10日目(22)―溢れる想い
今日で1周年。
「んー……、もう、経ったでしょ?」
ミーナの声に、時計を見ると、確かに、もう三十分は過ぎていた。
本当に、あっという間みたいだったな。ミーナと過ごす時間は、気が付いたら引き延ばされたり押し縮められたようになったりする。
「じゃあ、ごほうび、ちょうだい、……こっち来て」
「う、うん……」
ごほうびを求められたときからわかってたけど、いざその段になると心臓が高く跳ねる。
ミーナに手を取られて、誘われたのは、ベッドの上。
「じゃあ、……もらうね?」
座ったとこに、急にミーナに肩を押される。不意のことに、あっけなく体は倒れて、その上にミーナが覆いかぶさる。
私、ミーナに押し倒されたんだ。湧いた客観に、頭の奥から熱くなっていく。
「ちょっ、み、ミーナ……?」
「さっきカスミにされたの、全然お返しできてないもん……、駄目?」
「だめじゃないよ……、でも、すっごいドキドキしちゃう……つ」
「わたしも、一緒だよ」
優しく微笑む顔は、逆光なのに綺麗だってわかる。
顔を近づけられて、反射で目を閉じて。でも、唇は降ってこない。
「キスする前の顔……かわいいよ、カスミ」
「もう、からかわないでよ……っ」
「本気だよ、わたし、……だって」
一度言葉が途切れたと思うと、柔らかい唇の温もりが、一瞬だけ唇に伝わる。
「これくらい、カスミのこと、好きだもん」
「ミーナってば……、私も、大好き、だよ」
一度、目を開くと、まつ毛が触れ合うくらい近い距離。
私の言葉で堰が切れたみたいに、ミーナがキスの雨を降らせる。
濃厚で、それでいて優しくて、私への『好き』って熱量を、溢れそうなくらいもらう。
私は、それに、ちゃんとお返しできてるかな。ミーナから重ねられるキスに、ちゃんと応えられているかな。
「ちゅ、……カスミ、なんかさみしそうな顔してたよ?」
「そ、そうかな……」
心の中のもやもやも、いつの間にか見透かされてたみたいで。
「何かあった?」
「う、うん……、ちょっとだけだよ」
でも、こんなに顔が近くて、じっと見られてたら恥ずかしくて何も言えない。
「わたしでいいなら、聞くよ?」
「ありがと……、だから、ちょっとだけ、離れてくれない?」
「えー?わかった……」
しょんぼりとするミーナもかわいいな、なんて不埒な事を思いながら、ベッドサイドに腰掛けて、口を開く。
「今日のデート、すっごく楽しかったんだ」
「わたしも、だよ、それがどうかした?」
「うん、それで、晩ご飯食べてるときにね、何か変な気持ちになっちゃったんだ、……二人でいたほうがおいしいな、なんて」
「へぇ……」
「私、駄目だなぁって、お母さんもお父さんも大事なのに、変なこと思っちゃうなんて」
「何だ、そんなことか」
くすりと、ミーナが笑う。それに、ちょっとカチンときてしまう。
「そんな事って何さ」
「だって、……それだけわたしの事、好きってことでしょ?」
「……あっ」
今更な事実が、胸の中に突き刺さる。
「わたしだって、パパとママは大事だよ?……でも、カスミと二人きりのときが、一番好き」
「そっか……、私も、そうだったんだね」
「そうだよ、……だって、『恋人』でしょ?」
「そうだったね、……ありがと、ミーナ」
もう一回、ミーナのほうに座りなおす。今回は、押し倒されないように、ミーナのことを抱きしめる。相談に乗ってくれて、心を軽くしてくれたんだから、「ごほうび」だって、ちゃんとあげなきゃ。
「大好きだよ、ミーナ」
差し出した唇は、ミーナの柔らかい温もりと溶け合っていって。
お母さんがお風呂に呼びに来る声が聞こえるまで、甘いキスを重ね合った。
今日で最終話まで更新します。




