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二度目の人生は離脱を目指します  作者: 橋本彩里
白銀と元婚約者

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27.回避と予感

 

 この雰囲気はマズイ。


 ――好意を稼ぐポイントなんてあった?


 さすがに二度目。彼の人となりもなんとなく知っているし、こちらを見る眼差しが熱っぽいので何を言いたいのかわかってしまった。

 いや、適切に距離は取ってきたつもりなのにどうしてだろうか。


 伯爵家と子爵家。立場も違うし、断ることもできるけれどさすがに後のことを考えると気が重くなる。

 良好な関係のためには口に出してほしくないと困っていると、そこでシリルが私に抱き着いてきた。


「エレナ様。獣の気配がします」


 それを受け、ベアティが私と抱き着いたシリルごと抱き上げ、私は自動的に会話から離脱する。

 インドラがケビンを含め私たちを守るように周囲を警戒しながら、シリルに話しかけた。


「どっちのほう?」

「あっちのほう。遠くのほうで獣の気配がしたので」


 獣耳が出ているほうがよく聞こえるのか、それとも人によるのか。

 インドラはシリルが指したほうをじっと見つめ、頷いた。


「シリルは耳がいいから遠くの音も聞こえます。ここは大丈夫だとは思いますが今は護衛も少ないし、安全のためにも早めに下りたほうがいいかもしれません」


 インドラの言葉に神妙に頷く。

 ここではないけれど、これまで危うく遭遇という場面が何度かあった。その時はインドラたちが追い払ってくれたので問題なかった。


 だが、今回は賓客と一緒なので悠長に構えるわけにはいかないだろう。

 シリルはきゅっと私に抱き着き、小刻みに震えた。


「すみません。獣に襲われたことがあって咄嗟にエレナ様に……」

「いいのよ。教えてくれてありがとう」


 シリルはまだ身体も小さいし、その時のトラウマもあって思わず横にいた私に抱き着いたのだろう。よしよしと頭を撫でる。

 少し落ち着いたのを見て、私はケビンのほうを見た。


「だそうですが、話の途中ですみません」

「いや。僕たちの領地は自然とともにあるのでそういった警戒は怠ってはいけないのはわかるから」

「ありがとうございます。これからも隣の領地の者同士よろしくお願いします」


 シリルが割って入ってくれたおかげで、先ほどの雰囲気は霧散し無礼にもならず会話を終わらせることができた。

 さりげなくそれ以上のことは望んでいないと、私は私の望みを告げる。


「えっと、そうだね。隣の領だし、何かあれば一番に駆け付けることができる。これからも仲良くしてほしい」

「……はい。よろしくお願いします」


 気持ちが伝わっているのか微妙なところだが、再度同じ話になっても困るのでひとまずこの形でいいだろう。

 あれから何度か今後について話したそうにしていたが、ベアティたちにさりげなくガードされうまく話せず、徐々にケビンは肩を落とし領地へと意気消沈して帰っていった。



 その後、シリルが空気を読んで獣の声が聞こえると私に抱き着いたこと、それらが演技だとわかってベアティたちが動いたことを知った。

 そのことから役に立つと証明したシリルは私たちと行動するようになり、領地でやれることをやっていたら、気づけば教会の洗礼の儀式を無事終え十四歳となった。


 表向きには回復スキルを持っていることになっている。

 まだ聖女だとは騒がれてはいないが、マリアンヌも死に戻り前と同様に回復スキル持ちだと公表している。

 残念ながら被ってしまったが、聖女スキルがバレるわけにはいかない。バレれば、きっと目をつけられて碌な目に遭わないだろう。


 ケビンとは頻繁に交流をしているが、隣人の関係を維持しながら婚約は回避してきた。

 思ったよりケビンは積極的に私との交流を図ってくるが、マリアンヌとの接点が増えればそのうち飽きると思うので適当に躱している。


 そして、少しずつ社交の範囲を広げ、紫の殿下が茶会を開くということで久しぶりの王都に来ていた。

 半年後に学園に入ることを見据え、いつまでも領地に引きこもっているわけにはいかない。


 今回は一か月ほど王都のタウンハウスで過ごすことになっている。

 万能なインドラは王都の屋敷で仕事があるので、護衛に適したベアティとシリルが一緒だ。


 シリルはこの日のために獣耳としっぽを隠す練習をこなし、今では完璧に制御できている。

 彼らは一緒に学園に行くことが決まっているので、慣れるためにも王都での行動はこの三人が多くなる予定だ。

 この機会に子爵領の商品を売り込み幸先のよいスタートを切れたと思った矢先、私たちはピンチに陥っていた。


「エレナ様!」


 ベアティに覆い被さるように抱き寄せられ、私を庇うようにシリルが前に立つ。

 ばしゃっと勢いのある水が頭上から落ちて来ると同時に、笑い声が降ってきて波乱の王都生活を予感させた。



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