青の村にて 動きの大きさと実力者の成長の兆し
全員が固唾を飲んで見守る中、ラカムタさん対ハインネルフさん・イーリリスさん・タキタさんの手合わせは決着がつかない。
「くそっ、目が追いつかねえ」
「ねえ……、私達も強化魔法を目に集中させてるのに見失うのはおかしくないかしら?」
「……そうですね。動きを追っても、いつのまにか途中で視界から消えてるのは何ででしょう?」
「たぶんハインネルフさん、イーリリスさん、タキタさんの動きに無駄がないせいだと思うよ」
「ヤート、それはリンリーの戦い方みたいな事か?」
「似てるけど違うかな。リンリーのは気配を消して相手から認識できないようにしてるのに対して、あの三人は動き自体が見えないくらい小さいから気づけない」
「うん? 何が違うんだ?」
兄さんから、さっぱりわからないっていう感じの雰囲気が伝わってくる。
「それじゃあ、リンリーと三人が前に跳ぶ様子で例えてみるね。まず気配を消してるリンリーの場合だけど、動作自体は膝を曲げて伸ばすと同時に腕を振って前に跳ぶ」
「普通はそうでしょ?」
「ハインネルフさん達の場合は、ほとんど立ったまま動かず前に跳ぶ」
「は?」
今度は姉さんから僕が何を言っているのかわからないという感じの雰囲気が伝わってきたので、少し考えてから別の表現にしてみた。
「リンリーの膝を曲げて伸ばすと同時に腕を振って前に跳ぶっていう動きの大きさを十としたら、あの三人の同じ動作の動きの大きさは一以下。しかも跳べる距離は三人の方が、はるかに長い」
「……そんなのできるわけないでしょ。十の大きさで動こうとしたら、十の準備が必要になるわ」
「それができるからハインネルフさん達は達人なんだと思う」
「…………」
姉さんは納得できないみたいだけど、これまでにイーリリスさんやタキタさんの動きを少なからず見ているから反論できないみたいだ。
「ヤート君には、あの三人の動きがどんな風に見えてるんですか?」
「界気化した魔力で感じてるだけで見てるわけじゃないよ。……わかりやすいのだと、突然カクッて体勢を崩さないで進路を変えてたり、同じく体勢を変えずにフッと消えるみたいにある地点からある地点に移動してるよ」
「……ちょっと待て、ラカムタのおっさんはあの三人とどう戦ってるんだ?」
「ラカムタさんは、かなり苦戦してて三人の動きに翻弄されながらも、攻撃にはギリギリ反応して大ケガにならないように防いでる」
「黒の顔役に選ばれるほどのラカムタ殿と言えど、あの三人を相手取り無事じゃない方がおかしいよ。むしろ苦戦やケガの段階で抑えて圧倒されてないのは驚くべき事さ」
「うん、気になるところはあるけど、僕もイリュキンの意見に賛成だ」
ドン‼︎
僕達が話していると、ラカムタさんはタキタさんの左の蹴りを受けて吹き飛ばされた。さすがのラカムタさんでも、イーリリスさんに体勢を崩されハインネルフさんの動きに視線を取られた時の死角からタキタさんに蹴られると反応できないよね。
ラカムタさんは数度地面を転がった後に仰向けに止まった。肩が動くくらい息が乱れていて身体のあちこちに遠目からでもわかるケガもしている。激しい疲労もあるから、どう考えてもボロボロと言って良い。でも……。
「ハア……、ハア……、ククク……」
本当に楽しそうに笑っていて、すぐに起き上がる。あの様子だと精神が高揚しすぎて疲れや痛みを感じてないんだと思う。ハインネルフさん達もラカムタさんの変化に気づいて目を鋭くした。
「……ラカムタ殿、楽しそうですね」
「うん? ああ、申し訳ない。もう少しで何かをつかめそうなこのもどかしい感覚を味わうのは、若い頃以来の久しぶりだと考えたら笑いが込み上げてきてしまってな」
「ふむ、ラカムタ殿ほどの実力者でありながら、自身の成長の兆しを感じておるのか。我らは子供達の成長とはまた違う貴重な場面に遭遇しているようだ」
「子供達の成長に比べたらなんて事はない」
ラカムタさんは返事をしながら自分の身体の状態を確かめてたけど、タキタさんの蹴りを受けた左手がダランと力なく揺れていた。タキタさんが、そんなラカムタさんを見て話しかける。
「ラカムタ殿、これ以上は危険だ」
「もう少しなんだ。頼むから続けてくれ」
「……タキタ、続けますよ」
「しかし……」
タキタさんは迷ってるみたいだし、中途半端になるのは良くない。ここは余計なお世話かもしれないけど宣言しておこう。
「タキタさん、万が一があっても僕が絶対に治すから、そのままラカムタさんに付き合ってあげて」
「ヤート……悪いな」
「普段、好きにさせてもらってるから、これぐらいは協力するよ」
ラカムタさんは僕の言葉を聞いて笑うと腰を軽く落として構え、ハインネルフさん達もお互いを見てうなずいた後に構えた。第二ラウンドの始まりだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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