10日目(9)―知らないこと
「なんだろ、すっごく胸の中ワクワクしちゃってるよ」
「私もだよ、ミーナ」
好きな人とデートするっていうのだけで、否応なく胸が高鳴るのは私も一緒、……それが、一番大切で、大好きな、私の恋人とだったらなおさら。
こうやって駅に向かう道を一緒に歩いてるだけなのに、足元が浮いてるんじゃないかってくらいにわくわくする。
やっぱり、ミーナのこと、好きだな。それ以外のこと、何も見えなくなりそうなくらい。
そのせいで、道を見失わないように歩くので精一杯。ミーナが何か話しかけてくれてるけど、受け答えも上の空になりかける。
「駅、着いたけど……、こういうカード、持ってるっけ?」
最寄り駅に着いて、階段を上りきったとこの空いてるスペースで立ち止まる。
手帳型のスマホケースに入れてあるICカードを出して見せる。まだ、こんなことも知らないのは、こういう経験は、ミーナには初めてだし、ずっと一緒にいた時間は、ミーナに財布を出させたこともなかったから。
「待って、財布の中、見てみるね」
「あ、じゃあ携帯見せて?」
「うん、わかった」
コートのポケットに入れていたスマホを受け取って、そういえば、最近私もスマホを使ってなかったなって思い出す。一緒にいる時間は、ずっと、ミーナのことで、頭がいっぱいだったから。それは、きっとミーナも。
私とおんなじ機種の色違いのケースで。案の定というか、そのケースにICカードは差さってた。
「ここにあったよ、どれくらい入ってるか見てくるね」
「うん、ありがとね」
いまいち腑に落ちてなさそうなのは、こういうのは、ちゃんと教えてもらってないからかな。
自販機にちょっと行くだけなのに、不安げな顔をしてるミーナが、すっごくかわいい。ついでに私の分も確認してから戻ったときに、ほっとしたように笑みを浮かべるとこも。
「チャージしなくてもいいみたい、このまま行くよ?」
「はーい」
私の分も大丈夫だから、先に改札を通って、さりげなくミーナに方法を教える。
タッチできてる音が後ろで鳴ったのを聞いて振り返ると、当たり前のことみたいにミーナが私の手を繋いでくる。
「もう、覚えるの早いし、簡単だったよ」
なぜか自慢げに言うミーナに、自然と頬が緩む。ああ、もう、かわいいなって。
一緒の時間をいっぱい過ごしてきたのに、知らなかったことがあったって気づいて、胸の中を温かいものが満たす。返す言葉が見当たらなくて、その代わりに、空いた手でミーナの髪を撫でる。
「じゃあ、行くよ?」
「……うんっ」
自然と見つめ合って、緩み切ったミーナの笑顔が見れた。
まだ目的地にも向かえてないという事実
そして今日で連載12ヵ月目突入です。




