28.王都
とうとうこの時がやってきた。
何かと理由をつけて避けてきたため、七歳の茶会以降、実に七年ぶりの王都となる。
ここに来るまで、本当にいろいろあった。
何が一番驚きかと聞かれれば、マリアンヌの取り巻きだった黒と白銀――ベアティとシリルと知り合ったことだろう。
当初、二人が生きていける場を見つけるまで見守ろうくらいの感じだったのだが、結局この歳まで一緒にいる。
十分に独り立ちできる力を得た彼らだが、いまだに出ていく気配はない。
領地のほうは順調だ。
違法奴隷の件、ベアティをさらった黒幕はまだわからないままだが、領地では特に問題となるようなこともなく、我が領は種族関係なく力を合わせて発展中だ。
私自身も、引きこもっている期間で精力的に動いてきた。
あちこちでこっそり聖女スキルを利用していたら、今では実りのある領地に変わり、あの金のなる実もしっかり育てることができた。
すぐさましかるべき手順を踏んで報告したおかげで、ランドール子爵家が発見し私たちのものであると認められた。
そして先ほど、それらを使った製品の一つ、ランドール産回復ポーションの最終段階の確認のため商会に赴き、取引の商談を無事終えたところだ。
つまり、マリアンヌに目をつけられる前に、この度無事領地に還元できるシステムを確立することができたのだ。
死に戻り前の時のように奪われることなく一つ守りきることができ、少しだけ気持ちに余裕が出る。
マリアンヌやほかの取り巻きに出会うことを考えると憂鬱になるが、成果が目に見える形であるのでこれからも頑張れそうだ。
だが、目下、別の悩みに私は眉を寄せる。
せっかくだから散策しようと勧められるまま宝飾店に入ったのはいいが、なかなか解放されず私は音を上げた。
「絶対こっち」
「こっちのほうがよく似合うよ」
「ベアティもシリルもいい加減にして!」
目の前で言い争う二人に苦言を呈すると、二人は同時に見惚れるような笑みを浮かべ、各々熱弁する。
「シンプルでいいと言うに決まってるので、こればかりはエレナ様の意見は聞けない。ここは王都。どこで誰に見られているかわからない以上、それなりの物を身に着けていたほうがいい。――うん。俺のエレナ様は何を身に着けても似合うけど、これはとても似合っている」
「ベアティのエレナお嬢様じゃないけどね。でも、それなりの物を身に着ける意見には僕も賛成。せっかく商談も決まったし資産家でもあるのだから、王都ではそれなりの物を身に着けるのはありだよ。今やランドール子爵領は超有名だからね。娘であるエレナお嬢様も自然と視線が集まるから。ほら、見て! エレナお嬢様のミルクティー色の柔らかでくせのある髪と、晴れた昼の空のような綺麗な瞳にも似合っている」
まず、私の頬を触れるか触れないかの距離まですっと手を差し出したベアティは、私の耳に髪をかけると、彼が推すイヤリングをかざして満足そうに頷いた。
続いて、ほわほわと柔らかな笑みを浮かべながら、これなんかどうかなとブローチを見せてくるシリル。
どちらの視線も熱がこもり、本気度がうかがえ私はたじろいた。
でも、と反論する前に私を挟んで二人が対立する。
「何度言わせる? こっちのほうがエレナ様に似合っているから絶対こっちだ」
「それ、ベアティの瞳の色っぽいじゃないか。却下」
「それを言うなら、シリルの髪色の白銀が入っている。それこそ却下だ」
互いに持っている装飾品を見下ろし、私に微笑んではまた睨み合う。
「却下を却下。エレナお嬢様には絶対この色のほうが似合う」
「いいや。こっちのほうがアクセントになってよりエレナ様の魅力が上がる。それだと可愛すぎて余計な男が引っかかるかもしれない。少し強い印象を持ってもらうにはこれはもってこいだ」
「なるほど……。いや、違うから! そこは考え方変えたほうがいいよ。男が寄ってきたら僕たちが守ればいいだけだから、似合う色を身に着けるほうがいいに決まっている」
続く言い争いに私は嘆息した。
こうなった二人は長い。いつもは仲裁に入ってくれるインドラが今はいないので、ここは踏ん張りどころ。
私はベアティとシリルの手をそれぞれ掴んだ。
すると、二人はぴたりと争いをやめる。
それから餌を前に待て状態のわんこのように、どこか期待する目で私を見た。
――こういうところ、素直で可愛いんだけどな……
生い立ちからか寂しさを感じやすい彼らはスキンシップが大好きで、こうすると一番効果がある。
あるのだが、王都に来てすぐにこんなことになるとはと顔を若干引きつらせた。




