不幸少女、親友への贈り物はお蔵入りです
翌日、姫乃ちゃんは本当に生徒会室へ乗り込んで行った。
凄すぎる。彼女には躊躇いと言うものがないのか? 生徒会室は入学して間もない一年生が訪れる場所ではないのに。
そして数十分経たぬ内に彼女は残念そうにとぼとぼと帰って来た。もしやもう親衛隊の餌食になってしまったのだろうか? しかし私の予想は違った。
「真央ちゃ〜ん。生徒会室、開いてなかった。教室にも行ったけどいなかったよ〜」
「それは残念だったね。時間を置いてまた行ってみれば?」
「そうしてみる!」
彼女は握り拳を上に挙げて意気込みを表現した。きっと次の休み時間にも生徒会室に行くと思う。そこにいなかったら教室にも顔を出すのだろう。
王子に会えるまで諦める気はない。そう目が語っていた。まるで獲物を狙うチーターだ。
私は後方援助サポートキャラなのでただ頑張ってとしか言いようがない。
そう応援するものの惜しくもその日は結局姫乃ちゃんが王子と会うことはなかった。
次の日もその次の日も王子とのエンカウント…… とこの場合言っていいのかわからないが、それはなく、かれこれ一週間彼女は任務に失敗していた。それはもう私の不運が彼女に移ってしまったのだろうかと思うくらいついてない。
今更なのだが、彼女が高熱で入学式に出られなかったのも同室である私のせいではないかと思う。
……いや、考え過ぎか。流石に会う前から不幸にさせるなんてことはないだろう。……そう思いたい。
*
一週間経っても進展がなかったので私も動き出すことになりました。
あくまでひっそりとだ。私は某お姫様みたいに無鉄砲で猪突猛進ではない。
予め王子のクラス割り、王子が取ってる選択科目、王子がよく現れるスポット、朝昼晩王子が学食に来る時間、それから登校時間に生徒会が終わって帰る下校時間を入手し、月曜日から土曜日までの大体の王子のスケジュール表を作ることにした。
ちなみに情報源の多くは女子生徒が話していたのを盗み聞きした。盗み聞きというよりは聞き耳を立てたと言ったほうが良い。
そうして夜中に『王子の時間割分布マップ(試作品)』は完成した。しかしまだこれは試作品なので姫乃ちゃんに渡すことは出来ない。
先に述べたように情報源の多くは女子生徒からだ。私が直接見たわけでもないので、信憑性が低い。
だからまずは私が実証することにした。やるからには完璧な物を作り上げたい。私のやる気は王子様探しではなく、もはや別の方向に向いていた。
「で、出来た!」
改良に改良を重ね、ついにその時はやって来た。名付けて『王子の時間割分布マップ改』だ。
王子の1ヶ月のスケジュールを緻密に統計し、お昼休みにいそうな所ベスト5なども作った。よく学食で食べるメニューベスト5も作り、そこから導き出せる好きな食べ物と嫌いな食べ物も書いた。我ながらいい出来栄えだ。
改良版が完成して最初こそ達成感で満ち足りていたが、段々と虚しくなってきた。よくよく考えれば1ヶ月も王子のストーカーもどきをしていたことになる。 お陰で私の頭には嫌でも王子の行動範囲やら好きな食べ物など、私にとっては無意味な情報が入ってしまった。こんな情報いつ使うんだよと言いたい。
……これも親友の為だ。きっと喜んでくれるに違いない。
私は早速姫乃ちゃんに『王子の時間割分布マップ改』を渡す。
そして絶望した。
「あれ? 真央ちゃん、言ってなかったっけ? わたし、蒼馬会長に会えたよ?」
なん……だと?
姫乃ちゃんは既に王子と接触していたらしい。しかも名前呼びとは。更にはごり押しして生徒会に入ったという新事実が発覚。
私は『王子の時間割分布マップ改』を完成させるのに夢中で全然気付かなかった。
今思えば、確かに王子の周りにいた女子生徒の中に姫乃ちゃんっぽい人がいたような気がしないでもない。
……勘弁して。私の1ヶ月を返して欲しい。
血と汗と涙の結晶は一瞬にして砕け散った。『王子の時間割分布マップ改』はお蔵入りである。
自分で言っちゃあれだが、あんな物持ち歩けない。下手したら捕まる。後で南京錠買って来よう。机の引き出しの中で厳重保管だ。
勿論捨てた方が証拠隠滅になる。けれども捨ててしまっては本当に私の1ヶ月も仲良くゴミ箱行きなのでそれが嫌だった。いつか役に立つ日が来る。そう思うしかない。
そして後に私は本当にこの『王子の時間割分布マップ改』に助けられる事になるのはまだ少し先の話である。




