10日目(24)―愛しいひと
いつも背中を流しっこしたときにそうしてるみたいに、背中以外のところを自分で洗う。
今日は、いっぱい歩いたり、ドキドキしちゃったりしたせいで、いっぱい汗かいちゃったし、いつもより丁寧に。
ちらりとミーナのほうを見ると、目が合ってしまって、慌ててそっぽを向く。
「ん?どうかした?」
「ううん、何でもないよ」
ミーナの肌、相変わらずきれいだなって、見とれてたのは内緒にする。
「ミーナは、何かあった?」
「ううん、なんでもない」
でも、ちらりと見えた顔は、ちょっとだけ赤くなっていて。
思ってることは、おんなじなのかな、って考える私がいる。だって、ミーナとは同じ時間を一番長く過ごして、お互いに同じ想いを抱えてるから。
わしゃわしゃと、ミーナの手が肌を撫でる音がする。その手で、いっぱい触られたせいで、私はその音だけでドキドキしてしまう。
「そろそろ、終わりそう?」
「うん、もう終わるよ」
自分についた泡を確認して、もう全部済ませたのを確認してから、ミーナの体をちらりと見る。
白い泡で隠れてるけど、すべすべな白い肌は、私よりも綺麗で羨ましい。
「じゃあ、流すからね?」
シャワーのお湯を出して、二人分の泡を流す。
相変わらず、目を固く閉じるミーナ。そんなとこは、まだ猫の時と一緒で、かわいくて仕方がない。
顔のほうに行かないように、おでこのあたりに手を当ててるのだって、その時から変えてないのに。
「はい、終わったよ」
「へへ、ありがとー」
自然に見つめ合って繋がった目線に、ミーナが目を閉じる。さっきとは違って、私に何もかも預けるように軽く。……その理由なんて、言われなくても分かってる。
重ねた唇は、今までと同じで柔らかい。抱き合った体に、ミーナの熱を直に受ける。
一瞬で、頭が沸騰しちゃいそうなくらい熱くなる。
「お風呂出よっか、もう体熱いもん」
「そうだねぇ……、のぼせちゃいそうだもん、わたしも」
お風呂から出ると、脱衣所の冷たい空気に一気に冷やされる。
手早くタオルで水気を拭いて、寝間着に着替える。
「とりあえず、今日は疲れちゃったし、早く寝よ?」
「もー、最近はいっつもお風呂上がったらすぐ寝ちゃうでしょ?」
寝る前の身支度を整えて、そんな風にすぐミーナが寝かせようとする。
まだまだ、甘えてほしいし、ミーナを想うドキドキで、全然眠くなんてならないのに。
二人で部屋に戻るときも、やっぱり、手は繋がる。いつもより温かいミーナの手のひらが、私の体ごと温めていく。
部屋に入って、点けっぱなしにしてたストーブを切る。その間に、ミーナが布団を敷いてくれている。
寝る前のこの時間が、一番ミーナと距離が近い。やっぱり、ミーナの思惑通りに、電気を消してしまう。
「今日は、すっごく楽しかったねっ」
「うん、今までで、一番楽しかったよ」
闇の中で、ミーナの顔が近づくのが分かる。何したいのかも、はっきりと。
目を閉じた一瞬後に重なったミーナの唇は、柔らかい温もりを残してくれる。
その刺激に、頭の中で、何かが繋がったように思い出す。
「そういえば、おうちデートなんていうのもあるみたいだよ」
「え、何それ?」
ミーナも、食いついてくれる。私も、ミーナも、普通の恋する女の子で、ただ、恋をした相手が、普通とは違うだけ。
「恋人のおうちに行って、……一緒にご飯食べたり、そういう、恋人らしいことしたりするんだって」
「じゃあ、もう毎日カスミとしちゃってるね」
「ふふ、本当だね」
そういう言葉を説明しようとして、今の私とミーナの関係が、ちょうど当てはまってしまうことに気づく。
私とミーナが、人として出逢った初めての日から、そんなこと、してたような気がする。つまり、最初から、私とミーナは、それだけ心が通じ合ってたってこと、なんだろうな。
「明日も、おうちデート、しよっか」
「うん……っ」
自然と、重なるキスは、二人の気持ちが繋がってるって意味。
「じゃあ、おやすみ、ミーナ」
「おやすみ、カスミ」
おやすみのキスをどちらからともなく重ねて、一緒の夢にゆっくりと潜っていく。
次回最終話です。




