大神林にて 父親との手合わせと二人の謝罪
パンッパパンッ!! パンッパンッパンッパパンッ!!
何度も何度も父さんの両掌に打ち込んでいく。そうしたら両腕を伸ばして僕に掌を向けてるだけだった父さんが、左腕を引き右腕だけを僕に向けて伸ばし左右に腕を動かし始めた。父さんの考えがよくわからないけど、とりあえず僕から見て右に動いていた父さんの掌が左に戻る時に一瞬止まるのを狙って拳を打ち込むと父さんが少し笑ってうなずいたから、どうやらこれで良いみたいだ。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンパンッ、パンパンッ、パンパンッ、パパンッ、パパンッ、パパンッ、パパパンッ、パパパンッ、パパパパパパンッ!!
……なんか左右を往復する父さんの腕の動きが、どんどん早くなってるような気がするけど、とにかく今は打ち込んでいく。
パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!! パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!! パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!!パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!!
次に腕を何回か左右に動かした後の父さんの動きに、縦の動きが一回加わるようになった。具体的に言うと左右に往復させた腕を脇腹や顎辺りなんかに動かした。父さんの手の動きが早いから必死に打ち込んでいく。
「ヤート、良い感じだ。これなら次もいけるだろうからやれるだけやってみろ」
パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!! ブンッ、サッ。パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!! ブンッ、サッ。パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!!パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!! ブンッ、サッ。
また父さんの動きが変わり、今度は腕を縦に動かした後に父さんが攻撃してくるようになった。つまり、父さんが右腕を伸ばして左右に往復させる→僕が父さんの動いてる右腕の掌に何回か打ち込む→父さんが左右に往復させていた右掌を脇腹か顎辺りに動かす→僕が脇腹か顎辺りのどっちかに止まった掌に打ち込む。ここまではさっきと同じだけど、僕が脇腹か顎辺りに動かした掌に打ち込んだ後、父さんが動かしていない左腕を僕の頭めがけて軽く振ってきたから避ける。
……父さんの掌に打ち込むだけで必死なのに、そこに避ける動作が加わったから、さらにキツい。そしてこの後攻撃してきた左腕を伸ばして左右に往復させ始めたから、また父さんの左掌に打ち込む。
あれ? 攻撃してきた腕が左右に動き出すって事は右の一巡の次が左の一巡で、その次がまた右の一巡っていう風に続いて終わりが無いじゃ? ……と、とにかく必死に打ち込んで、避けた後にまた打ち込んでいく!!
パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!! ブンッ、サッ、ブンッ、サッ、パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!! ブンッ、サッ、ブンッ、サッ、パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!!、ブンッ、サッ、ブンッ、サッ、パパパパパパンッ!! スッ、パンッ!! ブンッ、サッ、ブンッ、サッ。
父さんが攻撃してくる回数が増えた!! 避けながら驚いて父さんの顔を見たらやれるだろ? っていう顔だった。絶対に僕が余裕無いのわかってるはずなのにひどい。でも、このままやめるのも何か嫌だから、意地になって父さんの掌に打ち込んで父さんの腕を避けた。
その後、何回打ち込んで何回避けたのかわからなくなって視界がチカチカしてきた時に、父さんが強めに腕を振ってきたから全力で後ろに跳んで距離をとった。
「ハッハッハッハッハッ、とうさ、ハッハッハッ、きゅ、ハッハッ、うに、つよ、ハッハッハッハッ、やめ、ハッハッハッハッハッ」
呼吸が乱れ過ぎて、まともに話せない。あと頭がクラクラするし膝もガクガクする。それに喉がすごい乾いてるけど水生魔法を使う余裕が無い。僕が膝に手をついてたら父さんが近づいてくる。続きかって思って全身をプルプルさせながら構えたら、父さんが僕の目の前で水生魔法を発動させて水球を作り、僕の口に水生魔法で生み出した水を近づけてきた。
「続きはまた今度だ。無理して話さなくて良いから落ち着いて呼吸を整えろ。あと激しく動いて喉が渇いてるだろうから少しずつ飲め。一気に飲むとむせるぞ」
父さんが掌に出した水球に深呼吸をして呼吸を整えてから口をつける。ゴク……ゴク……ゴク。水ってこんなに美味しかったのか。僕が夢中で水を飲んでいると父さんが母さんに話しかけた。
「エステア、ヤートはこれだけ動けるなら青の村で何かあっても大丈夫だな」
「そうね。それに青の村でなにか起こってもラカムタもいっしょに行くから問題無いと思うわ。ガルとマイネもそう思うでしょ?」
あっ、父さんの掌に打ち込むのに必死で兄さんと姉さんの事を忘れてた。水から顔を離して母さんの方を向くと、兄さんと姉さんが土下座してた。……こっちの世界にも土下座ってあるんだ。……って違う。そうじゃなくて何で二人が土下座してるの? それと二人の服がかなりボロボロだけど母さん何したの?
「ヤート、悪かった!!!!」
「ヤート、ごめんなさい!!!!」
「えっと……?」
「俺達からヤートに力を見せろって言ったのに、マイネとのケンカに集中して悪かった」
「ガルとのケンカに集中してごめんなさい」
「その事は別に良いんだけど……」
「良いのか?」
「うん、僕も父さんの掌に打ち込むのに必死で兄さんと姉さんの事を忘れてたからお互い様かなって。それよりも何で兄さんと姉さんは、そんなにボロボロなの?」
「うふふ、久しぶりにちょっと私もはしゃいじゃったのよ」
「母さんは二人を短時間でボロボロにできるくらい強かったんだね。母さんが戦ってるところは想像できなかった」
「ヤート、女にはいろいろ秘密があるものなの。覚えておきなさい」
「わかった。覚えとく」
ニコニコしてる母さんから妙な圧力を感じた。僕が母さんの笑顔を見てると、父さんが土下座してる二人に話しかける。
「二人とも反省してるようだから、もう立って良いぞ」
「「……」」
二人は母さんをチラッと見て特に何も言ってこないのを確認してからゆっくり立った。それを見て父さんは苦笑しながら二人に確認を取る。
「確認だが二人はヤートが青の村に行く事に文句は無いな?」
「……あれだけ動けるところを見せられたら文句なんて無いわ」
「俺もだ」
「ヤート、という事だ。大手を振って青の村に行って来い」
「うん、わかった。それならイリュキンに返事をして村長とラカムタさんにも言わないとだね」
「そうだな。よし、それじゃあ村に帰るぞ」
父さんを先頭に村へと歩き始める。気になるのは兄さんと姉さんが、母さんから微妙に距離をとってる事だ。母さんは二人に神速のビンタ以外に何をしたの?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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