9日目(9)―溺れる体
今日がちょうどこの二人の物語の9日目にあたるしこんなこと考えるんだろうなぁ
ストーブの熱が、部屋中を包むより前に、私たちの体のほうが、交わしたキスで先に熱くなる。
唇を離して、力の抜けた体は自然にミーナに寄りかかる。
「すっごい、熱くなっちゃったね……」
「ほんと、そうだねぇ」
でも、その熱すらも、好きになる。それくらい、もう、私はミーナに溺れてるのかもしれない。
一緒に服を着替えてから、学校でしようとした話をもう一回切り出す。
「明日、何しよっか」
「そうだなぁ……」
正直、ミーナと一緒なら、何だっていい。でも、……いつもとちょっと違う、『恋人』らしいことしたいって思う私がいる。
先週の週末に、二人でおでかけしたけど、……今度は、『恋人』として。
でも、それを言い出す勇気は、まだない。でも、思い出したことが、一つ。
「ミーナがおさんぽしてたとこ、一緒に行ってみたいなって」
二人で一緒の傘に入ってたときに、そんな事を言ってたのを。それに、ミーナがあっさりと賛成してくれたのも。
「そういえば、言ってたねぇ……、でも、それだけじゃちょっと寂しくない?」
あ、そっか、……それだけっていうのも、『デート』と言うには物足りないし……、でも、そんな事言ってくれるなんて、私と一緒にお出かけするの、楽しみなのかな。
そんなことを考えて、頭がとろけちゃいそうになる。
「そうだなぁ……、映画とか見に行く?」
デートといえば、やっぱり映画なのかな。昔いた彼氏との初デートも、やっぱり映画館だったし。
「うーん……、何かみんな言ってたのあったよね」
ミーナがつぶやいたタイトルは、最近ずっとどこかしらで聞くのだった。
「そういうの、一緒に見に行かない?」
「私、そういうのあんまりわからないし……」
そっか、ミーナはほんのちょっと前まで猫だったんだ。『二人』でいる時間が、すっごく長く感じて、ミーナが人に生まれ変わったのも、ずっと前みたいなように思えてしまうから。
「でも、カスミと一緒なら、いいよ……?」
なんだろう、そう言うミーナの目が、ちょっと潤んでる。
その言葉に、私も、ドキドキしてしまう。「私と一緒なら」なんて、私がミーナにとっての『特別』じゃなきゃ、出ないような言葉だから。
「じゃあ、これでいい?」
「うんっ」
私にとっての、ミーナとの初デート。
それがようやく決まって、頭で考えてたのが、全部吹き飛ぶ。残ったのは、ミーナに抱いてる熱い熱い想い。
顔を近づけて、キスをするまで、もう意識しなくてもできちゃう。
繋がった気持ちは、いつの間にか二人の距離を無くしていた。
その人気映画の名は多分あれじゃないかな。




