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続きです。
「おい! 何やってんだ、お前ら・・・・・・? 火遊びなんてするもんじゃないぞ」
「おっと・・・・・・」
そんなことをしていたら、準備を終えたリサが空の台車を引いてやって来た。
通路が狭いだけに少々やりづらそうだが、しかし慣れているようでその動きはスムーズだ。
リサの来訪に、慌てて火を消す。
いや、能力を解除すると言った方が適切か。
俺の意志に従って、炎は剣身もろとも消えた。
台車を引くリサを見て、リタが少し目を丸くする。
「あれ? 今日はあの二人は来ないんですか?」
「ああ・・・・・・あいつらか・・・・・・。あいつらは今日は伐採の方に行ってる。この近辺の汚染は本当に酷くてな・・・・・・ちゃんとした樹木が生えるのはだいぶ遠くだ。だから出来るだけ多くの木材を持ち帰りたいだとよ」
二人が誰のことについて話してるのかは分からないが、どうもいつもより人数は少ないらしい。
「ということは人手がいつもより・・・・・・」
そう呟くリタの視線が俺に向く。
それに倣うようにリサもこちらを見た。
リサの視線はただリタが見てるから見たというだけで意思がこもっている感じはしないが、リタの視線には何かを確かめているような感じがありありと表れていた。
欠員二人分に相当する能力が俺にあるのか、といったところだろう。
「まぁ・・・・・・あの二人は制御不能ですしね・・・・・・」
「はは、言えてる・・・・・・」
とりあえず今は俺に軍配が上がったようだ。
リサはリタの言葉で何か苦い記憶を思い出したようで苦笑いしている。
ともかく、俺に関しては全く期待されていないというわけでもないらしく、それに多少安心した。
「それじゃ・・・・・・二人の準備はいいかい?」
リサが台車を引いて、“壁”の扉に手のひらを触れる。
いよいよ出発の時間のようだ。
ただの狩りとはいえ、そもそも激しい肉体労働の経験がないのでそれなりに緊張する。
俺の表情がやや硬くなったのに気づいたか、リタが顔を覗き込んできた。
その視線に頷いて答え、最終確認を済ませる。
それを受けて、リサはついにその重々しい扉を押し開いた。
「おぉ・・・・・・」
その瞬間、日当たりの悪いこの街に外の光が雪崩れ込んでくる。
停滞していた空気が吹き込む風に掻き回され髪を揺らす。
新鮮な空気を吸い込むと、その清涼さに胸がすーっとした。
そうだよ。
この解放感、これこそ異世界だ。
先陣を切って外側へ向かったリサの背を、正確には彼が引く台車を、リタと並んで追う。
扉の外に踏み出せば、一気に視界が開けた。
昨日上空から見下ろした緑が一面に広がっている。
風がその小さな葉を揺らし、波を再現する。
果てしなく続くと思えるほどの、緑の海だ。
「これが・・・・・・外」
前の世界の息の詰まるような感覚とは縁遠い。
セカンドの閉塞感からの解放も相まって、心地よかった。
「・・・・・・しかし、汚染って言っても草は生えてんだよな」
それならまだそんなに大したこともないのかもしれないと一人呟く。
しかしすぐにそれをリタが訂正した。
「これら草花の生命力は侮れませんからね。汚染の目安といった意味では当てになりませんよ」
「あ、そうなんだ・・・・・・」
そう甘くはないようだ。
しかしこの景色の美しさに変わりはない。
むしろ小さな植物の力強さを如実に感じられるというわけだ。
「おい、二人とも〜? 何してんだぁ?」
一人少し先に進むリサが、歩みの遅い俺らを振り返って呼ぶ。
せっかく来させてもらったのだから迷惑をかけるわけにはいかない。
先行するリサに追いつこうと、台車の車輪の跡を俺たちの歩みでなぞった。
続きます。




