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二度目の人生は離脱を目指します  作者: 橋本彩里
黒と獣人奴隷

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7.能力発現


 少年は獣耳をぴくぴくっと動かしながら、一度鎖へと視線をやった。それから仲間の様子を見て、息をつくと口を開いた。


「彼は俺たちの血を入れられていた」

「血を? 彼は人間よね?」


 この世界は種族を超えて結婚することはあるし、タブーではない。だが、能力や生活習慣、寿命などそういったものから、同じ種族で結ばれることのほうが多い。

 混血種がいるので血が混ざること、子を作ることに問題があると聞いたことはないが、外的に血を入れることは彼の姿からあまりよくないものなのだと思えた。


「偉そうな人族のおっさんが、他種族の血を入れてどのような能力が出現するかって話してた」


 少年が不承不承、聞こえるか聞こえないかの声でぼそりと告げた。

 ぴったん、ぴったんとしっぽを打ち付ける姿は、これまでのことを思い出しているからか。


 ――そう簡単に人を信じられるわけないものね。


 自分たちを虐げた同じ人間の私が味方かわからないが、インドラの力を見て獣人族であると気づいたのだろう。

 彼女がいるので、話してくれるようだ。そういう意味でもインドラを連れてきてよかった。

 その彼女が視線を(かげ)らせながら、どういうことだと考え込んでいた私に説明をくれる。


「能力……。聞いたことがあります。世の中には想像もつかない変わったスキルがあると聞きますし、何か目的があってそういうものを使ったと言われても不思議ではありません」

「つまり、彼らは実験のためにここに閉じ込められていたということ? しかも、この子爵領で」


 死に戻り前、最初に発見された遺体は三人分。

 正気を失ったこの少年はこの段階で生き延びたのだろうか。もしくは失敗して、証拠隠滅に殺された?

 わからないが、どのみち気分が悪い。これには言いようのない衝撃を覚えた。


 死に戻り前のこの国での奴隷の広がりは、人族至上主義(ヒューマニズム)からくる亜人差別により始まったと思っていた。

 一度隣国の獣人国と戦い勝ったことも起因するのだろうが、特に獣人族への差別はこの国はひどい。

 だが、こうなってくるとそう単純な話ではないのかもしれない。


 怒りがこみ上げる。

 死に戻り前の理不尽も、それを知らなかった無知も。


 だけど、今、知った。

 逆に言うと、被害が広範囲に及ぶ前に知れたことを前向きに捉えるべきだ。

 私はぐっと手に拳を握った。


 ――この領地での企みはとことん邪魔をしてすべて潰してやるんだから!


 どうしようもない怒りで目の前が真っ赤になる。死に戻り前のこともあって、持っていきようのない憤怒が全身を支配した。

 それらはしばらくぐつぐつと煮えていたが、ある一点を超え何かが頭の中で弾け、目の前が白く明るくなる。


「あっ」

「どうされたのですか?」


 私の異変を感じ取り、すぐさま様子をうかがってくるインドラ。


「多分だけど、スキルが使えるようになったわ」

「それはすごいですね。さすがお嬢様です」


 インドラがきらきらした眼差しを向け、獣人少年が驚いた顔をした。

 怒りでスキル発現とはと私は苦笑しながら、自身のスキルを確認する。脳内に説明書が流れてくるような感じだ。


「えっと、ちょっと待ってね。インドラ、把握するのに少し時間が欲しいから外の様子は常に警戒しておいて」

「わかりました」


 外のことはインドラに任せ、なんとなく今確認してみるべきだと感じた。

 獣人少年も襲ってくることはないだろうと、スキル内容に意識を向けるべく目を瞑る。


 ――えっと、これね。……これは、どういうことかしら?


 死に戻り前と大きく違うことが二点。

 黒い欄があるのは変わらないが、それは死に戻りスキルがあった場所だ。どうやらあれは一回きりだった模様。


 そして、死に戻り前で黒い欄だったところが聖女スキル。初めて聞いた。

 死に戻り前のマリアンヌは回復スキルが優れていたから聖女認定された。これは間違いない。だけど、私のものは聖女スキル。


 説明をざっと読むと、回復スキルの上位版といった感じだ。

 上限がなく、使えば使うほど幅が広がっていく。

 さすがに死者は蘇らせることはできないが、高レベルの回復スキル持ち以外でも諦めるような傷や病気も治せるらしい。


「…………なるほど」


 私は思いもよらぬスキルに、たらりと汗を流した。



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