10日目(3)―触れる心
一緒に顔を洗って、部屋に向かう。
服を選ぼうと自分のクローゼットの前に立って、しばらく固まってしまう。
「今日、何着てこうかな……」
せっかく、二人でデートするんだから、服だって気合を入れたい
一緒に過ごしてるんだし、……やっぱり、ミーナが一番好きなものにしようかな。先週、ミーナと出かけた時は、服なんて特に意識してなかったのに。デートするときの服を考えるってだけで、こんなに難しくなるんだ。
そんな悩みも、ミーナとならちょっと楽しいかも。……なんて、惚気話みたいかな。
「ねえ……ミーナは、どれが似合うと思う?」
「うーん……」
冬物の服を一通り並べてはみたけど、……あんまり私服は着ないから、種類はあんまりない。
「こんなの、似合うと思うな」
ミーナが手にとったのは、アイボリーのニットと、ボルドーのゆったりとしたスカート。
自分の前に当てて、鏡で着たときの姿を見ると、ちょっと大人っぽくて素敵かも。
「ありがとっ、……じゃあ、ミーナの分選ぼっか?」
「んー……、じゃあ、お願い」
結局着ない分を仕舞って、ミーナの分の服を見る。
やっぱり、……かわいいのがいいかな。白くてふわふわのタートルネックと、ちょっと暗めのピンクのロングスカート。
ミーナの前で合わせると、……なんだろう、ドキドキしちゃうくらいかわくて、一番かわいいとこ、見てるような気分。
「こんなんで、どう?」
「うーん、……わたしには、ちょっとかわいすぎるよぉ……」
「そんなことないよ。ミーナはかわいいもん」
「そうかなぁ……」
顔を赤くとこが、余計にかわいい。
そんなこと、思ってたら、急にミーナが動く。
私の前に、ミーナに選んだ分の服を当ててくる。
「カスミも、似合うね……、かわいいもん」
「そ、そんなことないってぇ……っ」
不意にされた仕返しに、どうしようもなく顔が熱くなる。
でも、めちゃくちゃ、嬉しい。私のこと、そんな風に言ってくれて。
「カスミが着たほうが、似合うと思うなぁ……」
「私、全然かわいくないし……、んんっ!?」
なんて言おうとしたのかを、続きの言葉ごと、唇に塞がれる。
重ねられた瞬間に、頭が真っ白くなって、
「ねえ、……わたしの好きな人のこと、そんな風に言わないで……?」
持ってた服を手放して、私にすがってくる。
その姿が、ほんのちょっと前までの、猫だったときのミーナに一瞬重なって。
周りなんて見えなくなるくらい、ミーナのことでいっぱいになる。
「ごめんね、ミーナ……」
「ん……、いいよ、カスミ」
重なった視線に、自然と唇が触れあう。
「やっぱり、カスミが選んでくれたのにするね……?」
かわいいって言ってくれたし、って、ミーナがぼそりと呟いた声。
その声のほうが、よっぽどかわいくて愛しい。
「ありがとね、ミーナ」
抱き合う体は、お互いの心も温めて。
早く、デート行こっか。自然と漏れた声に引っ張られるように、選びっこした服に手を取った。
この子達はいつになってらデートに行ってくれるんだろう。




