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二度目の人生は離脱を目指します  作者: 橋本彩里
はめられた死に戻り前

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2.

 

「事の重大さを理解していないようだな。罪人が逃げ出さないように捕らえろ」


 殿下の命令を受けた騎士に乱暴に膝をつくように背中を押され、仰ぐ形でマリアンヌたちを眺める羽目になった。

 こうなればどうにもならないのだろう。

 今更気づき足掻いたとろで誰も助けてくれないことを、マリアンヌの表情、周囲の反応から嫌でもわかる。


 家族は現在、不当に獣人奴隷を斡旋したとの罪状で領地から出ることができない。

 ここしばらく奴隷問題は王都を騒がせていたが、その犯人は私たちの仕業だと捜索状を突きつけられたばかりだ。


 もちろん、それらに関わっていないので異議申し立てして対応中なのだが、そんな中、私はマリアンヌによって教会の大事な物を盗んだ罪を擦り付けられてしまった。

 もしかすると、それもマリアンヌ、もしくは政敵にはめられたのかもしれないとさえこの現状に思う。


「……最悪」

「貴様、自分の罪も認めずそのような態度。これまでのマリアンヌが許してきたことを理解していないのだな」

「私は一切罪を認めません。家族もです。私たちは潔白ですから」


 ちょっと現状の思いを口にしただけじゃないか。

 それに私には身に覚えのないものばかり。

 きっ、と睨みつけるが、相変わらず彼らをしっかり捉えることができず視線が合わない。


 取り巻き立ちの髪色から、黒、白銀、赤、青そして殿下は紫と、私は心の中で彼らを呼んでいた。

 五人全員の顔には黒い(もや)がかかっているため、顔の全体像が掴めない。だが、侮蔑を湛え睨みつけられているのは雰囲気でわかる。


 私は昔からこの黒い靄が見える。

 瘴気のような悪いもので、感覚的に聖なる力で払えるものだと思うが、私にはその力がないので払えない。


 これほど真っ黒な人たちは初めてで、マリアンヌに紹介された時にはすでにそうであった。

 高ランクの回復魔法が使え、聖女と崇められたマリアンヌが払わないのなら払わない理由があるのだろう。


 どのみち私にはどうすることもできないため、口出しする気もない。しても聞いてもらえるとは思えない。

 マリアンヌは侯爵令嬢で、子爵家子女の私は権力的にも下だ。


 世間の目のため表向き従順にしてはいたが、婚約者を奪われポイ捨てされてから私はマリアンヌを信用していないし、彼女の取り巻きたちが苦手だ。

 しかも、世間的にマリアンヌとケビンが浮気したことはなかったことになっている。

 マリアンヌはかなりドジなため、その後始末をする役目が私といったところだったが、感謝されこそすれ断罪される(いわ)れはなく、ただただこの状況に失望する。


「厚顔無恥もたいがいにしろ!」


 紫の殿下が声を張り上げた。


 ――厚顔無恥なのは、あなたが庇っているそこの女ですが!?


 聞いてくれるなら声を大にして言いたいが、彼女に関して何を言っても理解されない。

 怒りを超えた失望をどう処理したらいいのかぐっと拳を握りしめていると、ほかにも、と罪状を並び立てられる。


 曰く、嫉妬して聖女を池に突き落とした。

(実際はマリアンヌが調子に乗って勝手に落ちただけ)


 曰く、聖女のドレスを羨んで隠した。

(私のドレスを気に入ったからとマリアンヌが奪っていったのだけど?)


 曰く、聖女を毒見役にした。

(男性から押し付けられたプレゼントを後で返却しようと置いておいたら、勝手にマリアンヌが食べて勝手に泡を吹いた)


 曰く、聖女の悪口を言いふらした。

(していない。むしろ、これだけのことをされて誰にも口外していない私を褒めてほしいくらいだ)


 曰く、色目を使って男をたぶらかした。

(潔白!)


 曰く、日頃から聖女を妬んでいた。

(どちらかというと呆れていましたが?)


 などなど。

 朗々と読み上げる内容に心の中で反論していると、改めて聖女と呼ばれる人物の酷さを実感する。

 よくもまあ、些細な、しかも自業自得の出来事を私に罪として擦り付けられるものだ。言いがかりがすぎて、開いた口が塞がらない。


 ――それらの理由が弱いから、今日仕掛けてきたのだろうけれど……


 それにまんまと引っかかったというか、押し付けられてしまったわけだ。

 まさかここまでするとは思っておらず、ただただ自分の間抜けさとマリアンヌの醜悪さを前に疲れてしまった。


 ちらりとマリアンヌに視線をやると、「怖いわ」とか細い声とともに黒の男の後ろに隠れた。だが、その口元はうっすらと笑っている。

 彼女のお気に入りは黒だ。ものすごく美形なんだそう。


 ――悪女ね。これが聖女と崇められて世も末だわ。


 よくもまあ、男性陣にその性根がバレないものだ。

 マリアンヌにくっついている時点で似た者どうしなのかもしれないが、見ていて情けなくなる。そこにはこの国の王子もいるのだ。


 呆れていると、ぐっと背中を押し付けられた。

 さっきから私を拘束している騎士は、私に恨みでもあるのだろうかというくらいきつく掴んでくる。

 はらり、とミルクティー色の癖のある髪が顔にかかるが、それを払いのけることもできずに私はされるがままだ。


「連れていけ!」


 それから有無を言わさず引っ立てられ、塔の中に閉じ込められた。



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