大神林の奥にて その後の経過とにらみ合い
目が覚めて破壊猪の大きな背中の上でうつ伏せから仰向けになる。寝る前に比べて空の色は変わってないから、そこまで長く寝てないと思う。
それにしても夢の中で話したのは誰なんだろ? まあ、いずれ出会うって言ってたから今は考える必要はないか。どっちかというと魔石と同じような奴に出会って戦う事になるっていう方が問題だ。ただ、これに関してもいつになるのかわからないし、魔石と同じような奴って言っても具体的な事は何もわからない。結局のところ夢の中で聞いた内容ではっきりした事は何もないから、頭の片隅で覚えておいてあらかじめ覚悟をしておくくらいしかやりようがない。
…………特に難しく考えずにいつもの僕でいれば良いか。うん、これだね。あとは夢での事を誰かに話すかどうかだけど、……やっぱり具体性が無さすぎるから黙っておこう。よし、起きて動こう。
僕は破壊猪の背中から飛び降りて地面に着地した後、寝ている間に固くなった筋肉や関節をほぐしていく。あ~、こう筋肉を伸ばした時に血がジワジワ流れていく感じは気持ち良い。身体を動かしてたら破壊猪が僕を見ている事に気づいた。
「ブオ」
「おはよう」
「ブオ、ブブオ?」
「うん、お前の鼓動と体温が気持ち良くてよく眠れた。身体も問題ないよ。お前は?」
「ブオブオ」
「かなり魔石の触手を受けてたのに問題なしと、あいかわらずの身体の強さだね」
「ブォ」
僕が若干あきれながら言うと破壊猪は特に強がりもせず、まあなってごく普通の表情で返事をしてきた。やっぱりこの圧倒的な強さを見たら、無い物ねだりをしてもしょうがないけど強い身体が羨ましいって思う。
今の僕の身体自体を強くするか、…………やり方しだいでなんとかなるかもしれない。だけど反動がどう考えてもあるだろうし、試したら確実にみんなにこっぴどく怒られる。うん、身体自体を強くするのは無しだね。忘れよう。その後も身体をほぐしてたら鬼熊とディグリが近づいてきた。
「ガア」
「オハヨウゴサイマス」
「おはよう。その感じだと鬼熊とディグリも身体に問題はなさそうだね」
「ガ」
「ハイ」
「僕も準備ができたから移動しよう」
僕は三体がうなずくのを見て歩きだす。向かうのは豊穣木のところだ。歩き出してすぐに、土がむき出しだった魔石がいた広場の地面にちらほらと草が生えてるのに気づく。これは豊穣木の力で少しずつ魔石に痛めつけられていた広場一帯が癒され始めている証拠だね。
豊穣木に触れて同調してみると豊穣木から小さく静かな波がいくつも周りに放たれ、その波を受けた周りの植物達が少しずつ活性化して力を取り戻しているのがわかる。これならまた魔石が現れるみたいなよっぽどの事が起きない限りは大丈夫だ。
「うん、この感じなら植物達は大丈夫だね」
「本当ニ良カッタデス」
「もしかしたら帰りに通る時は活力あふれる森になってるかも」
「ガア、ガ?」
「ブオ」
植物達の様子にディグリは、安心したみたいで優しい目をしてる。鬼熊と破壊猪の二体は、帰りにここで果実なんかの美味しい物が食べれるかもしれないって喜んでる。やっぱり植物が元気な場所は、他の生物も食料が増えて元気になるね。
「それじゃあ行こう」
「ガア」
「ブオ」
「ワカリマシタ」
僕達は豊穣木を始めとした植物達にあいさつをして、大神林の最奥への旅を再開した。
「ガア!!!」
「ブオ!!!」
「「…………」」
旅を再開したんだけど、再開してすぐに鬼熊と破壊猪がにらみ合って一触即発の空気になった。にらみ合いの理由はどっちが魔石にダメージを与えたかなんだけど、魔石には僕達全員で勝ったんだから個々の貢献度の大小を決めなくても良いと思う。でも、ラカムタさんがこういう事は記憶が薄れた後になるほど大きなケンカになりやすいって言ってたから記憶がはっきりしてる今の内に何かしておくべきなのかな。
「どうしよう……」
「放ッテオケバ良イト思イマスガ」
「さすがに本当に戦わないとは思うけど、万が一が怖い」
「私ガ倒シマショウカ?」
「ディグリが二体の間に立ったら、絶対にややこしくなるからやめて。とりあえず本当に戦いだしたら強制的に止めよう。それまでは要警戒で」
「ワカリマシタ」
植物達に見守られながら僕とディグリは二体の様子をじっと見る。二体は頼りになるんだけど、この意地の張り合いみたいなのがなければな。豊穣木から大丈夫かしら? みたいな感じが伝わってくるのが微妙に気まずい。はあ、ちゃんと旅を再開できるのはいつになるんだろうな。
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