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赤の村にて 赤の村長と自分の感情

 交流会で赤の村に来て七日が経ち、その間に赤の村の周辺を一人で散歩したり破壊猪(ハンマーボア)といっしょに遠出もした。まだまだ飽きはしないけど、そろそろ別の事をしたくもなる。具体的に言うと本が読みたい。でも、ここは赤の村だから部外者が読んでも良い本ってあるのかな? まあ、朝食の後にでもイギギさんを探して聞けばわかるか。


「ごちそうさま」


 僕が立ち上がっても歩き出さずに広場を見回しているのを見て兄さんが声をかけてきた。


「ヤート、どうした?」

「ちょっとイギギさんに聞きたい事があってね」

「何を聞きたいんだ?」

「赤の村に部外者が読んでも良い本があるか聞きたい」

「本か……、ヤートはあんな退屈なものをよく読んでられるな」

「知らない事を知るのは面白いよ」

「そんなもんか」

「そうだよ。あそこにいた。それじゃあ兄さん行くね」

「おう、またな」

「うん、また後で」


 少し離れたところにいるイギギさんを見つけて近づいていき話しかける。


「イギギさん、聞きたい事があるんだけど良い?」

「おっ、おう。どうした?」


 うーん、あの意味のない決闘から、なんでか知らないけど身構えられる。特に赤の人達があからさまだ。……一応、ちゃんと正直に言っておこうかな。


「本が読みたいんだけど、赤の村の部外者でも読める本ってある?」

「どんな奴を読みたいんだ?」

「特にこだわりはないけど、この辺りの植物について書かれてる本があったらうれしい」

「それなら村長(むらおさ)の家に行けば良い。あそこにある一番デカい建物だから迷わないだろ」

「一番大きい……、あれだね。ありがとう」

「他の色の村に比べると、数は少ないかもしれんがゆっくり読んでくれ」

「うん、わかった。それとイギギさん……」

「なんだ?」

「別にケンカ売られない限り、僕からは何もしないよ?」

「なっ!! いや、これはな……、そのなんだ」


 なんかわからないけどイギギさんが慌ててるし周りの赤の大人達もうろたえてる。話が進みそうにないから行くか。


「それじゃ」

「あ、ああ、…………ヤート!!」


 僕が歩きだしたらイギギさんが大声で呼び止めてきた。


「何?」

「あのな……、お前はクトーについて、どう思う?」

「あいつの事? ……別に何も」

「……何もないのか?」

「ないよ。どうでも良いからね」

「そうか……、呼び止めて悪かったな。ゆっくり読んでくれ」

「うん、ありがとう」




 イギギさんに教えてもらった赤の村長(むらおさ)の屋敷に着くと、さっそく中に呼びかけた。


「ごめんください。どなたか、いませんか?」

「今開けるから、待ってておくれ」


 呼びかけたら中から女性の返事が聞こえ足音が近づいてきた。扉を開けて現れたのは赤の竜人の女性だった。見た目を表すなら一言で済む。それは大きいだ。多分二ルーメ(前世でいう二メートル)くらいあるのかな。この女性の顔を見るにはかなり上を見上げないといけない。……あっと、初対面だしちゃんとあいさつしないとだめだ。


「初めまして、黒のヤーヴェルトと言います。ここに来れば本が読めるとイギギさんに聞いて来ました」

「おやおや、丁寧なあいさつだね。あたしは赤のグレアソンだよ。立ち話も何だから入りな」

「お邪魔します」


 グレアソンさんに屋敷の居間に案内されて向い合わせに机に座ると、いつの間にか冷たい水と果物が用意されて目の前に置かれていた。


「改めて自己紹介だ。あたしは赤のグレアソン、赤の村の村長(むらおさ)だよ。それとあんたに決闘で負けたクトーの祖母でもあるね」

「そうですか、では僕も改めて、黒のヤーヴェルトと言います。玄関でも言いましたが、ここなら本が読めると聞いたので来ました」

「……あたしの孫について言う事はないのかい?」

「ありません」


 僕の返事が気に入らないのか、グレアソンさんを中心に部屋の空気が重くなる。


「本当に何も言う事ないのかい?」

「はい」

「理由は?」

「クトーから決闘を挑んできた。挑んできた奴を負かして何か悪いですか?」

「確かに、そうだね。それじゃあ最後の一斉射撃については? あの子が麻痺した時点で勝負が決まってた」

「決闘の時にイリュキンにも言いましたが、初めは僕も身体の自由を奪ったら決着だと思ってました。でも、クトーが気絶した方が負けに変えた。だから気絶させようと多重射種草ガトリングシードショットを使いました」

「あんたなら静かに終わらせる事もできたはずだよ?」

「朝一からわけのわからない事言ってケンカを売ってきた奴に優しくしろと?」

「は……?」


 僕が言うとなんかグレアソンさんがポカンって顔をした。それにいつの間にか重い空気も無くなってる。あっ、顔を背けた。しかも肩を震わせてる。……ひょっとして笑ってる?


「ゴホン!! イギギやラカムタから聞いた限り、あんたはもっと冷めてるもんだと思ってたけど、ちゃんと感情はあるようだね」

「ちゃんと生きてるから当たり前ですよ。ただ周りより感情が分かりづらいとは思います。ところで、ここで本は読めますか?」

「ああ、そうだったね。こっちだよ」


 ラカムタさんやイギギさんは僕の事を人形みたいな感じって思ってるのかな? まあ、僕は基本的に無表情だから当たってると言えば当たってる。そんな風に思ってたんだって少し思うけど割とどうでも良いし、そんな事より本を読みたい。グレアソンさんに着いて行くと、書庫と書かれた部屋に案内された。薄暗い部屋の中に入りグレアソンさんが窓を開けたら、入口と窓以外の壁が本棚で埋め尽くされていた。ちらっと見ただけでも、面白そうな本ばっかりで思わずソワソワしてしまう。ハッと気づいてグレアソンさんを見たら、本を見て落ち着きがなくなっていた僕を見て笑いをこらえていた。


「ククッ、子供らしいところもあるようだね。安心したよ」

「笑わないでください」

「気に障ったらごめんよ。聞いてた話との差にどうしてもね」

「……それじゃあ、読ませてもらいます」

「ああ、ゆっくりしてっておくれ」


 なんか見られたくないところを見られたな。別によくわからない奴だって思われても良いけど、子供っぽいって笑われるのは結構恥ずかしいものだね。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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