9日目(14)―重なる視線
「ねえ、今は『恋人』でいていいよね……?」
抱き合って、お互いの匂いがわかるような距離。何かを求めるような目線で、じれったそうに、ミーナが訊いてくる。
「うん、……もちろん、だよ?」
ミーナが何をしたいのか、もう体が、わかってるみたいだ。
ゆっくり、目を閉じて、顔を寄せる。ミーナの肌の香りが、その一瞬ごとに濃くなっていく。
……ちゅっ。
もう、我慢できない。『恋人』らしいこと、一緒にしたい。
それは、ミーナも一緒だったみたいで。
交わされる濃厚で濃密なキスに、頭の中、溶けちゃいそうになる。
お互いの気持ちが重なり合う水音と、漏れる、甘いような切ないような声。
恋人同士じゃないとできないような深いくちづけに、体が、どんどん熱くなって、唇を離してしまう。
息が限界なのもあるけど、これ以上キスしてたら、もっともっと先の、戻れないとこまで、行ってしまいそうになるから。
「ミーナぁ……、すっごく、ドキドキしちゃったぁ……」
胸に顔を埋めて、白旗を揚げる。
「わたしもだよ、カスミ」
背中を、ぽんぽんと叩く手のひらの感触。なんだか、あやしてもらってるみたいで、でも、その感触が、気持ちよくて。その温もりに、甘えてしまう。
「カスミ、……すっごく、かわいいね」
「そんなことないよ、……ミーナだって、かわいいのに」
「もう、そんな事言わないでってよ、恥ずかしいから……っ」
そんなとこが、かわいいのに、ミーナは。
でも、それをからかったら、照れ隠しで何をされるか分からないし、黙っておくことにする。
「そろそろ、勉強しとかなきゃね、……お風呂上がったら、すぐ寝ちゃうでしょ?」
「うぅ……、そうだねぇ……」
ミーナも十分勉強にはついていけてるみたいだけど、毎日やっておかないと大変なことになる。
もっといちゃいちゃしてたいし、それはミーナもきっと一緒だけど、それとこれとは別の話。
ノートを取り出して、背中合わせで机に向かう。
背中の後ろでがんばってる気配があるから、私も、それに背中を押されて頑張れる。
不意に、肩をつつかれる。後ろを振り向くと、
「ねえ、カスミ、ここ、わかる?」
ミーナの隣に立って、かがんで問題を見る。ここなら、得意なとこだから、普通に教えられる。
「あ、これはね、教科書のここにある、この式を使えばいいよ?」
しばらく数式を書いて、それからカリカリと答えを導き出す。
「できた!……ありがとね、教えてくれて」
「ううん、どういたしまして」
ミーナが、こっちを見上げてくる。ちょうど、目が合って。
重なった視線に導かれて、そのままお互いの唇が触れ合った。
いつになったら9日目は終わるんですかね




