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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第四章 安らぎのひととき
22/86

record22 仲裁

だが、それは和奏の言葉によってすぐに消えた。


「亮太君、それはっ……」

「あぁ、分かってるさ、軽い冗談だよ。まあこれからよろしく頼むよ」


敦司のグラスに自分のグラスをぶつけると、背を向けて手をひらひらと振りながら敦司から離れていく。

――やっぱり俺の過去に何かあるのか……それにあの二人はどういう関係なんだ?

そう考えるとやはり和奏の方へと視線がいく。

今この状況で自分の過去を知っていて、すべてを知っているのは和奏しかいないからだ。

亮太から聞くという手もあるが、どうも気が進まない。

だが、和奏は敦司と視線が合わないように目を伏せてしまう。

そのまま亮太が歩いて行った方向へと戻っていく。

それが引き金となり、今まで我慢していた感情が一気に流れ込んでくる。

――っ!なんで俺には何も教えてくれないんだよ! 俺だって一応は幼馴染みだろ!

そう思うと頭では考えていないのに、足が勝手に和奏を追おうと動き出た。

そして三歩目を踏み出そうとした時にぐいっと後ろに引っ張られる。


「何かやらかそうってんならおすすめはしないぜ?」

「こ、浩介!? や、やらかすって……ただ聞きに行こうかと思っただけだよ! 手を離せ!」

「まあまあ、落ち着けって。今はパーティー中だぜ? 揉め事はご法度だ。何があったかは知らねーけど、どう見たって和奏ちゃんはお前のことを避けてるだろ。それを無理に捕まえて聞き出すつもりなのか?もしそうじゃないなら他の人に気付かれて大事になる前にやめておこうぜ、な?」


確かに浩介の言う通りみんなパーティーということで気が散っているせいか、自分達のことに気付いていない。

それに既に亮太と和奏が別の人と話していたり、偶然にもまだ大声を出していないということもプラスに働いているのだろう。


「それにあとでいくらだって聞けるさ。とりあえず今は落ち着こう。気になるのも分からなくはないが、一旦忘れよう」

「ん……それはいいとしてお前、一体いつからいたんだよ」

「え?ちょうど真夜ちゃんがお前から離れるところぐらいからだけど?」

「それってほとんど全部だろ!」

「まあそうとも言うな」


敦司の肩に手を回しながら何かを思いついたように意地悪くニッと笑う。


「それよりさ、真夜ちゃんとは上手くいったらしいじゃん。随分と女の子慣れしてるな」

「おいおい、やめてくれよ。お前まであの人みたいなになっちゃったら、こっちは気が気じゃない」

「ははは、ジョーク、ジョーク……そういえば乾杯の方はみんなと済ませたのか? 一応は回っておいたほうがいいと思うぜ?これからみんなで一緒に暮らしていくんだから、礼儀としてさ」


敦司の顔の前でグラスをちらつかせながらも浩介は乾杯の真似をしてみせる。

――ああ、今日だけで二度も浩介に気遣われるなんて。

俺ももっとしっかりしなきゃな……ありがとな、浩介。

深く息をして、肺にたくさんの空気を送り込むとそれを一気に吐き出す。

要は気持ちを入れ替えるための儀式みたいなものだ。


「まだ全員とはしてないな、たしかまだなのは風間くんと青樹さんかな」

「よし! じゃあまず佳奈ちゃんから行くか!」

「なあ……それってもしかして他意があったりするか?」

「ん? 俺があると思うか?なんなら別の人から回ってもいいけど」

「い、いや、別にいい。あるわけないよな……」


確かに浩介はあの女の子が可愛いなどとは言うが、誰かを好きになったとは敦司は一度も聞いたことがなかった。

別に男好きというわけでもないと思うし、興味がないというわけでもないと思うのだが……。

それともただ単に今の時期は彼女が欲しくないとかそんな感じなのだろうか。

まあいずれにせよ自分にはわからないことか、と思い考えるのをやめる。

それより今は次に乾杯をしに行こうとしている佳奈のことに関して考えていた。

他人よりまずは自分の命の安全の確保。

確かにあの怖そうな樹に話しかけるのも気が引けるが、佳奈に話しかけるのはもっと気が引けた。

なんといってもあの紹介時に、河西を困らせた唯一の曲者だ。

それに自分のことをあまり歓迎してくれないのか、紹介自体も結構適当だった。

そんな女の子に自分から話しかけるなど自殺行為だ。


「ほら、さっさと行こうぜ! 乾杯する時間がなくなるぞ」


先に行動を始めていた浩介から声がかかる。

敦司は苦笑いをしながらも「わかってる」と返事をして、歩き始めた。


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