お気に入り sideマリアンヌ
十四歳になったマリアンヌは、ほぅっと息をついた。
「モテるのも困ったものよね」
誘いの手紙を並べ、贈られた赤いバラに目を細めた。
自分の利になる者、お気に入り以外は断るリストに入れてにんまりと笑みを浮かべる。
「同世代で私が一番!」
身分も容姿も教養も、そしてスキルも。
困った顔で頼れば、男性はすぐにマリアンヌの要望に応えてくれる。その成果が目の前に並ぶ。
だが、どうしても一つの失敗が忘れられず、その失敗の原因となったエレナ・ランドールの名を聞くたびにマリアンヌの気持ちに影が差した。
十歳になり教会で洗礼を受け、マリアンヌはそれまでに予定通り二つのスキルを獲得した。
そのうちの一つ、男爵家の令嬢から奪った回復スキルを予定通り公表した。もう一つは平民から奪ったものだ。
本来なら三つ得ていたはずだと考えると、怒りの矛先はエレナに向かう。
彼女は社交界に興味がないのか、彼女が住む辺境の周辺との交流のみで積極的に広げるつもりはないようだった。
スキルを奪うのに失敗し互いに倒れてから、エレナは領地に引っ込みしばらくは何もなかった。体調が悪く遠出をしなくなったと聞き、目障りだからそのまま出てくるなとさえ思っていた。
だが、数年経ったある時期から彼女の噂を聞くことが増えるようになった。
美形の従者を侍らせ、とても大事にされているだとか。
彼女の回復スキルはかなりレベルが高く、人の治療に限定しないようだとか。
その証拠に、ランドールから出荷される品物は軒並みに価値が高くなっている。
極めつけは、柔らかな雰囲気の可愛さは守ってあげたくなるようだと男性陣が話していたことだ。
十分な経済力を身につけ、それらが彼女の能力のおかげなのかまではあくまで疑惑の段階だが、彼女のステータスが上がっていることは確かだ。
本来ならマリアンヌがもらい受けるべきスキルによって、社交にろくに参加していないのにその知名度はマリアンヌ並みにあるところが気に食わない。
しかも、誰もが認める美形を従えているとか我慢ならない。
「むかつくわね」
ちやほやされていたのが気に入らず、いいスキルを持っていたのでその場で奪おうとしたのがそもそもの発端だ。
マリアンヌにとっては、最初から気に食わない存在。
エレナのそばにいる一人は黒髪で、性別問わず誰もが認める美貌。
そして、もう一人は大層美しい白銀髪をしており、こちらも整った容姿だと聞く。
両親の奴隷に白銀髪の夫婦がおり、彼らの容姿と珍しい髪色は観賞に値する。
両親は彼らを表に出そうとしないほど、大層気に入っている。
「私も欲しいのに……」
自分にも美しく自慢できる容姿の奴隷が欲しいと、定期的に奴隷商に通っているがいまだに気に入るものを見つけられていない。
「そうだわ。噂通り美しかったら私の物にしてしまえばいいのよ」
奪い損ねスキルはもう手に入れることはできない。ならば、別の物を奪えばいいだけだ。
本来なら彼女の物は自分の物。
半年後、学園に入学することが決まっており、一か月後は第三王子の茶会が控えている。
さすがに今回は参加すると聞いており、ようやくこの目で現状を確かめることができる。
エレナのせいで使えるはずのスキルが一つ無駄になったのだから、奪うことに躊躇いはない。
むしろ、彼女の自慢の従者を奪って惨めな思いにさせるくらいがちょうどいい。
マリアンヌは荒れかけた気持ちを鎮めた。
「お嬢様、サンドフォード伯爵家のご子息たちがお見えになりました」
「入ってもらって」
一通の返事を書き上げたところで、従者のステファンの声とともにノックの音がする。
マリアンヌは表情を改め、微笑みを浮かべた。
「こんにちは~。マリアンヌちゃん元気だった~? いつ見ても綺麗だね」
「僕たちが知る中でマリアンヌ嬢が一番だな。僕としては噂の辺境の子爵令嬢も気になるところだけど」
「あははっ。マリアンヌちゃんに敵うわけがないじゃない」
現れたのは、今一番のお気に入りの双子。
ステファンとともに入ってきたのは、サンドフォード伯爵家の双子の兄ミイルズと弟アベラルドだ。
愛想のよい赤髪が兄で、冷静に返すのが青髪の弟だ。
顔は似ているが、髪の色が違うので間違うことはない。容姿が整っているのはもちろんだが、それが二人という希少性がとてもいい。
何より、マリアンヌの美しさを崇め褒められると気持ちよく、こうして彼らの屋敷の出入りを許可していた。
「私なんてまだまだですわ」
「マリアンヌちゃんがまだまだなら僕たちとかどうなるのかなぁ。僕ら、二人で一人前って言われているしね~」
「マリアンヌ嬢と僕らは今関係ないだろ。僕が言いたいのは、話題の田舎娘の容姿や性格次第で、学園での生活も影響するもしれないから気になるねってこと。マリアンヌ嬢も気になるでしょ?」
ここまで積み上げてきたものをそう簡単に崩されるわけがないとは思うが、顔を見せないくせに彼女の話題はここ最近増えており、楽観視できるものではなかった。
だが、気にしていることをおくびにも出さずに、マリアンヌはにっこりと微笑んだ。
「いえ。私は辺境から出てこられるランドール子爵令嬢と会えるのを楽しみにしているんです。体調を崩されてから長く領地から出ておられないと聞いていますし、仲良くなれそうなら私たちの陣営にお誘いしてもと思っています」
「やっさし~。そうだ! 僕らがその子、どんな子か見極めてあげる」
「それはいいね。マリアンヌ嬢の憂いとなる存在にならないかまず観察してみよう」
思惑通りの彼らの発言に、マリアンヌは心の中でほくそ笑んだ。
次章は赤と青の遊戯
年齢が上がり場所が王都ということでようやく動きが増えるかなぁっと。
ここまで見守っていただきありがとうございます!
ブクマ、評価やいいね、本当に嬉しいです。
ストック切れましたので更新できない日があるかもしれませんが、これからもお付き合いいただけたら幸いです。




