不幸少女、美少女とお友達になります
人間そう簡単には変われない。その通りだと思う。 星霜学園に入学して1週間が経った。私は未だに友達が出来ていない。これは致命的だ。
周りは既に仲の良いグループが出来ている中、私は窓際の一番後ろの席で静かに本を読んでいる。この状況は非常に良くない。何故こうなってしまったのか。
1週間、私は自分から同じクラスの子に話し掛ける事が出来なかった。向こうから話し掛けてくれる事はあったが、提出物を出して等、どれも事務的な内容である。それ以外で私がクラスで発した言葉と言えば一番初めに行なった自分の名前だけを述べた簡単な自己紹介と毎日取る出欠席の返事のみである。
周りがどんどん仲良くなっていく中、私はどのグループにも属する事が出来ず、ひたすら読書に呈していた。これは完全に自分のせいだ。本を読んでいる時点で駄目だろう。話し掛けるなと言っているようなもんだ。
極めつけ私の外見は前髪が伸びきって表情が伺えない地味な女。やはりイメージチェンジやキャラクターチェンジをするべきだったか。けれどももう遅いし、そんな勇気は持ち合わせていないので無理だ。
そんな訳で、暗い、地味、無表情の私は現在ぼっちである。教室の端っこに住み着いて動かないからか、陰で座敷童子なんて呼ばれているらしい。
座敷童子、良いじゃないか。家に富をもたらすのだから。見た者は幸運になれるのだ。そうだ、悪い方向に考えてはいけない。素敵なあだ名を私は貰ったのだ。
それに私の希望はなくなってはいない。まだチャンスがあるのだ。私と同室で席替えにより私の前の席になった愛澤姫乃さん。私は最後の希望を彼女に託している。
と言うのも彼女はまだ学校に来ていないのだ。入学式の前日に高熱を出し、熱が中々下がらずに欠席していた。私の部屋には彼女の生活用品だけが段ボールに包装されたままかれこれ1週間放置されている。
そんな彼女が今日やっと学校に来るらしい。これは寮母さん情報だ。今朝部屋に訪れた形跡がない所を考えると、そのまま学校に来るのだろう。そろそろ来てもおかしくない。私はちらちらと掛け時計を確認する。
私の計画はこうだ。入学式も出れず、1週間も休んでしまった彼女はさぞかし心細いに違いない。そこで私が彼女に声を掛け、安心させる。更には同室で前の席だからこれから仲良くしてねと言うのだ。
……完璧だ。これでぼっち脱出、友達ゲットである。
彼女の為に授業中ノートも綺麗にとった。準備は万端だ。さぁ、いつでも来いと本を持つ手に力を入れる。
そしてその時がついにやって来た。ガラガラとドアの開く音にいち早く反応する。
「お、おはようございますっ」
現れたのは美少女でした。
亜麻色の艶やかな腰まである長い髪に白い肌。蜂蜜を塗ったかのように美味しそうな唇。くりくりとした丸い瞳。ほんのりと色付いたた頬。華奢だけど出るべきところはしっかり出ているモデル体型。
彼女が愛澤さん?
クラスの生徒の注目を浴びている彼女は恥ずかしそうにしながらも自分の席を探しているのか、キョロキョロと目が動いていた。
王子の時と同様、皆は魅入っていて声を掛ける者はいない。私もあまりの可愛さに放心したが、当初の計画通り任務を遂行しなくてはならない。
「あ、愛澤さん!」
「はっはいっ!」
「その…… 席はコチラで御座いますです」
テンパり過ぎて語尾が訳の分からないことになった。皆は私が大声で、しかも私が自分から彼女に話し掛けたことに驚いたのか、凄い目で私を見て来た。
耐えろ自分。この視線に打ち勝たなければ第二関門は突破出来ない。
そそくさと私の前の席に来た愛澤さん。近くで見るとより一層美少女である。可愛い。こんな可愛い女の子は初めてだ。王子と並んだら絵になる。美男美女。それこそ童話に出て来る王子とお姫様だ。
「わ、私は黒咲真央…… です。愛澤さんと寮が同室で席も近いので…… 仲良くして下さいましっ」
コミュ障かっ! いや、どう考えても私はコミュ障なんだろうけど。
謎の間に最後は何時代を生きてるんだよと言いたくなるような語尾。恥ずかしい。愛澤さんなんてきょとんとしてしまっているではないか。その顔も可愛いです。
「ぷっ…… ふふっ。黒咲さんって面白いね。わたし、愛澤姫乃。よろしくね。ねぇ、真央ちゃんって呼んでもいいかな?」
「ぜ、是非とも!」
嗚呼、神様仏様。ありがとうございます。漸く私に幸運をもたらしてくれてありがとうございます。黒咲真央、ミッションクリアです。




