決戦にて 切り札開放と決着
ガル・マイネ・リンリー・イリュキンの攻撃は完全の魔石の不意をついた形となる。これはヤートの魔法が完成しつつあるのが魔石の焦りを誘い、さらにヌイジュが身体を張って魔石に全力の攻撃をやるしかない状況を作り上げたためであった。
「ギャアアア!!」
「フフ……」
吹き飛ばされた魔石の怒りの叫びと、魔石といっしょに飛ばされたヌイジュの笑い声が重なる。
「水帯」
ヌイジュは魔石の激しい攻撃を何度も受けていて突然の事態に反応できるような状態ではなかった。イリュキンはそんなヌイジュのケガの具合を察知し、素早く水帯をヌイジュに巻きつけ、自分のもとに引き寄せる。
「ヌイジュ、大丈夫かい?」
「ひ、姫さま、情けない姿を見せてしまい申し訳ありません……」
「そんな事はないよ。私達四人がこの場に間に合ったのは、ヌイジュが魔石を止めてくれたおかげだ。よくやってくれた」
「……ありがとうございます」
魔石は着地をして体勢を整えると、すぐにヌイジュと四人のところへ戻ろうとしたが、自分の周りで爆発的に魔力が放たれた事で動けなくなった。
「ギィ!?」
「ようやく追いついた。今度は逃がさん」
「「「「「「…………」」」」」」
「ギャギィ!!」
魔石の周りを、ラカムタ・ハインネルフ・イーリリス・タキタの四人と、魔石をにらみつけている鬼熊・破壊猪・ディグリの魔獣三体が囲む。
「俺達の言葉をお前がわかるのか知らんが再開する前に言っておく。お前に残された時間は少ないぞ」
「ギ? ……ギィギャッ!!」
魔石はラカムタの言葉を理解できなかったが、その態度に確かな終わりの要素を感じた。なぜそう感じたのか魔石自身困惑していたところで、樹根の大砲から放たれる莫大な魔力の気配に気づき、慌てて視線を向けるとヤートが自分の事を見ていた。それは正しく魔石の恐れていた終わりが形になっていた。
ふう……、なんとか樹根の大砲に魔力を溜め終わった。僕が目を開けた時に目の前にいたのが兄さん達だったから、ヌイジュは魔石にやられたのか? とか、もしかして僕の魔力の充填に手間取ったせいで魔石を逃したのか? って焦ったよ。だけど、ヌイジュがイリュキンの足もとにいる事と、兄さん達の見ている先でラカムタさん達が魔石を囲んでいるのを見て、今の状況を理解できた。
「間に合ってよかった……」
「ヤート、魔法が完成したんだな」
「うん、あとは魔石を射ち抜くだけ」
魔石がラカムタさん達を無視して僕の方に来ようとしてるけど、さすがに二回目を見逃すほどラカムタさん達は甘くない。
「ギィィィ!!」
的確に魔石の進みたい先を読みさえぎり、さらに魔石に少しでも隙ができたら攻撃して黒い水を減らしてる。本当に安心して見てられるから、あとは僕が魔石に魔法をどう当てるかを考えるだけだと思っていたら、それが聞こえた。
『バフッ!!』
何かから空気が抜ける音で、妙に聞き覚えのある音だ。激しく戦っているラカムタさん達と魔石には聞こえてないみたいだけど、兄さん達には聞こえていたみたいで辺りを見回している。そしてそんな中、イリュキンがポツリとつぶやく。
「大髭様……?」
「なるほど、聞き覚えがあるわけだね」
どうやら大髭様は、魔石に操られてた怒りとかもあるはずなのに、それらを静めてずっと僕らと魔石の戦いを見守ってくれてたみたいだね。正直なところ大髭様が参戦すると、僕の比じゃなく津波とか洪水の災害が起こって戦いどころじゃなくなって、最悪その混乱の中で魔石を見失う可能性があったから、冷静に行動してくれた大髭様には感謝だね。
『バフッ!!』
「ギィ? ギャッ!!」
大髭様が呼吸音が響くと魔石のすぐ下の地面がボコッと膨む。僕を見ていた魔石が異常を察知して避けると、次の瞬間膨らんだ地面が弾けて勢いよく水柱が上がる。ラカムタさん達も突然の事態に驚いてたけど、すぐにハインネルフさんが遠くの大髭様に気づいてみんなに声をかけた。
「皆、下がれ!! 大髭様の邪魔になる!!」
『バフッ!!』
「ギィッ!!」
「ヤート、魔法をぶち込め!!」
「「「今です。ヤート殿!!」」」
「ガア!!」
「ブオ!!」
「決メテクダサイ!!」
「「ヤート、いけえ!!」」
「「ヤート君!!」」
ラカムタさん達が魔石から少し距離を取ると、大髭様の魔石を狙った水柱が地面を突き破り何本も立ち上る。さすがに素早く動ける魔石でも自分を囲むように吹き上がる水柱を避けきれず、とうとう空中に飛ばされると、ラカムタさん達の声が聞こえた。
「ギィギャァァァァ!!!!」
魔石が空中で大髭様に対しての怨念めいた叫び声が響く。……うん、これなら僕の魔法に誰も巻き込まない。大髭様、ありがとう。僕は樹根の大砲を魔石へと向け魔法名を言った。
「緑よ・緑よ・集めし力を解き放て・緑盛魔法・樹根の大砲」
僕の魔法名の宣言とともに樹根の大砲が緑色に光輝き、樹根の大砲の先端から魔石をまるごと飲み込める太さの緑光色の光線が発射され魔石に迫る。
「ギャギャアアアアア!!!!」
魔石は樹根の大砲の光線に対抗するため、その身にまとっていた黒い水の残りを全て使って盾を作り自分の身を守ろうとした。……でも無駄だった。魔石の盾は樹根の大砲の光線に当たると蒸発していく。魔石自身の力がどれだけすごいとしても、それはあくまで個の力。数多の植物達が協力してくれた樹根の大砲を防げるわけがない。
「ギャアアアア!!!!」
魔石の盾は数瞬で無くなり、魔石が樹根の大砲の光線に飲まれると叫び声も聞こえなくなりその姿も消え去った。…………さすがに……大規模魔法の連続は疲……れるね。僕は樹根の大砲を射ち終わると、世界樹の杖に身体を預けるように意識を失った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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