青の村にて 無言の主張と世界樹の杖
兄さん達と話してたら、ラカムタさんが僕の方に近づいてくる。魔石と戦った時に、かなり無茶したから怒られるなって思っていると、ラカムタさんが僕の頭に手を伸ばしてきた。僕はこれはしょうがないって、拳骨くらいなら受けようって覚悟を決めラカムタさんの手の方へ頭を向けた。
でも、予想してた拳骨の痛みは起きずラカムタさん手が僕の頭に置かれるだけだった。不思議に思っていたら、ラカムタさんはグリグリと僕の頭を撫でてくる。
「ヤート、無事に目覚めて安心したぞ。しかし、お前にもしもの事が起きたら俺はマルディやエスエアに申し訳が立たん。あまり心配させるな……」
「ごめんなさい。さすがに今回は僕も無茶をしたって思ってるから、次に似たような事態に出会った時は、もっとうまくやるよ。あと、ラカムタさん、ただいま」
「おう、おかえり。次か……、その時に俺がいたら暴れてやるから任せろ」
「うん、頼りにしてる」
ラカムタさんの宣言を聞いたら兄さんが指の骨をゴキゴキ鳴らして、姉さんは右足を上げて下ろしダンッて音を出す。二人の行動は自分を忘れるなって事かな? それといつの間にかリンリーも静かに僕の横にいて強く腕をつかんでくる。
僕が三人の無言の主張に、どう反応するべきか悩んでいるとリンリーのいる方とは逆の肩にポンと手を置かれた。そっちを見るとイリュキンが水弾を胸の前に浮かべてギラギラした目で見てくる。……だから何で、無言で主張してくるの?
「ホッホッホ、姫さまも黒の方々も勇ましくて何よりです」
「魔石と戦っている時も良い動きができていたので、このような反応も当たり前と言えば当たり前ですね」
「厳しい戦いを乗り越えたものが見せる自信といったところだな」
タキタさん・イーリリスさん・ハインネルフさんの話してる声が聞こえた。そうだ。ハインネルフさんに言っておかないといけない事があったんだ。気になるものが視界に入ってるけど、今の優先はこっちだ。僕は兄さん達に断ってハインネルフさんの方に歩いていく。
「ヤート殿、わしに何か用かな?」
「うん、お礼を言っておこうと思って。倒れた僕を大霊湖の源泉の島に入れてくれたお陰で、僕は今こうしていられる。ありがとう」
「イーリリスが言ったかもしれんが、ヤート殿が成した事を考えれば当然だ。むしろ青からヤート殿にお礼を言わねばならない。ヤート殿、魔石との戦いに死力を尽くしてくれた事に心より感謝を申し上げる」
……こうやって正面からお礼を言われるのは照れる。よし、普段通りにできるように話を進めよう。
「それじゃあ、お互いにお礼を言ってスッキリしたから普段通りにするって事でどう?」
「フフ、ヤート殿がそれで良いのならば」
「それなら普段通りでお願い」
「わかった。感謝は内に秘め、態度は普段通りとしよう」
「さっそくで悪いけど、一つ聞いて良い?」
「何かな?」
「三体は向こうで何やってるの?」
広場に着いた時から三体が集まって、僕に意識を向けずじっとしている事が気になっていた。自惚れてるわけじゃないけど、三体が僕をチラッとも見ないのは絶対に何かわけがある。
「あれは……、まあ、ヤート殿関連ですね」
「ヤート殿の使った杖が少々変わりまして……」
「世界樹の杖が?」
言われて、あの三体が集まってる場所は僕が世界樹の杖を使った場所だって事を思い出した。ざっと見てハインネルフさん達は困惑してて、三体は注目してるだけだから、とりあえず青の村に到着する前に感じたように危険ではなさそうだ。
「三体に話を聞いてみるね」
「お願いします」
僕は三体に近づいていくけど、三体は僕を見ない。そのままさらに距離を縮めて三体のすぐそばまで来たら、三体がにらんでいる世界樹の杖が見えてきた。……なるほど、これは確かにハインネルフさん達の反応や三体がにらむのもわかる。僕の視界に入ってきた世界樹の杖は、杖だった事が想像できないくらい成長していて枝が伸び葉を茂らせた若木と呼べる状態になっていた。
「久しぶり。世界樹の杖は、いつからこの姿になってた?」
「ガア」
「僕が倒れてからか……。魔法の起点として維持されたまま大霊湖の魔力を吸収したのかな? 見た感じ暴走してるわけでもなさそうだから同調してみるよ」
「……ブオ」
「なんでダメなの? 世界樹の杖をこのままにしておけない」
「アナタハ、マダ本調子デハアリマセン」
「無理はしないから大丈夫」
「「「…………」」」
三体は僕を心配とどの口がそれを言うのかっていうのが入り混じった感じの視線で見てくる。さすがに三体にはいろいろ見られてて説得力が小さいから、今日は世界樹の杖に触らせてもらえないかなって考えてると三体が僕の後ろに移動していく。
「……ガア」
「……ブオ」
「オカシイト少シデモ感ジタラ杖ヲ排除スルノデ、ソノツモリデイテクダサイ」
どうやら渋々だけど許してくれたみたい。本当に三体は優しいな。この優しさに報いるためにも、せっかく魔石との戦いを被害なく乗り切った事に水を刺さないためにも、僕は深呼吸をして何が起こっても良いように精神を落ち着かす。そしてチラッと三体やみんなを見た後、世界樹の杖に触る。
気がつくと白く輝く地面がどこまでも続き、夜空に流れ星が絶えず降り注ぐ空間にいた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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