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二度目の人生は離脱を目指します  作者: 橋本彩里
白銀と元婚約者

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19.方針


 ヒューたちには今後定期的に訪れると伝え、領主の娘の財布を盗んだ罪でスリの少年を屋敷に連行した。

 話すにしても綺麗になってからだとお風呂に入ることを命じると、ものすごく嫌がる少年をベアティは引きずっていた。

 それからしばらくして帰ってきた少年は、すっかりと変貌を遂げていた。


 黒ずんでいた髪はきらきらと白銀に輝き、可愛らしい顔をしているとわかっていたけれどこれほどとは思わなかった。

 白銀……、もしかして、もしかするのだろうか。


「珍しい綺麗な髪ですね」

「そうだねー」


 その髪を眺め黙っていると横にいたインドラが目を引く髪色を指摘し、私の返事は棒読みになる。

 おや、と眉を上げたインドラだったが、私の代わりに必要事項を訊ねる。


「少年の名前と歳は? 種族は狼かな?」

「……シリル。八歳。種族はそれで合ってる」


 シリルはちらりとベアティを見て、それから素直に質問に答えた。

 死に戻り前に私が白銀と呼んでいた人物は、ベアティよりも大きかったので兄弟とか血縁の可能性もある。

 と思ったものの、やっぱり本人だった。


 あと、風呂場で何かあったのか。

 シリルはまだ挑戦的な双眸をしているが、喧嘩腰なのはなりを潜めている。


 彼を風呂場に連れいき洗い上げただろうベアティを見ると、ものすごい笑顔で頷いてくれた。

 それを見て、シリルが嫌そうに顔をしかめた。それから、じっと私をうかがうように上目がちに見てくる。


 ――うーん。何をした? 言ったんだろう……?


 いちいち突っかかられても困るが、シリルの反応は気になる。


「彼が何かしようとしても止められますので、エレナ様は安心してなさりたいようにしてください」

「そう。頼りにしているわ」


 職務をこなそうとしているベアティをまず褒めておく。

 確かに安心感はあるので、これはこれでよいのだろう。


 それからシリルの事情を聞く。

 髪色が珍しいということで、盗賊に襲われた。

 その盗賊の中に彼の家族たちを弱体化させる魔法を使える者がいたようで、家族は奴隷として捕まり、両親たちのおかげでシリルだけが無事に逃げおおせることができた。


 だが、盗賊から逃げられたもの、住む場所や食べる物に困る。

 家族のことは心配だしこれならいっそのこと一緒に捕まっておけばよかったと、自暴自棄になって自ら奴隷になろうと王都に向かうことにした。


 その最中、ここ、ランドール子爵領が違法奴隷を許さず獣人保護に動いた話を聞いた。

 その時に自ら奴隷になるのは家族の気持ちを踏みにじるものだと思い直し、予定を変更してこの地にやってきたようだ。


 けれど、頼る伝手もなくて食べる物に困り、盗みをして日々を過ごすことになる。

 そして、私の財布をすり、あっさりと捕まってしまい今に至るとのこと。


 それを聞いて、マリアンヌの取り巻きだった白銀を思い出す。

 彼はひたすら甘くマリアンヌに接していた。


 もしかすると、死に戻り前はそのまま王都に行ってマリアンヌに買われた可能性はある。

 正規の奴隷商には、主従契約魔法を使える公式に認められたスキル持ちが必ず一人はいる。

 そのため契約が満了するまで奴隷は主を裏切れないし、アクセサリー感覚で見栄えのいいシリルをそばに置いていたと言われても違和感はない。


 奴隷は奴隷だと首輪などわかるようにつけている者と、魔法契約紋を見える位置につけなければ他人にはわからないので、見ただけではわからない者がいる。

 だから、死に戻り前のシリルが奴隷だったかは定かではないが、王都に行ったのならそこでマリアンヌと縁があったことは確かだろう。


 ――これって、洞窟でベアティを助けたことから始まった影響よね?


 自分のためにと思って動いたことが、マリアンヌとの取り巻きと縁ができるなんて考えもしなかった。

 だが、実際に彼らはこの子爵領にいる。


 実際に死に戻り前の後悔から始まった私の動きが波紋を呼び、シリルの動きも変えてしまったようだ。

 今後もないとは限らない。


 二度あることは三度ある。

 黒く靄がかかっていたこともあり、ほかの三人もなんらかの事情がある可能性も出てきた。


 スキルがあるとわかっていても賭けではあったし、結局死に戻ってもマリアンヌがいる限り問題はついて回る。

 正直、複雑ではあるが、ことマリアンヌに関わることは放置すべきではない。


 なら、ベアティもシリルもこの領地にいてもらうのが一番よね。

 気になる要素は野放しにするより、身近に置いておくほうが安心だ。


 マリアンヌを避けつつ、私は私で守りたいもののためにやりたいように動くのは変わらない。

 そのためには、彼らが自分で判断できる、この場合生活基盤ができるまでと考えればそう問題ないだろう。


 ――その後は、私の敵にならないのであれば好きにしてもらったらいいし。


 ここなら面倒を見ることができるし、慈善事業ではなく彼らには彼らの役に立ってもらうことをするのだから、私にとっても悪い話ではない。

 私は方針を決め、彼らが風呂に入っている間にインドラと相談していた仕事の提案をした。



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