9日目(6)―期待と不安
昨日はいい夫婦の日だったけどきっとこの子達すっごく優秀な百合夫婦になれる。
整列するのも、準備体操も、ミーナにとっては初めて。
同じ苗字だから、出席番号も一つ違いだし、さりげなく手を握ってどこに行くのか教えてあげられる。
準備体操をしてるときも、普通に並んでるときも、後ろからの視線が、気になってしまう。まだ、ミーナが後ろにいるのには、体は慣れてくれない。
二人組になって、パスをしあうのも、当たり前みたいにミーナとする。
私の蹴ったボールは、3メートルも離れてないミーナの元に頼りなく向かってくのに、ミーナの蹴ったボールは、後ろに逸らさないようにするのが精一杯なくらい速い。
「もー、なんでそんな速く蹴れるの?」
もう、足がちょっと痛くなる。まだまだ元気そうなミーナが、不思議に思える。
「うーん……、膝から下で蹴る、のかな……」
「そう?やってみるね?」
さっきより、膝を回すことに意識を入れて、ちょっと距離をとったミーナのもとに思いっきりキックする。
足の甲がジンジンしたけど、勢いよく蹴りだされたボールはあっという間にミーナの元に届いていた。
「凄いじゃん、カスミ!」
「ありがと、でも足痛いや……」
かがんで、足をさすってると、離れてた私とミーナの距離が、いつのまにか無くなっていた。
「頑張ったね、お疲れ」
思わず身を起こすと、抱き寄せられた。痛みでうまく動かせない足は、そのままミーナに体を預けることを選んでた。
恥ずかしくなったのか、一瞬で抱いてた腕は離されたけど、預けてる体は、そのままにしてくれた。
「もー、ミーナってば、まだ準備運動なんだよ?」
「でも、もうカスミってば、疲れてるじゃん」
「そうだけど……」
そう言える筋合いなんてないのは、私が一番分かってた。けど、ちょっとだけ、人間としてずっと長く生きてたから、そうやって「お姉ちゃん」ぶってみたくなってた。
でも、やっぱり、ミーナに甘えてばっかりだ。ミーナが猫だったとき、誰にも言えない悩みを聞いてもらって、慰めてもらったみたいに。
でも、今更どうやったって変えられない。私にとってのミーナは、『恋人』っていう、今までよりずっとずっと深い関係になった、私にとっての、一番大事な人で。そんな人と一番近くにいて、甘えないでいるなんて、できるわけがないもの。
ミーナがここにいなかったとき、私が入ってたチームだけ一人少なかったから、ミーナとここでも一緒になれる。試合が始まる前、もう体はいつもよりずっとドキドキしてる。
私、どうなっちゃうのかな。試合が始まる笛が鳴ったとき、期待より、不安のほうがちょっと大きかった。
8万文字到達したっぽい?




