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二度目の人生は離脱を目指します  作者: 橋本彩里
黒と獣人奴隷

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5.救出作戦


 公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵と貴族位で言えば、子爵家は下から数えたほうが早い。

 あとは辺境伯とかは時代によって侯爵より力が上の場合もあるが、このロートニクス王国で今は辺境伯と名乗る家はいない。その辺、我がランドール子爵家が関わっているのだが今は関係ないのでこの話はまたにする。

 とにかく、子爵家といえども国境の山も領地となっているため治める領地は広い。


「ええっと、この辺だった気がするのだけど」


 山の中腹に洞窟があるはずなのだがと、私は侍女のインドラに抱っこされながらきょろきょろと辺りを見回した。


「お嬢様。怪しい者が洞窟の前に立っております」


 インドラが鼻をひくひくさせながら、向こうから見えない草むらに隠れる。

 ちなみに彼女は狼獣人で、鼻が利くしメイド服を着た華奢な身体つきなのに拳一突きで岩を削るほど力強い。

 獣人はある程度の年齢になると、耳やしっぽを出さないようにコントロールできるため、見た目は人族と変わらない。


「ビンゴよ! さすがインドラね。中には人がいそう?」

「……本当は危ないことをしてほしくないのですが」


 今からでも考え直しませんかと困ったように見てくるインドラに、私はふるふると首を振った。

 奴隷斡旋する店について政治的なあれこれは父親に任せるつもりであるが、どうしても先に解決しなければならないことがあった。


「でも、インドラもわかるのでしょう?」

「はい。中に子供が数人いるようです。動いている様子はないのでかなり弱っているのかも。見張りはあの二人だけのようですね」

「だったら、今が狙い目じゃないかしら?」


 子供がまだ数人ということは、悪巧みも初期のはずだ。この後、どんどん規模が大きくなるので叩くなら今だ。

 それに死に戻り前では今から三か月後、ここで三人の少年少女の獣人の遺体が発見された。長い間食べ物も与えられずそのまま衰弱死したとのことで、どれほど苦しくひもじい思いをしただろうか。

 救える命があるのに、知っていて見ぬふりはできない。


 逆算して今頃かと計算したが合っていたようだ。

 失敗したらとか、見つからなかったらとか、本当は今日までどきどきしていた。

 このように不確かだったため騎士たちを動かせないし、説得力のある材料を提示できなかった。

 それでも諦めたくなくて、絶対彼らを助けるとインドラに無理を言って付き合ってもらった。


「そうですね。エレナお嬢様はそういう方でした。だからこそ、私はついていくと決めたんです」

「なら、お願い。他人任せで申し訳ないけれど、彼らを救うのに手を貸して」


 過去に何が起こるかを知っていても、私には力がない。

 だから、こうして頼ることしかできない。


「わかりました。ご主人様の望みは私の望み。命を懸けても全うします」

「それはダメ。命は懸けないで。あなたの安全も第一よ。でも、頼りにしているわ。私の願いは私たちに危険が及ばないこと、そして彼らの救出。それ以上のことはお父様たちに任せるわ」

「それを聞いて安心しました。では、参りましょうか」


 それからは早かった。

 インドラがあっという間に見張りの男たちを倒し、口を布でふさぎ縄をかけ逃げられないように木に括り付ける。


「おお~」


 思わずぱちぱちと手を叩く。

 インドラなら大丈夫だと思っていたが、圧倒的な実力差だ。次の見張りが来ないとも限らないし、さっさと救助だと私たちは奥へと進んだ。

 洞窟の奥に入ると、ぐったりと倒れた三歳くらいの男の子と女の子、私と同じ歳ぐらいの男の子が二人いた。


「ん? 四人?」


 しかも、男の子の一人は耳やしっぽも出ておらず獣人ではない。

 耳が尖っていないのでエルフでもなく、さらさらの髪なのでドワーフでもない。多分人間だ。


「お前たちは誰だ!」


 ふしゃあと猫族であろう獣人の男の子がしっぽを逆立てて、威嚇してくる。

 子供たちは首に枷をはめられ、鉄の鎖で岩と繋げられていた。


「私たちはあなたたちを助けにきたの」

「人間なんて信用できない」


 猫獣人の男の子はほかの子たちを守るように立ち、牙をむきだした。

 死に戻り前では気づいた時には酷い状態だったので、人間への不信感を募らせた獣人たちは人間(私たち)と距離を取った。そのため、悲しくも私はその生態をあまり知らず現在勉強中だ。


「傷つけるつもりはないわ。本当に助けたいだけなの」


 死に戻り前、私が最初に衝撃を受けた獣人族の子供三人の遺体発見。二度目があるなら、絶対彼らを助けるのだと決めていた。

 あんな悲しいことは二度と起こさせない。

 この気持ちに嘘はないのだと、私は安心させるように笑みを浮かべた。



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