9日目(18)―変わらぬ気持ち
ミーナの熱をしばらく堪能して、唇を離される。
まだ、ミーナの背中、洗いきってないって今更思い出す。
「ミーナ、……まだ、終わってないよ?背中向けて?」
「わかったよ、カスミ……」
渋々と言った風に背中を向けるミーナ。唇を尖らせたとこが、キスする前の顔に見えて、ちょっとドキっとする。
背中に書いた文字の跡がまだ残ってて、魔が差したことを忘れるために、慌てて指で消す。もう泡はミーナの背中全部に広がってるけど、それだけしておきたかった。
「終わったから、流すね?」
「うん、わかった」
書いた気持ちを消すためだけにそうしたのをごまかすように、他のとこも申し訳程度に洗ってから、シャワーを流す。
温かくなったのを確認してから、ミーナに声をかける。
それでも、何かをこらえるように、シャワーの水が体に当たった途端、ピクリとするのがかわいくて仕方ない。
背中を撫でて、残った泡を落とす。思わずこっちを見るミーナの目が、ちょっと怯えてるみたいで、そこも愛しくて。
「うぅ……、何か、ごめんね?」
「いいよ、でもまだお風呂はちょっと苦手かな……」
人として生まれ変わったときから、人の暮らしに慣れていたみたいに見えたけど、お風呂だけはまだ駄目なんだ。
こんな、私しか知らないとこ、気づく度ににやけてしまう。だって、私にとってのミーナは一番『特別』な人だから、……きっと、ミーナも私のこと、そう思ってくれる。
「でも、カスミと一緒だから、お風呂ちょっと好きかも、いっぱいドキドキできるし」
「ちょっと、ミーナっ……、変なこと言わないでよ……っ」
でも、思うことは、私も一緒で。
ミーナの隣に膝立ちして、顔が同じ高さになるようにする。
「でも、嬉しいな、……私も、もっと、ミーナとドキドキしたいもん」
「んもう、カスミってばぁ……っ」
……ちゅっ。
言葉を紡ぐよりも、唇を重ねたほうが、いろいろなものが伝わる。
ミーナの命を繋ぐためにしてた事は、今は二人の気持ちを伝え合う行為になった。
そんな風に、私もミーナも、変わっていくのかな、……でも、二人で一緒にいられるのは、変わらないでほしいな。
こんな事、恥かしくて絶対言えない。
「他のとこ、洗わなきゃね。……このままだと、風邪引いちゃうよ?」
「そっか……、そうだね」
口から零れたのは、思った言葉とは、全然違うこと。
今は、まだ変わりたくない。ようやく掴んだ幸せは、まだこのまま残していきたい。ずっとこんな風にいられるわけじゃないのは、わかってるけれど。
一人で体洗うのって、こんなあっさり済んじゃうっけ。ミーナに背中を流してもらったり、洗いっこしたりするときは、いろんな気持ちが溢れて、胸の中がいっぱいになるから、長く感じるのかな。
「もう、洗い終わった?」
「うん、大丈夫だよ」
そう言うミーナの言葉で、二人で浴室を出る。
「今日は、早く寝よっか、……デートの時間、長くしたいもんね」
「いいよ?……明日、楽しみだね」
私の提案に、あっさり乗ってくれる。私とデートするの、楽しみにしてくれてるんだ。それだけで、胸の奥が軽くなる気がする。
寝る準備も、意外とあっさり済んで、あとはベッドに入るだけ。
「おやすみ、ミーナ」
「……うん、おやすみ」
自然と重なった、おやすみのキス。
体は、いつもみたいに抱き合っていて、……ミーナの温もりって、なんでこんなにほっとするんだろう。
楽しみすぎて眠れないかも、なんて思ってたけど、優しい体温と甘い香りに、自然と意識を手放した。
1日に2万文字もかけて自分は何をやりたかったんだろう。
そんなことより10日目はいよいよデート回です。さすがに気分が高揚します。




