36.双子の思惑
弟はどうやら反対している様子だが、ミイルズが構わずにこにこと話しかけてくる。
「エレナちゃんはマリアンヌちゃんと同じ回復スキル持ちだよね?」
「そうですね。スタレット様ほどのものではないとは思いますが」
死に戻り前、マリアンヌの回復スキルはすごかった。
助からないだろうと思われた怪我人を治したり、余命いくばくもない病人を救ったりしていた。
まさに聖女。
ちやほやされたい病や親友の婚約者を盗るなど自己中心的で性格に問題はあったが、彼女が持っていたスキルで助かった人々は多かった。
今はそこまで聞かないが、きっとこれからそういった話を耳にすることになるだろう。
「そうかなぁ。僕は領地を盛り上げ、人がたくさんついてくるエレナちゃんの力のほうがすごい気がするけど。確かにマリアンヌちゃんの回復魔法はみるみる傷が治って、ほかとはレベルは違うけどね」
治癒院での慈善事業に精力的に動いていると聞いていたが、そこに双子も一緒に行くことがあるらしい。
私も死に戻り前に彼女が魔法行使する場面を何度も見たが、とても神々しくて治癒が早くてすごいというのには言葉が足りないものだった。
――まあ、価値や見方は人それぞれだし……
紫の殿下のことといい、私自身が聖女スキルを得たことと同じでマリアンヌ自身や周辺も変わってきているようだが、前回同様彼女が回復スキルを持っているのは一緒だ。
きっと、また聖女だなんだと騒がれるのだろう。
もしかしたら、今は効果的に演出できるタイミングを狙っているだけなのかもしれない。
「ありがたいスキルのおかげと、周囲に恵まれているだけですよ」
正式名称は聖女スキルだがすべて回復スキルのおかげとしているのは、マリアンヌに絡まれるのを避け、権力者に目をつけられないためだ。
私が目に見えて力を行使するのは目立つ。
本当に必要としている人に力を使うことは躊躇わないが、ここ王都ではマリアンヌもいるし必要以上に回復スキルを使用するつもりはない。
そのための回復ポーションでもある。
せっかくのスキルなので困っている人たちの役に立てるよう、ポーションを開発した。
商品化する物は最上級の物と比べると効能は劣るが、それでも多くの人々を救うことができるはずだ。
王都にくるまでに間に合わせようと、家族も、なんとなく事情を察しているベアティたちも協力してくれた。
表立っての人々への行使は目立ちたいマリアンヌに任せておくほうが棲み分けもでき、睨まれることも減るだろう。
死に戻り前のことがあり、少しばかりマリアンヌの立場を追い込んだらどうなるだろうと考えたことはあったが、逆恨みで粘着され面倒になるだけだと却下した。
同じ系統のスキルを持っている以上、この形が理想だと私は思っている。
「エレナ様はすごいですから」
「エレナお嬢様は偉大です」
ベアティとシリルが背後からにこやかに告げる。
「二人も頑張ってくれたからよ。私一人では成し得ないことだもの」
スキルはただのスキルだ。
それをどう使うかによるし、今回のように幅広く活用するには多くの人の力が必要だ。
「やっぱり、僕はエレナちゃんに話を聞いてもらいたいな」
「ミイルズ。勝手に話を進めないで」
そして、先ほどのやり取りに戻る双子。
「僕は彼女を信じてもいいと思う」
「だけど……」
何か話があるようだがまず双子で話をまとめてくれないと、こちらも反応のしようがない。
しばらく見守っていると背後から人が近づく気配がし、最も絡みたくない人物の声が私たちの間に入ってきた。
「あら、アベラルドったら深刻な顔をしてどうしたの?」
その声を受け、二人はポーションを袋の中にそっと戻し侍従に渡すと、マリアンヌに向き合った。
私としてはどちらでもいいが、二人はマリアンヌにポーションを知られたくないらしい。
先ほどの相談事の件といい、回復を必要とする何か深刻なことがあり、マリアンヌはそれをまだ知らないようだ。
「少しミイルズと意見の対立があって。マリアンヌ嬢は来られるかわからないとおっしゃっていたから、来てもらえて嬉しいよ」
「ええ。彼らが私のことを気にしていたと聞いたら、私も気になって」
そこで、マリアンヌこてんと可愛く見えるように小さく首を傾げ、私を通り越してベアティとシリルに視線を向け話を続けた。
「前回のことを気にしてだったら、気にしないでちょうだいね。貴族に囲まれて緊張していたのでしょう? その気持ちもわかるわ。私もぜひおしゃべりしたいと思って来たの。よろしくね」
美形好きのマリアンヌの登場とその問題発言に、ベアティとシリルが殺気立つのがわかる。
マリアンヌが思う理由で彼らが彼女のことを気にしているわけがないし、気にしていたとしても双子にあれ以来会っていないので完全な嘘である。
どういうことだと双子を見ると、ミイルズが申し訳なさそうな顔をし、アベラルドが複雑な顔をした。
二人がわざとマリアンヌを呼んだことは、顔を見ればわかる。
――ちょっと悪戯がすぎないだろうか……
マリアンヌに気づかれないよう嘆息し、すっと私のほうへ寄ってきた二人を落ち着かせるよう手を後ろにして、彼らの手を掴んだ。




