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私と愛猫(かのじょ)。  作者: しっちぃ


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10日目(16)―一人の寂しさ

 繋いだ手をそのままに、映画館まで戻る。

 手のひらに伝わる温もりで、ずっとミーナがそばにいるってわかってほっとする。

 一緒に歩いてるだけで、ちょっとわくわくしちゃうのは、これが、デートだから。


「飲み物買っちゃおっか、映画始まると二時間くらい外出れないし」

「うーん、そうだね……」


 食べ物売り場に並んで、先に飲み物のラインナップを見て。


「ミーナは、何にする?」

「うーん……」


 そういえば、まだ、そういうの知らなかったかな。何がどんなのかも分からないのに訊いちゃったのは、悪かったな。


「いっつもお茶ばっかり飲んでるから、違うのにしたいな」


 耳元で囁く声に、ドキドキしちゃう。耳元に両手を当てて吐息混じりの声は、ミーナのことを知ってる私にしか聞こえないようにしたいからって分かってるのに。


「じゃあオレンジジュースにしよっか、私もそうするし」

「うんっ」


 私たちの番に並んで、さっきと同じように買う。

 でも、やっぱり別なのにすればよかったかな。そしたら、自然に間接キスできて、ドキドキできたのに。

 デートするのは楽しいけど、キスしたり、ドキドキしたりはあんまりできない。恋人という関係や、デートしてるってことを秘密にしないといけない私たちは余計に。

 そういうこと、もっともとしたいなって思っちゃうのは、それだけ、ミーナのことが好きだから。


「もう、入れるみたいだし、入っちゃおうっか」

「なら、そうしよっか」


 チケットに書かれた番号を見てスクリーンに入って、席を探す。

 前のほうの、ちょっとだけ左寄りの席に、二人で並んで座って、ジュースホルダーに飲み物のカップを差す。

 

「じゃあ、トイレ行ってくるから」

「うん、わかった」


 いっつも、ミーナにはべったりだから、一人になる時間ってほとんどなくて。……その時間が、人になったミーナと出会ってから、寂しいって思ってしまう。

 大好きな人と一緒にいられる時間が、すごく幸せだから、きっとそのギャップってだけなのに。

 女性用のトイレは、こういうときは相変わらず混んでいて、久々に、何の気なしにスマホをいじる。

 壁紙には、やっぱり、猫のときのミーナの写真で。猫だったときのミーナが、ちょっと懐かしいかも、なんて。

 トイレを済ませて、急いでミーナのとこまで戻る。上映の時間が近いのもあったけど、……やっぱり、早く会いたいから。

 息を切らして席まで戻ると、ミーナにからかわれる。


「もー、そんなに急がなくてよかったのに」

「しょうがないでしょ、もう……」


 理由なんて言えない。乱れた息はまだ整ってないし、そんなの言ったら顔中熱くなっちゃう。

 照明が、ふっと暗くなる。そろそろ、映画が始まるって合図。

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