青の村にて 理由の説明と頼みごと
僕と三体の目の前で兄さん達・ラカムタさん・イーリリスさんが、僕に向かって頭を下げている。突然すぎる事態に三体も、どう反応して良いのかわからないようで僕を見てきた。……とりあえずみんなの話を聞くのが先決だね。
「えっと……、みんな頭を上げてよ」
「……わかった」
兄さんが返事をして頭をあげると、他のみんなも頭を上げる。さて、状況把握のために誰から話を聞くべきかな? ……うーん、ここはやっぱりラカムタさんか。
「それでラカムタさん、みんなは何で僕に謝ってきたの?」
「昨日の手合わせが理由だ……」
僕は昨日の手合わせをサッと一通り思い出したけど、特にみんなから謝られる事をされた覚えはなかった。みんなの真剣さを考え、もう一度思い出せるだけ思い出してみても、やっぱり何も思い当たる事はない。ここは素直に聞いてみよう。
「……特に考え付かないんだけど、みんなから何かされたっけ?」
「ヤートが朝に言ってた事だ」
「僕が朝に言った事? …………ああ、ラカムタさんに手合わせが始めから二対一だったのは何でかって聞いた奴か」
「そうだ……」
僕が答えにたどり着くとみんなの表情が曇る。……そんなに深刻な話なの?
「みんなが謝ってきた原因はわかったよ。でも、本当に謝られる理由はわからないんだ」
「俺とマイネの二人でヤートに手合わせを挑んだ」
「……私もイリュキンと二人でヤート君に挑みました」
「俺は一対一でやるように言えなかった」
「同じく私も、気づけませんでした」
みんながもう一度、バッと頭を下げてくる。正直に言えば、それがどうしたのっていう感じだ。確かに一対一で始まらなかったのは疑問だったけど、いずれ二対一になるはずだったのが始めからそうだったっていう話だから、僕は特に気にしてないっていう事をみんなに伝えた。
「だが、赤のアイツと同じになっちまう……」
「兄さん、どういう意味?」
「赤のアイツは、ヤートが気に入らないっていう自分の意思を押し付けて、ヤートと戦った。俺達はヤートと戦いたいっていう意思を押し付けちまった。やってる事は変わらない」
「でも、赤のアイツと違って兄さん達は僕を殺そうとはしないでしょ? だから、気にしなくて良いよ」
「「「「「「…………」」」」」」
みんなの表情は晴れない。こういう場合、どうすれば良いんだろ? 僕としては気にしてないから、その事を素直を言うしかできないんだよね。……そうだ。上手く話が進むかわからないけど、やってみよう。僕は頭の中で考えをまとめ、みんなに話しかける。
「僕は気にしてないけど、みんなは気にするんだよね?」
「……そうだ」
「それじゃあ、僕のほしいものを手に入れるために協力してくれない?」
「ヤート?」
「みんなは僕に対して、したらダメな事をやっちゃったから気まずくなってる。僕は僕でほしいものがある。だから、この際、僕に対して気まずくなってるみんなの思いを使わせてもらおうかなと。ダメ?」
僕が聞くと、みんながお互いに顔を見合わせて目線で会話をする。そして、その会話が終わると小さくうなずいたラカムタさんが一歩前に出た。
「わかった。俺達は全力で協力しよう」
「それなら良かった」
「それでヤートは何がほしいんだ?」
「僕がほしいのは経験」
「経験だと?」
「そう、接近戦の経験を積みたいから、僕との一対一にみっちり付き合って」
「「「え?」」」
「「「は?」」」
みんながポカンとした顔になった。そんなにおかしいかな?
「無理?」
「い、いや、無理ではないが……良いのか?」
「ラカムタさん、その良いのかは、さっき言ってた自分の気持ちを押し付けたのに良いのかっていう意味なら、僕は特に気にしてないから問題ないよ」
「そうか……」
「というか、どれだけ熱中してたとしても最悪の事態にはならないなって、みんなの事は信頼してる」
「そ、そうか……」
あれ? なんかみんなが口もとや顔を手で押さえ始めた。
「みんな、どうしたの?」
「い、いや、何でもないぞ。なあ、マイネ」
「ええ、そうよ。何でもないわ」
……兄さんと姉さんの声と気配が嬉しそうで他のみんなも同じ感じだから、もしかしてニヤけそうになる口を隠してる? 僕がみんなの珍しい様子を見ていると、ラカムタさんが自分の顔を軽く叩き話かけてきた。
「ヤート、いつから始める?」
「魔力の放出の鍛錬で疲れてるから、この疲れが取れた後かな」
「わかった。ヤートの方の準備ができたら声をかけてくれ。俺達も、その間に準備をしておく」
「みんなの準備?」
「おう、ヤートと手合わせする順番を決める」
「「「「…………」」」」
ラカムタさんが言うと兄さん達の間に緊張が走り、お互いを牽制する感じでチラチラ見てる兄さん達の様子を微笑ましそうに見ていたイーリリスさんが口を開く。
「そういう事でしたら、ヤート殿との手合わせは私から始めましょう」
「……お祖母様、どういうつもりですか?」
「イリュキン、ガル殿、マイネ殿、リンリー殿は、昨日ヤート殿と手合わせをしているので順当だと思います」
「ばあさん、それならラカムタのおっさんと話し合えよ」
「ガル‼︎ 言葉づかい‼︎」
イーリリスさんは、兄さんと姉さんの荒いやりとりでも微笑んで見ている。
「うふふ、マイネ殿、構いませんよ。そしてガル殿の発言に答えるなら年功序列です。ラカムタ殿、どうですか?」
「俺は最後で良い。それとイーリリス殿が最初なのも異論はない。ガル達はどうするんだ? 何なら俺が順番を決めるぞ?」
「……向こうで話し合いから始めよう」
「そうだな」
「そうね」
「わかりました」
イリュキンの提案に兄さん達は賛成して僕達から離れて行くのを見送り、イーリリスさんの方を見る。
「イーリリスさん、楽しそうだね」
「イリュキンの今までなかった言動は見ていて嬉しいですし、ガル殿やマイネ殿も見ていて新鮮ですね。ヤート殿、改めてありがとうございます」
「……それは何のお礼なの?」
「良いにしろ悪いにしろ変化は人と人との関わりから起きます。竜人族は交流会を数年おきに開いていたものの、これまでの各色のつながりはそこまで強くありませんでした。しかしヤート殿が生まれてからは、皆に良い変化や新たな関わりが生まれているので、それに対するお礼です」
「そうなんだ。それなら良かったね」
その後、兄さん達がいる方から言い合ってる大声や打撃音が聞こえてくる中で、僕とイーリリスさんは話していた。……うん、良い感じの日常だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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