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ムーンライト・エンブレイス  作者: 空空 空
セカンドホームタウン
11/67

1-10

続きです。

 リタに俺の算段を説明する。

それ自体には納得したようなのだが、やはり俺があまりにも弱そうなのが気にかかるらしい。

しかし実力と見た目は必ずしも一致しないもの。

というかリタもその手合いなのではなかろうか。

いや、いかにも魔法使い然としているから違うのか?


「マナトって・・・・・・魔法は使えないですよね?」

「ああ。リタの・・・・・・あの空中歩行? あれで初めて体験した」

「それで武術の心得は・・・・・・」

「無い」


 リタが表情を歪める。

正気を疑うような、ともすれば若干引き気味かもしれない。


 しかし逆に・・・・・・と続ける。


「まーるで何の役にも立たない男を世界の危機に召喚すると思うか?」

「いえ、それは・・・・・・まぁ・・・・・・」


 普通に考えればそれは有り得ない。

だからリタも少し考え込むようにする。

納得まではいかずとも、そうでないと筋が通らないのは理解できているはずだ。


 まぁ実際のところ、召喚時点では本当に何の力も無かったのだが。

そう、その点はなかなか引っかかるところだ。

まぁ考えても仕方ないが。


「じゃあ・・・・・・リサさんが来るまで少し時間がありますし、一体どんなことが出来るのか一回見せてくれませんか?」

「ああ、構わないぞ。どうせ狩りのときゃ使うつもりだったしな」


 リザードマンのリサは、狩りの準備に一度家に戻っている。

俺たちはそのリサが来るのを街を囲う“壁”の側で待っているのだ。


 俺の能力を見られるリスク、それはよく分からない。

もしかしたら類似する魔法があって嫌がられるかもしれないし、それかその特殊さ故に恐れられるかもしれない。

だがまぁリタに見られる分には問題ないと考えていた。

どの道視線が気になって使えないじゃ、貰った意味がないし。


 ただ一応見られるのは最低限にしたいので周囲を窺う。

道行く人はちらほら見かけるが、まぁこちらを気にする様子はない。

問題ないと判断し、いよいよそれを披露する。

俺自身ちゃんと見るのは初めてなそれを。


「・・・・・・」


 静かに見守るリタの視線を受けながら、手のひらを自らの胸の前へと持っていく。

瞳を閉じて意識を集中する。

すると、胸にかざした手のひらに熱を感じた。

それを受けて目を開けば、俺の胸の中心が服越しに暖かく光っているのが見えた。


 リタも俺自身も、その様を固唾を飲んで見守る。

その熱に手を伸ばし、そしてそれを引き抜いた。


「これは・・・・・・」


 リタがその輝きに目を丸くする。

俺の胸から真紅の刀身が姿を現す。

その刀身を覆い隠すように燃え上がる炎。

それが与えられた能力の姿だった。


「どうだ?」


 完全に剣を抜き放つ。

揺らめく炎が、俺たちの影を踊らせた。


「これが・・・・・・あなたの・・・・・・?」

「ああ」


 俺自身ちゃんと見るのは初めてなので、その炎の輝きに見惚れる。

これが意のままに操れるというのだ、心が躍らないわけがない。


 しかし、リタの表情に驚きはない。

この神秘を前にして、しかしその威光を感じる様子がない。


「あれ? リタ・・・・・・さん?」

「あ、いえ・・・・・・」


 俺の声にリタが我に帰る。


「その・・・・・・こういう魔道具は珍しくもないですし・・・・・・炎を操る魔法にしても比較的平易なものに見えるのですが・・・・・・」

「あ、そう・・・・・・?」


 どうやら魔法使いの視点からすれば、これはさほど神秘的なものではないらしい。

しかし魔法が瘴気を生むというのだから、この部分は肝になるだろうと説明を加える。


「だとしても、な。これは魔法・・・・・・ではないらしいんだ。だからこれを使うことにリスクはない」


 それに・・・・・・。


「それに、実を言うとこれが出力の最大ってわけでもない。まぁ俺が扱い切れる出力の最大ではあるんだけど・・・・・・」


 本来の最大出力。

空から落下してる時は助かるためにそれを使おうとしたが、まぁ今はその必要もない。


「ん・・・・・・なる、ほど・・・・・・。大体わかりました」


 リタが俺の言葉を飲み込んで、もう一度刀身の観察を始める。

その眼差しは真剣そのものだった。


「炎は安定してる・・・・・・けど刀身自体は短くてやや装飾過多、というか刃がついていない? 魔道具としての精度は高いみたいだけど・・・・・・・・・・・・」

「ど、どう・・・・・・すか?」


 何故だか俺自身が品定めされてる気分になって尋ね返す。

それにリタは唸るようにしながら答えた。


「品質はいいようですけど・・・・・・特別強く、はな・・・・・・い?かなぁ・・・・・・」

「な、なるほど・・・・・・」


 最初の想定とはまるで違う微妙な評価。

狩り目的で最大出力というわけにもいかないだろうし・・・・・・。


「これは俺の実力で名誉挽回が必要そうだな!」


 何せこの力はこれからの人生を共にする相棒だ。

しっかりとこいつの良さを分からせてやらないと。

続きます。

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