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二度目の人生は離脱を目指します  作者: 橋本彩里
黒と光 sideベアティ

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願いと救い


「僕たちを許すの?」


 遊戯の理由を白状したアベラルドの問いに、エレナはベアティとシリル、そして双子たちへと視線を移動させ曖昧に微笑み頷いた。


 ――ああ、嫌だ。


 ベアティは軋む胸に顔をしかめる。

 嫌だからこそ、少しの違和感も見逃したくなくて。自分の付け入る隙がないか、エレナの呼吸一つ、すべてから考えを読み込もうと耳を澄ませた。


 双子は顔を見合わせ頷き合うと、ミイルズが口を開いた。

 もともとミイルズは話したそうにしていたし、自分たちがいないあのわずかな時間で心情を変化させるような話がされた可能性もある。


 だって、エレナなのだ。

 俺の光――、その光はとても柔らかでひときわ眩しい。それに触れたくて、少しでもそばに寄りたくて、手を伸ばしたいと思うのは何も自分だけではない。


 見つけた時の気持ち、救われた心は、エレナを知れば知るほど満たされ癒やされる。

 それらを独占してしまいたい。


 だけど、そうするとエレナはつぶれてしまう。逃げてしまう。

 そばに置いてもらえなくなる。


 だからしない。できない。

 それをすることは自分でも許されないとわかっているから、ベアティはエレナのそばにいるといつも葛藤する。


「僕たちの妹を助けてほしい」

「妹?」


 エレナは思案気に双子を見た。

 その表情はすでに双子の仕出かしを許していて、その先へと気持ちが向かっているのがわかる。


 エレナはこちらが驚くほど切り替えが早い。

 エレナにとって、まるで些細なことのように受け入れてしまう。


 どうしてそれほど余裕があるのか。出会った当初から変わらない姿は眩しい。

 だけど、生き急ぐように領地で活動する姿は、領地を大事に思う気持ちだけでは説明がつかず、その緩急の理由がわからずベアティをさらに不安定にさせた。


 ――ああ、やっぱりこうなるのか。


 ベアティは抱きつぶさないように、だけど少しでも密着できる場所を増やすために腕に力を入れる。

 その行動を咎められないことが、唯一の救い。

 存在を主張しても、エレナは受け入れてくれる。それを確認し、少し気持ちを落ち着かせた。


 双子曰く、妹は腹違いで獣人との母親との間にできたハーフなのだそうだ。

 そのため迫害を受け、まともな治療を受けられない。その存在は隠されてきた。父親も母親の機嫌をうかがい、妹を閉じ込めるだけで何もしない。


 まるで死ぬのを待っているようだと、双子は嘆いた。

 母親は違えど、獣人の血が流れていたとしても、まぎれもない自分たちの妹なのだと、双子は悲痛に訴えた。


 エレナが瞼を伏せて考え込む。

 ベアティは眦に懐くように自分の額を擦り付けた。


 ここにいるよ。忘れないで。


 エレナの意識が自分以外のものに向くたびに、どうしようもなくくすぶる想い。

 認めていない相手にはそれがさらにどしりと重くなり、このどろどろしたものを悟られないようにするのに必死になる。


 双子も双子だ。少し前まで迷っていた様子だったのに、なんて勝手なのだと苛立ちが最高潮になる。

 だけど、口を挟むことはできない。


 苦しんでいる人がいると知ってしまったエレナは、きっともう放っておけない。

 ならば、これまで以上にそばにいるしかない。

 少しでもおかしなことをすれば、エレナが悲しむようなことをすれば、これまでのように二度と近づかせないよう徹底的に排除する。


「そうですか。我が領の方針やシリルもいるからというのも関係してそうですね。実力はわからずとも、妹さんに会わせるのに、話すに値するかも見極めるため探りも入っていたのですね」


 冷静にエレナが分析する。

 どうしてこんな時ばかり大人な対応をしてしまうのか。


 そして、エレナの力は慈愛の力。

 エレナのスキルは、エレナという人物に相応しく、だから与えられたものだとベアティは信じていた。エレナだからこそ、誰も成しえなかったことを成してしまう。


 ――自分などいなくても変わらない。


 また、気分が落ちていきそうになる。

 ささくれていく気持ちが、目の前の視界さえも奪っていくようだ。


「ごめん。いろいろ試すようなことをして」

「いいですよ。ただの悪戯だけだったら距離を置いていたかと思いますが、妹さんのために見極めたいという気持ちは尊重します。先ほども言いましたが、私たち(・・)に害をなす行動をすればこの話はなかったことにします」


 そう言って、ベアティとシリルのほうに視線をやるエレナ。

 彼らの妹のことを助けてあげたい気持ちはあるが、自分たちのほうが大事だと告げてくれている。


 無意識、あるいは当然の優先、選別。

 それらを自然に差し出され、ベアティは無性の喜びで熱くなる胸を押さえた。



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