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二度目の人生は離脱を目指します  作者: 橋本彩里
白銀と元婚約者

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23.元婚約者


 途中、道に落石があり予定より遅れたが、 伯爵家の紋章がついた馬車が屋敷の前に到着した。

 それを家族総出で出迎え、互いに儀礼的な挨拶を済ますとケビンは一直線に私のもとにやってきて、場所を移動しても私はずっと彼と話していた。


「エレナ嬢。お久しぶりです。倒れたと聞きましたが、その後の調子はどう?」

「はい。ゆっくり静養したおかげで少しずつ体力もついてきました。まだ遠出は難しいですが、日常生活は問題なく過ごせております」

「それを聞いて安心したよ」

「ご心配いただきありがとうございます」


 私はにこっと微笑んだ。

 正直、ここまで積極的な人だった印象はなく、密かに驚いてはいた。だが、友好的にあろうとする相手を邪険にはできない。


 私個人としてはあれでも、子爵家としても歓迎すべき態度である。

 母は礼儀に厳しく私は常日頃鍛えられているので、多少面倒だなと思っていることは決して顔に出さない。

 より隠そうとにこにこと笑みを浮かべると、ぱっと表情を明るくさせたケビンが声を弾ませた。


「体調が大丈夫だったら、前のように外にも出かけたいね」

「そうですね。天気も良さそうですし、ケビン様の滞在中にピクニックもしたいです」


 それに以前とは違う領内の様子をぜひとも見てもらいたいとにこにこと微笑んでいると、ケビンは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 若干頬が赤いが、きっと同じ歳なのでリードしろと両親に言われやる気が漲っているのだろう。


「この日までずっと心配で気が休まらなかったけど、エレナ嬢の笑顔を見て一安心です。今回は無理のない範囲で一緒に過ごせたら嬉しい」

「はい。見せたい場所があるので天気がよければ出向きましょう。領内だと私も気分が楽ですし」


 一言添えるのは忘れない。

 動くのはあくまでこの領地内。それ以外は今のところ出る予定はない。


「無理のない範囲でぜひ。学園へ行く時期も被るだろうし、同じ辺境に住む者同士仲良くできたら嬉しい」

「ケビン様がおられて心強いです」


 二度目なのでマリアンヌにさえ関わらなければどうとでもなると思っているが、社交辞令を返しておく。

 すると、ケビンはほっと息をつき、私の両手を握った。


「それはよかった。避けられていると思っていたので」

「お誘いいただいていたのに、何度もお断りし申し訳ありません。体調がよくなったのもここ最近なので、少しずつと参加できたらとは思っているのですが」


 私の話を聞いたケビンは嬉しそうに目を細めた。

 両手を握られながら、そこまで気にされていたことに驚きケビンの顔を見つめる。


 何度かお茶会の誘い、または他家の誘いの際に一緒に出向かないかとの誘いがあった。

 近くの領だから一緒にどうかと気を遣ってくれてのことだろうが、親密になる気はないので断っていた。

 まだ倒れた直後だったので、断りやすかったのもある。


 あと、洞窟のこともあって頭がいっぱいで、ろくに手紙も読まずに否の返事をしていたため、細かな内容は覚えていない。

 死に戻り前のことがあるとはいえ、まだ何もしていない相手にさすがに雑すぎたかと頭を下げると、ケビンは首を振った。


「よくなっているのなら無理せず療養したほうがいいよ」

「ありがとうございます。無理をしてでも交流すべきと言われたらどうしようかと思っていたので、安心しました」

「体調を優先させるのは当然だよ。貴族は交流が大事だとはいっても、ここは辺境のさらに奥地。王都に近いならまだしも、まず山越えだけでも大変だ。誰も文句はないと思うよ」


 少しも疑われていないようだ。

 よかったと思いながらも、このような接触はやめてほしいと感情を隠すように笑みを深め、繋がれた手に視線をやる。


「ケビン様、手が……」

「あっ、ごめん」


 ケビンはこほんと咳払いし慌てて外すと、力強い声で続けた。


「辺境の者同士で助け合うことのほうが多く、本音で言うと王都での権力争いよりも、横の繋がりのほうが大事だから」

「確かにそうですね。王都から助けが入るのはかなり時間がかかりますから。ケビン様はこれまでどのような交流を?」

「僕は寄り親のヒギンボトム侯爵様関係のお誘いはなるべく受けるようにしている。そのなかで、第三王子殿下にもお会いしたよ」


 紫の、ね。

 死に戻り前の今頃はマリアンヌに紹介される形で顔を合わせは済んでいたが、今回は顔を合わすこともしていない。

 すでにマリアンヌは紫の殿下と親しくなっているのだろうか。

 最初はそこまでではなかったけれど、教会の洗礼を受けてから目に見えるように寵愛が始まっていたので、殿下はほかの取り巻きのなかで一番距離を置きたい人物だ。


「私はまだお会いしたことはないですが、親しみやすい方だと聞いております」

「そうだね。分け隔てなくお話しくださる印象かな。それで思い出したけれど、スタレット侯爵家のマリアンヌ様が茶会に力を入れていて、行く先々で見かけることはあるよ。エレナ嬢が静養するのには賛成だけど、社交再開の際は彼女の勢力との付き合い方には気をつけたほうがいいかも」

「ご忠告ありがとうございます。辺境の子爵家などご興味はないでしょうが、できるだけすみっこで大人しくしていようと思います」


 さすがマリアンヌ。

 自分の美しさや権力を見せる場面、そして崇められる場所を求めて精力的に動いているようだ。


 ――このままフェイドアウトできて、忘れてくれていたらいいのだけど……


 貴族として人脈作りは大事なのでそれらの行動が悪いとは言わないが、今回は彼女の派閥に入れられないように注意しなければならない。

 今のところ、ケビンはマリアンヌを自分とは関係がない相手と捉えているようだ。


 それからも、こんなによく話す人だったかなと笑顔を心がけながら話を聞く。

 そういったやり取りをし、初日は終わった。



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