青の村にて 船と子供達の盛り上がり
久しぶりに声と話せたし、そろそろ自分の身体に戻るかって考えてたら、もうすぐ戻れると言われた。大霊湖の莫大な魔力の影響を防ぐための調整を長時間保つのは難しいみたいだね。
『次はいつになるかわからんが、またいずれな』
「はい、また話せるのを楽しみにしてます」
『それでは時間だ』
声が言い終わると、僕の腰に巻きついた世界樹の杖から強い緑色の光が放たれ何も見えなくなる。そして光が収まると僕は広場に戻っていた。
「……おい、ヤート」
僕が腰に世界樹の杖が巻きついてるから、声や世界樹の杖との会話は実際に起こった事だなって確かめていると、ラカムタさんが少し困惑してる感じで話しかけてくる。
「何? ラカムタさん」
「お前……、いつのまに杖を腰に戻したんだ?」
「ついさっきだよ」
「……本当か?」
「そうだけど、何で?」
「俺は杖がヤートの腰に巻きつくところを見ていない。……というか、杖が動く気配すら感じなかった」
どうやら僕とみんなの間で体感時間のズレが起きてるみたいだ。僕は隠す事でもないから、みんなに声や世界樹の杖との話した事を説明した。
「そんな事が……」
「まあ、実際に証明しろって言われたら困るんだけどね」
「ヤートがあったと言うなら、あったんだろう」
「割とわけのわからない事を言ってる自覚はあるのに、あっさり受け入れてくれるんだ」
「ヤートが起こす妙な事には、もう慣れている。それにお前がくだらない嘘を言わないのはわかってるしな」
「……ラカムタさんの言い方が気になるけど、ありがとうって言わせてもらうよ」
諸々の話が終わり僕は緑葉船を片付けるために近づく。でも、水面を疾走する感覚が気持ち良かったから、もう一度くらい走らせても良いなって思い直してイーリリスさんのところに行った。
「イーリリスさん、もう一度緑葉船を走らせたいんだけど良い?」
「構いませんよ。むしろ私からもお願いしたいくらいです」
「それなら、また僕といっしょに乗る?」
「よろしくお願いします。ハインネルフ、ヤート殿と離れますね」
「わかった」
イーリリスさんと緑葉船を運び大霊湖の湖面に浮かべて乗り込み、僕が風吹き花にお願いして発進させる。
「イーリリスさんは、どこか行きたい場所はある?」
「特にありません。強いて言えば風を感じたいです」
「それじゃあ適当に進んで青の村に戻るね」
「はい、お願いします」
僕は青の村から離れすぎないように一定の範囲を行ったり来たりした。大霊湖の上だから景色の変化はないけど、風吹き花が疲れない程度の出力に限っていても、この加速感は楽しいな。
しばらく走ってから青の村に戻った。イーリリスさんは満足気で僕も充分堪能できたから、今度こそ緑葉船を片付けるために魔法を発動させようとしたら、兄さんが僕の横に立つ。
「兄さん、どうかした?」
「ヤート、俺もそれに乗って良いか?」
「え?」
「ダメなのか?」
兄さんの意外な言葉に唖然としてたら、兄さんがもう一度聞いてきたので、僕は急いで緑葉船と風吹き花に同調して状態を確認する。
「ええっと……乗るのは良いけど、交換が必要だからから少し待ってて」
「何を変えるんだ?」
「風吹き花を変える。さすがにずっと風を出してくれたこの風吹き花は休ませないとね」
僕は緑葉船に植えている風吹き花のもとに行き、魔力を流して種に戻した。そして掌の上に転がる風吹き花の種を両手で握りお疲れ様って気持ちを伝えた後に腰の小袋に入れる。
一連の流れが終わって新しい風吹き花を緑葉船に植えようとしたら視線を感じて振り返ると、姉さん・リンリー・イリュキン・他の青の子供達が僕を真剣な目で見ていた。……とりあえず姉さんに聞こう。
「姉さん、僕に何か用?」
「……ヤート、私達も乗りたいのよ」
「えっと、一、二、三、四……」
数えたら十二人いた。この緑葉船は三、四人乗れるから順番に交代で乗って貰えば良いけど、この雰囲気だと確実に順番決めでケンカになりそうな気がする。……しょうがない。僕は緑葉船を降りた後に少し離れて、腰の小袋から取り出した四つの種を広場に埋めた。
「緑盛魔法・超育成・緑葉船」
僕は一人乗りの緑葉船を人数分形にして、それぞれに風吹き花の種を一つずつ置いて成長させる。
「緑盛魔法・超育成・風吹き花」
おおっていうみんなの歓声が聞こえる。僕が複数人乗りじゃなくて一人乗りを人数分用意したのがわかったみたいだね。
「それじゃあ動かし方を説明するから、みんなこっちに来て」
僕が言えば、みんなが我先にと走ってくる。そして僕の風吹き花への接し方の説明や、陸上の時とは感覚が違う湖面を走らせる時の注意を聞くみんなの様子は真剣そのものだった。
「説明は終わりだよ。衝突や転覆にだけは気をつけてね」
「おうっ!!」
兄さんが力強く返事をしてから緑葉船を運び出すと、みんなも続く。その速さからみんながどれだけ乗りたいのかが伝わってくるな。…………あれ? そういえばイーリリスさんも、かなり楽しんでたな。
「もしかして……」
僕はある事に気付いて広場に残っていると大人達の方を向いた。すると、そこには僕の予感した通り、ラカムタさんやハインネルフさんを初めとした大人達が、湖面を嬉々として爆走させてる兄さん達を羨ましそうに見ていた。
まあ、大人だって面白そうな事はしてみたいって思うのは当たり前か。この熱狂する感じが収まるまで見守ろう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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