24.金のなる実
ケビンたちが帰る前日。話し合いや開発区域の案内を終え、この日は私たちだけで景色がいい場所へとピクニックに出かけることになった。
今日は彼の従者、私にはインドラとベアティ、そしてお試しということでシリルもそばに控えている。結局、彼の熱意に負け、必ずインドラたちの話を聞くことを約束し同行を許可した。
街を見てもらったら次は森だと、私は予め決めていた果樹園へと案内する。
見晴らしのいい場所を抜ける前にある果樹園の木々は、いくつもの青い実をつけている。
「ケビン様。見てください」
「すごいですね。たくさん実がなっている」
「はい。今年は実のつきがよいので、収穫が期待できでそうなんです。嬉しいことなのでケビン様にも見ていただけたらと思って」
私はここに来る際は土壌に回復魔法をかけ、状態をチェックしてきた。
そのおかげか、秋の収穫がとても楽しみな成長を見せている。
人が急激に増え始め、今はよくても来たる冬に向けて食糧問題は必ずくる。そのためにできることをしておきたいと動いた成果が見え始め、私の気分はよい。
笑みを浮かべケビンを見ると彼はぼうっと私を見ていたが、私がどうしたのかと首を傾げるとはっとして照れたように頬をかいた。
「それは、嬉しいな。教えてくれてありがとう」
「いえ。私が自慢したかっただけなので」
「それでもだよ。収穫が楽しみだね」
「はい。これからも精一杯お世話します!」
土壌に回復魔法をかけているのを知っているのは、家族とインドラとベアティだけである。
回復魔法といっても様々で、この場合浄化魔法も混ざっており、私の回復魔法が状況に応じて勝手に効率化してくれる。聖女スキルの万能さよ。
今はまだ能力の把握中なので公表はしていないが、簡単な回復魔法を使える程度は屋敷の者は知っている。
ただし、それが生き物以外にも使えるとは知らない。
万能であることを知られるのは現段階でリスクのほうが多いため、軽度の傷や状態の回復が使えるくらいなら問題ないだろうとのことになった。
ベアティにすでに行使したこともあり知っている人物もいるので、下手に隠すよりはいいだろうと家族会議をした結果そうなった。
――隠そうとすると、そういった匂いを嗅ぎつける人もいるし……
私はケビンが来るとわかってから計画していたことを実行に移すべく、先に進み一本の木に視線をやる。
「ですが、あの木だけなかなか実をつけなくて心配しているんです」
「葉の状態はほかよりも大きいし状態はよさそうだけど。何だろうなぁ。心配だね」
「ここに来ては様子を見ているのですが」
「きっとその思いは伝わるよ」
これで下地はできた。
死に戻り前、あの木から採れる実は後にとても価値の高いものであることを今から数年後に私が見つけたのだが、手柄や利益、何もかもマリアンヌに奪われてしまった。
あの時はあれよあれよとマリアンヌの聖女という立場、彼女の実家の力で奪われていったが、今度は奪われるつもりはない。
すべてこの地に還元すべく、打てる手は打っておくつもりだ。
あの木からなるのはかなり貴重な物となるため、大金が動く。『金のなる実』と呼ばれていた。
そのため、貴重な物を隠していたとの難癖つけられる可能性がある。
この木を立派に育てて、私は完全にこの地のものであると宣伝するつもりだ。
そのため、あくまで普通に育てて名産にしたよという過程を知る人がいれば保険になると思い、どうせ会うことになるのならケビンに見せてしまう計画を立てた。
死に戻り前に裏切ったのだから、これくらい利用するくらいはいいだろう。
やっぱりケビンを前にすると、死に戻り前のことを考えることが増える。
彼自身に対しては距離を置くと決めているのでもういいのだが、どうしてもマリアンヌの存在を意識してしまう。
それらの感情を出さないよう、私は決意を胸にさらに笑みを深めた。
「ええ。この辺境の地が少しでも潤うように頑張りたいです」
「そうか。そこまで考えて……」
そこでケビンが深く沈んだような声を出した。
「どうされたのですか?」
「家を継ぐわけではないのに、エレナ嬢はよく考えていると思って」
「ここが好きだからです。だから、守りたい。いずれ、この地から出ていくとしても家族がいる限り、私の拠り所であるのは変わらないですから」
だから、二度と奪われるつもりはない。
「僕はまだ領地のことを知ることで精いっぱいだ。エレナ嬢は随分雰囲気が変わったね」
「そうですか?」
「ええ。とてもしっかりしたのと、以前より笑うようになった」
一度目はどうだったかはあまり思い出せないが、人生も二度目なので余裕があるからだろう。
「一度倒れてからここが好きなのだと再認識したので、そのせいかもしれません」
「僕もエレナ嬢みたいに帰ったら頑張るよ」
「ええ。頑張ってください。ケビン様ならきっと盛り上げることができます」
隣の領地が安定していることは、私たち子爵領にとってありがたい。
心からそう告げると、ケビンが感銘を受けたと熱がこもった視線を向けた。
「エレナ嬢、君と出会えて、領が隣で僕は幸運だよ」
子供の時はとても素直だ。もしくは、人生二度目だからこのように思うのだろうか。
冷静にケビンを観察したその瞬間、温かな日差しを一瞬で冷やすような寒気を背後から感じ、私はぶるりと身体を震わせた。




