、ちょっと、そこ冷たい……」
「黙って、集中してるから……あぁ、この線好き……呼吸で揺れるの最高……」
完全に“芸術家のスイッチ”が入っていた。
アイビーはまた笑った。酔いも混じって楽しくなり、立ち上がって鏡の前に移動した。
腕から肩にかけて走る色は、ただの落書きのはずなのに、思った以上に綺麗だった。
「ねぇ、これさ……思ったより、すごくない?」
「だよねぇ!? アイビーの体、絵が乗るんだよ……キャンバスよりずっと……ああもう、
ほんと好き……この立体……」
お蜜は完全にテンションが上がっていた。酔いでふにゃふにゃの声なのに、言葉は妙に熱い。
「これさ、ちょっと外歩きたいよね」
「歩かないよ!?」
「三十分だけ! 夜だし、暗いし、見る人いないし!」
「いや絶対いるって……!」
結局、酔いと勢いと、お蜜の押しに負けて、二人は部屋の外に出た。
アイビーは上着を羽織りつつ、袖をまくって色のついた肩を覗かせた。
夜風が当たると、絵具の乾きかけた部分がかすかに冷え、
身体の表面だけ別の温度になったようだった。
歩くたびに色が揺れ、お蜜はそれを見ては「生きてる……最高……」とふらふら喜んでいた。
三十分の散歩が終わる頃、アイビーは気づき始めていた。
——この夜が、なにかを始めてしまったのだと。
■ アイビー
20歳/フリーター(Barのバニーガールがメイン)
T165・B93(G)・W61・H88。黒髪ポニーテールがトレードマーク。
スタイルは派手だが、性格は案外サバサバしていて、
相手に深入りしない距離感を保つのが得意。恋人はいない。
だが、寂しさを抱えたまま“都合の良い関係”を数名と続けてしまう、
そんな影がどこかにある。
バニーガールという仕事柄、他人からの視線を受けることには慣れているが、
それを「武器」だとか「魅せる力」だとか、そんな風に受け止めたことは一度もなかった。
ただ、流れのまま勤めているだけのつもりだった。
ところが──お蜜との宅飲みが、その感覚を静かに変えていく。
筆を当てられた夜。
肌に色が乗り、線が走り、自分の身体が“作品の一部”になっていく感覚を初めて知った瞬間、
アイビーは理由のわからない高揚に包まれた。
見られて恥ずかしいというより、“見せてもいい”という感覚が胸の奥でゆっくり灯り始めた。
露出が目的ではない。
けれど、色を纏った身体が夜風で揺れたとき、
自分の輪郭がいつもより鮮やかに感じられたのも事実だった。
お蜜の「描きたい」という衝動と、
アイビーの「見せてもいいかもしれない」という微かな熱。
その二つが重なったとき、彼女の人生の線は、ほんの少しだけ、新しい方向へ走り出す。
この作品では、
“身体を表現へ変えていく若きアイビー”の成長と、
彼女が気づかなかった“内側の好奇心”が描かれていく。
■ 蜜花(お蜜)
20歳/美大生(絵画科)T158・B84(D)・W56・H82
スレンダー美乳の、線の細い体型。
絵具の匂いと徹夜がよく似合う、芸術家気質の女子。
髪は無造作に束ねっぱなし。
基本スウェット、パレット跡、筆の持ち歩きがデフォルト。
授業よりも“自分の線が正しいと思う方向”へ迷いなく進むタイプで、
教授からは「扱いづらい」、同級生からは「なんか天才ぽい」と言われる存在。
酔うとスイッチが入りやすく、普段はぼんやりしているのに、筆を持つと人が変わる。
台詞の癖は独特で、
「線が走る」「面が呼吸してる」「平面に飽きた」
といった、芸術家特有の言語で世界を説明しがち。
アイビーとは“飲み友達”として仲が良く、
酔った勢いで彼女の身体に筆を入れたあの夜を境に、お蜜の内側で火がついた。
平面のキャンバスでは満足できなかった彼女に、
“立体に色を乗せる喜び”を初めて教えたのはアイビーだった。
やがて二人の遊びは、遊びでは収まらない“表現”へと変わっていく。
■ 力也
25歳/セミプロの筆師。T180前後・推定85kgの筋肉質。
美大出身と思われるが詳細不明。
ニッチなボディペイント界隈では名が知られつつある、
“線を読む”技術に特化した職人タイプ。
真面目にも見えるし、不真面目にも見える。
どこかつかみどころがなく、出会った相手の印象が一致しない謎の男。
既婚か未婚か、本人は決して語らない。
ただし夜の交友関係は広めで、“遊んでいるらしい”という噂だけは絶えない。
お蜜とは一応の顔見知り。
学生時代に制作で関わったのか、互いに多くを語らない微妙な距離感がある。
だが技術に関しては認め合っているようで、リッキーの筆にだけ見せる“集中の気配”が
お蜜にはわかるらしい。
言葉数は少ないが、モデルの身体を一瞥しただけで
「どこに線が通るか」を即座に判断できる。
愛美やお蜜にとって、“遊びと芸術の境目”を揺らす存在になる。




