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二度目の人生は離脱を目指します  作者: 橋本彩里
白銀と元婚約者

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17.開発区域


 ケビンたちオニール伯爵家と交流する日まで一週間を切った。

 両親にはケビンと婚約はしたくないとはっきりと意思を伝えてあり、了承を得ている。ひとまず気は楽であるが、正直死に戻り前のこともあるので顔を合わせるのは微妙だ。


 ――子供の時は遊んでいたし……


 まあ、なるようにしかならないので、その辺のことはまたその時に考えればいい。

 それよりも今は目の前のことだ。


 ベアティと一緒に囚われていた猫獣人の少年、ヒューたち一家がそろって子爵領に住むことになった。

 これまで住んでいた場所は住める状態ではなく、ランドール子爵家が統治するこの地なら信用できると判断したとのことだった。


 ロートニクス王国は獣人に厳しいが、ここならすぐに他国へ逃げやすいというのもあるらしい。

 その辺りまで考えてこの子爵領に住むことを決めたのなら、何も言うまい。


 子爵領(こちら)としても、労働力はありがたい。

 なにせ無駄に広い領地なのですることも多く、やる気がある人は大歓迎だ。


 そういうわけで、私はインドラとベアティを連れて彼らに会うためにやってきた。

 足を運んでいる場所は、移民、特に獣人が多くなってきたため、急ピッチで開発が進んでいる区域だ。着手しだした当初は危ないからと両親から許可が出なかったのだが、ようやく降りた。


「ヒュー、久しぶりね!」

「エレナ様! ご無沙汰しております。あの時は本当にありがとうございます。ベアティもすっかり元気になったようでよかったよ」

「ああ。心配してくれてありがとう。おかげさまでよくしてもらっているし、エレナ様には助けてもらった恩を最大限に返していく予定だ」

「そうか。こっちに来て、エレナ様に拾ってもらったと聞いてとても安心した。もし行く場所がなければ、家族を説得しようと思っていたから」


 とても優しい少年だ。

 洞窟でも皆を守ろうとしていたし、責任感がある子なのだろう。

 よかったなぁとベアティの背中を叩く元気なヒューの姿に、じんわりと涙が溜まる。


「エレナ様、息子を助けていただきありがとうございます」

「正直、見つからないと諦めかけていました。ここに住むにあたって、当主様に便宜も図っていただき感謝しております」


 ヒューの両親がそろって頭を下げる。

 子供の誘拐監禁も同じ人間がしたことなのに、子供を抱きしめ泣きながら私たちに対して感謝の意を示す。

 正直複雑だとは思うけれど、私としても人族というくくりではなく、個人を見てもらえて嬉しい。

 この家族が無事再会できて本当によかった。


「ヒューが無事でご両親と再会できてよかったです。私たちの領地でこのようなことが起こり申し訳ありませんでした。今は徹底しておりますが、もし何か異変を感じましたらすぐに教えてください」

「もちろん、何かあったらいち早くエレナ様に報告する! 俺たちもここで過ごすからには少しでも恩返ししたい。な、父ちゃん、母ちゃん」


 ヒューが任せとけと、にかっと笑う。

 警戒心が解けると、とっつきやすいいい少年である。安心できる両親のそばというのも大きいだろう。


「ああ。恩には恩で返さないとな! それがエレナ様たちのためになるのでしたら、同胞のためでもありますし常に目を光らせておきます」

「ええ。仲間内でもしっかり見ておきます。奥様ネットワークはバカにできませんからね」


 力いっぱい頷いてくれる二人に、私は頭を下げた。

 同じ獣人だからこそ気づけることはきっとある。

 闇奴隷商をこの地から退けたが、またどのような形で問題が降りかかるかはわからない。この件に関して、気を抜くつもりはなかった。

 頼もしい伝手ができたと表情を緩め、そこで私はベアティとヒューへと視線を向けた。


「あと、二人ともそんな気張らないでね。私は私たちに関わった人たちが幸せに過ごしてくれたらそれでいいから」


 死に戻り前での事件から、特にヒューたちには人生を謳歌してもらいたいと思っている。

 その場所をここに選んでもらえたのは誇らしいし、私たち子爵家が領地を追い出されるようなことにならないよう、これからも対策はしていくつもりだ。


 それからヒューの両親がこの辺りの家を建て整備するのを主導してくれているというので、息子であるヒューに案内してもらう。

 建築途中の建物が多く、まだ不完全な状態だ。だが、全容が見え完成し人が定着すれば賑わっていくだろうことが想像できだいぶ形になっている。


「整備も含めここまで変わっているとは思わなかったわ」


 すっかり様変わりした一帯に目を白黒させていると、ヒューは若干胸を張った。


「獣人は人族のようにスキルは授からないけれど、もともと身体能力は高いし種族特有の能力もあるからそこはうまく活用している。同じ目標を持つとこれくらいあっという間だ」

「そっか。すごいねぇ」

「えへへっ。体力いるし疲れるけど、皆で作り上げていくのは楽しいんだ」


 褒めると、細く長いしっぽが嬉しそうに私の身体に触れてくる。

 その様子に目を細め、私たちはヒューの案内のもと開発区域を見て回った。



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