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続きです。
リタに俺の算段を説明する。
それ自体には納得したようなのだが、やはり俺があまりにも弱そうなのが気にかかるらしい。
しかし実力と見た目は必ずしも一致しないもの。
というかリタもその手合いなのではなかろうか。
いや、いかにも魔法使い然としているから違うのか?
「マナトって・・・・・・魔法は使えないですよね?」
「ああ。リタの・・・・・・あの空中歩行? あれで初めて体験した」
「それで武術の心得は・・・・・・」
「無い」
リタが表情を歪める。
正気を疑うような、ともすれば若干引き気味かもしれない。
しかし逆に・・・・・・と続ける。
「まーるで何の役にも立たない男を世界の危機に召喚すると思うか?」
「いえ、それは・・・・・・まぁ・・・・・・」
普通に考えればそれは有り得ない。
だからリタも少し考え込むようにする。
納得まではいかずとも、そうでないと筋が通らないのは理解できているはずだ。
まぁ実際のところ、召喚時点では本当に何の力も無かったのだが。
そう、その点はなかなか引っかかるところだ。
まぁ考えても仕方ないが。
「じゃあ・・・・・・リサさんが来るまで少し時間がありますし、一体どんなことが出来るのか一回見せてくれませんか?」
「ああ、構わないぞ。どうせ狩りのときゃ使うつもりだったしな」
リザードマンのリサは、狩りの準備に一度家に戻っている。
俺たちはそのリサが来るのを街を囲う“壁”の側で待っているのだ。
俺の能力を見られるリスク、それはよく分からない。
もしかしたら類似する魔法があって嫌がられるかもしれないし、それかその特殊さ故に恐れられるかもしれない。
だがまぁリタに見られる分には問題ないと考えていた。
どの道視線が気になって使えないじゃ、貰った意味がないし。
ただ一応見られるのは最低限にしたいので周囲を窺う。
道行く人はちらほら見かけるが、まぁこちらを気にする様子はない。
問題ないと判断し、いよいよそれを披露する。
俺自身ちゃんと見るのは初めてなそれを。
「・・・・・・」
静かに見守るリタの視線を受けながら、手のひらを自らの胸の前へと持っていく。
瞳を閉じて意識を集中する。
すると、胸にかざした手のひらに熱を感じた。
それを受けて目を開けば、俺の胸の中心が服越しに暖かく光っているのが見えた。
リタも俺自身も、その様を固唾を飲んで見守る。
その熱に手を伸ばし、そしてそれを引き抜いた。
「これは・・・・・・」
リタがその輝きに目を丸くする。
俺の胸から真紅の刀身が姿を現す。
その刀身を覆い隠すように燃え上がる炎。
それが与えられた能力の姿だった。
「どうだ?」
完全に剣を抜き放つ。
揺らめく炎が、俺たちの影を踊らせた。
「これが・・・・・・あなたの・・・・・・?」
「ああ」
俺自身ちゃんと見るのは初めてなので、その炎の輝きに見惚れる。
これが意のままに操れるというのだ、心が躍らないわけがない。
しかし、リタの表情に驚きはない。
この神秘を前にして、しかしその威光を感じる様子がない。
「あれ? リタ・・・・・・さん?」
「あ、いえ・・・・・・」
俺の声にリタが我に帰る。
「その・・・・・・こういう魔道具は珍しくもないですし・・・・・・炎を操る魔法にしても比較的平易なものに見えるのですが・・・・・・」
「あ、そう・・・・・・?」
どうやら魔法使いの視点からすれば、これはさほど神秘的なものではないらしい。
しかし魔法が瘴気を生むというのだから、この部分は肝になるだろうと説明を加える。
「だとしても、な。これは魔法・・・・・・ではないらしいんだ。だからこれを使うことにリスクはない」
それに・・・・・・。
「それに、実を言うとこれが出力の最大ってわけでもない。まぁ俺が扱い切れる出力の最大ではあるんだけど・・・・・・」
本来の最大出力。
空から落下してる時は助かるためにそれを使おうとしたが、まぁ今はその必要もない。
「ん・・・・・・なる、ほど・・・・・・。大体わかりました」
リタが俺の言葉を飲み込んで、もう一度刀身の観察を始める。
その眼差しは真剣そのものだった。
「炎は安定してる・・・・・・けど刀身自体は短くてやや装飾過多、というか刃がついていない? 魔道具としての精度は高いみたいだけど・・・・・・・・・・・・」
「ど、どう・・・・・・すか?」
何故だか俺自身が品定めされてる気分になって尋ね返す。
それにリタは唸るようにしながら答えた。
「品質はいいようですけど・・・・・・特別強く、はな・・・・・・い?かなぁ・・・・・・」
「な、なるほど・・・・・・」
最初の想定とはまるで違う微妙な評価。
狩り目的で最大出力というわけにもいかないだろうし・・・・・・。
「これは俺の実力で名誉挽回が必要そうだな!」
何せこの力はこれからの人生を共にする相棒だ。
しっかりとこいつの良さを分からせてやらないと。
続きます。




