9日目(13)―秘密の意味
ついに70話なのです!
二人きりの部屋に戻ると、なんだか安心する。
遠慮なく『恋人同士』でいられるし、私しか知らないミーナのことが、いっぱい増えるから。
「ねえ、カスミ?」
もうちょっと甘えてたくて、二人でベッドに座ると、突然ミーナが真剣な目で私を見つめる。
「な、……何?」
「なんで、『デート』って言わなかったの?」
普段のミーナからは考えられないくらい、険のある声。その声に突き刺された私は、一瞬でうろたえてしまう。
「え……、だって、私とミーナが『恋人』だっていうの、秘密にしよって……」
「じゃあさ、なんで、そんなことするの?」
それを話すことは、この、脆い関係を終わらせてしまうかもしれない。そんな不安が、私の中に渦巻いて、何も言えなくなる。
でも、ちゃんと言わなきゃ。私とミーナのつながりのこと。
「あのね?ミーナ……」
「何?」
その言葉すら、棘があって、私の心に突き刺さる。
「私とミーナが、……女同士が『恋人』になるのって、普通じゃないことなの」
その言葉を吐き出すのに、何度も躊躇って、でも、これは、ちゃんと言わなきゃいけないことだから。
「……え?」
「だって、普通は男と女ですることでしょ?……ミーナだって、猫のときは、男の子と子供作ろうとしてたでしょ?」
「そうだけど……、でも、わたし、カスミの事好きだし、我慢できないもん……っ」
さっきまで鋭かった目は、いつの間にか涙をこらえてるのに必死になっていて。私に、かわいい、なんて場違いなことを思わせてしまう。
「私も好きだよ、ミーナのこと、……ずっと、『恋人』として生きてたいくらい」
ぎゅっと、ミーナのことを抱きしめる。それをただ、ミーナは受け止めるだけ。
「でも、どうしても、秘密にしなきゃいけないの、ごめんね?……」
何を続けようとしたんだっけ、目元に感じる熱さと、溢れそうになる涙をこらえようとして、これ以上何も言えない。
「わたしも、ごめんね?カスミのこと、疑って……っ」
涙声になったミーナのこと、優しく抱きとめる。ミーナが、私にそうしてくれるみたいに。
「私も、ごめんね……?」
唇が触れる。私の言葉を塞ぐように重なったそれは、ミーナの精一杯の返事。
私も、その口づけに応える。溢れる涙をこらえるものは、もう何もない。
交わしたキスは、互いの涙でしょっぱくて、でも、胸の中はずっとずっと甘い。
唇が離れると、ミーナの顔が、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「もう、ミーナってば、顔すごい事になってるよ?」
「カスミだって、そうでしょ?……」
そうやって笑いあう。泣いてる顔だってかわいいけど、やっぱり、笑ってるミーナが一番好き。
濡れた顔をミーナに拭いてもらって、それから私もミーナの涙を拭う。
自然と抱き合った体が、お互いを温め合う。
「色々大変かもしれないけど、……これからも、ずっと、『恋人』でいよ?」
「……うんっ!」
誓いのキスみたいに重なった口づけは、私とミーナの心を、もう離れないくらい結んでいった。
痴話喧嘩でもさせようと思ったのにどうしてこうなった。




