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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第五章 深まる友情
30/86

record30 人間不信

頭を搾ってもなかなかいい言葉が出てこない。

だから思ったままを口にした。


「なんとなくだよ」

「なんとなく……ですか?」

「うん、ほんとに気まぐれって感じかな」


敦司の言葉に不意を突かれたのか真夜は言葉を失っていた。

もっと他の言葉が出てくるとでも思っていたのだろう。

珍しく表情も驚いたような顔をしていた。


「ただ真夜ちゃんが困っていたから助けただけだし、声をかけたのも自分一人じゃ食事をするのが寂しいと思ったからだよ」

「そう……ですか……」


小さな声でぽつりと呟く真夜の表情は少し寂しそうだった。

敦司はそんな真夜を見てもっと気の利いた言葉をかけてあげれば良かったなと思い「だけどさ」と付け足す。


「なんかほっとけないって感じもあるのかな?」

「…………?」


敦司がもう一度口を開くと、真夜は何も言わずに顔をあげる。


「なんかうまく言葉にできないけど、なんとなく俺と真夜ちゃんって似てる感じがするんだ。外見とか、行動とかじゃなくて、もっと他の根本的な何かがさ」

「私と佐久間さんが……似ている?」


言っている意味が理解できず、真夜は顔を横に傾ける。

敦司としてもしっかり伝えようと思ったのだが、真夜自身があまり触れてほしくない部分もあると思い、言葉を濁しながらも続ける。


「ここからは俺の勝手な考え方だけどさ。真夜ちゃん自信にどんな過去があったかは知らないけど、初めて会う人が苦手だよね。実は俺も大人が苦手なんだ。酷く言えば信用ができない。そういうところが似てるなって思って」


最後に敦司はにっこりと真夜に対して微笑む。

簡単に言えばお互い、人を信じる心が欠けているのだ。

境遇が似ているかは分からないが、その結果は同じだ。

『人を信じることができない』

みんなと仲良くやっていく上で一番大切なものが欠けている。

今回はたまたま大人とみられる人が居なかったおかげで敦司には適している環境だったが、それは運が良かっただけだ。

もし一人でも居たのなら、おそらく敦司はその大人に対して自然と失礼な態度をとっていただろう。

それと照らし合わせるように似ていると思えたのが真夜だったのだ。

だから自分と似ている真夜をほっとけない感じがした。


「佐久間さんにも苦手なものがあるんですね……少し意外です」

「あはは、俺にだってあるよ。聖人君子ってわけじゃないし。それにさ、出会い方はいまいちだったけどせっかくこうして巡り合えたんだから仲良くしたい、そう思ったんだ。真夜ちゃんは嫌かな?」


敦司が聞いてから少し間が空いたが、ふるふると首を横に振って答えてくれる。

――すぐ答えてくれないとこが真夜ちゃんらしいな。

心の中でそんなことを思い、軽く笑いながらも席を立つ。


「まあ、俺が真夜ちゃんに声をかけたのはそんな理由からだね。それより、予定より長く付き合わせちゃって悪かったね。元の世界に帰るまでそんなに時間もないのにさ」

「いえ、特にやることもなかったので大丈夫です。どうせ何もしないで部屋に引き籠っているだけなので」

「そんなこと言わないでせっかくなんだから和奏に声をかけて、何か一緒にやればいいのに」


パーティーの時、敦司が見た感じだと和奏と真夜は仲がいいように見えたので名前をあげてみる。

すると真夜は嫌そうな顔を向けてくる。


「あれ……もしかして仲がいいどころか、険悪だった?」

「いえ、古宮さんは優しい方だと思います。私のことをとても思いやってくれていますし」

「ん? じゃあ他に何が問題なんだ? すごく嫌そうな顔をしたけど」

「…………」


沈黙。そんなにまずいことを聞いてしまったのだろうか。

敦司は真夜の表情を窺いながらも、そっと声をかけた。


「えっと、言えないようなことなら無理して話さなくてもいいんだぞ? 無理やり聞き出そうとは思わないから」

「いえ、別に言えないようなことではないんですけど、佐久間さんと芹沢さんは昔からの仲と聞いていたので……」


申し訳なさそうに小さな声でそう伝えてくる真夜。

――なるほど、そういうことか。

敦司は今の真夜の一言でなんとなくだが理解ができた。

おそらくだが、真夜が嫌っているのは和奏の方ではなく亮太の方だ。

そして敦司に対して亮太のことが気に入らないと言えば、昔からの仲の相手を悪く言うことになるので遠慮しているのだろう。

だから敦司は誤解だと真夜に伝える。


「あー、なんか向こうはそう言ってるんだけど俺としては身に覚えがないんだよね。この館に来て初めて会ったばかりだし。だから気にしなくても平気だよ」

「そうなんですか……じゃあ、芹沢さんが一方的に佐久間さんに迫っているってことですか?」

「迫ってるって……別にそんなこともないけど、確かに変なこと言われてることに変わりはないかなぁ」

「もしかして……」


そこで真夜は驚いたような顔をしてから、ありえないという顔に表情を変える。

それから声のトーンを少し落としてからこう続けた。


「芹沢さんは男の人が好きなんでしょうか……?」


なんでそっち方向に考えた!?

さすがにそれはないだろとツッコミを入れそうになり、すんでのところで心の中に留める。

それから冷静に真夜の間違いを指摘していく。


「あー、まずそんなことありえないと思うぞ? 男が好きだったら和奏とあんなに仲良くしないと思うし……絶対とは言い切れないが純粋に女の子が好きだと思うぞ?」

「そうですか……それなら良かったです」


男好きじゃないと敦司が否定をすると、真夜はほっとしたような表情へと戻った。


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