青の村にて 三人での共闘と後味の悪さ
「兄さんと姉さんは連れて行かせない。二人が死んでも二人の身体を使われるとか嫌だ」
「ヤート君、何の事ですか?」
「兄さんと姉さんを操ってる奴には、二人の身体が必要だとして……二人が生きてる必要があると思う?」
「……まさか」
「意識の無い兄さんと姉さんの身体を操って動かせるんだから、想像したくもないけど大霊湖に入って二人が溺れても身体を無理やり動かせられるって考えるべきだよ」
「……絶対に許しません」
「ああ、許して良い事じゃない」
嫌な予想は当たるものだし、ここは絶対に失敗はできない。それなら兄さんと姉さんを助けるために僕達ができる事は……。
「リンリー、イリュキン、一番まずいのは兄さんと姉さんがこの場からバラバラに分かれて動かれる事だと思うから、僕達は足止めに徹するよ。イーリリスさんが兄さんに向かったら僕達は姉さんをっていう風に、常にイーリリスさんの逆に動けるように構えてて」
「わかりました」
「私達だとガルとマイネを一瞬で無力化するのは難しいから、お祖母様任せの立ち回りになるのはしょうがないか。自分の未熟さを嘆くのは後にして今はやれる事を全力でやってみせるさ」
「この非常時でも、冷静な判断ができるのは三人とも素晴らしいです」
「イーリリスさん、この状況で褒められても素直に喜べないよ」
「それでは後でたっぷり褒めるとして……、今からが本番ですから気を引き締めてください」
イーリリスさんの言葉とともにリンリーの気配が消え、イリュキンの方からザーッという生み出した水の流れる音が聞こえるから二人とも臨戦態勢に入ったみたいだ。僕も腰の小袋の一つに触って魔力を流す。……僕達の戦意を感知したのかジリジリと僕達の方に近づいていた兄さんと姉さんの動きが止まった。
「さすがに、あからさまだったかな?」
「僕達の役割は足止めだから、むしろもっと派手に目立つ方が良いと思う。緑盛魔法・超育成・樹根触腕・緑盛網」
「それもそうか。水よ!!」
兄さんと姉さんが動き出そうとしたから、僕は腰の小袋に入っている種を成長されて広範囲に根や蔓を伸ばしていき、イリュキンも水弾や水帯をいくつも形作っていく。リンリーにとっても僕達の魔法で死角が増えれば、それだけ奇襲を仕掛けやすくなるから戦略的にも合ってるはず。それに僕とイリュキンの魔法によって、もう一つの効果が生まれるから状況を動かせる。
「シッ」
「「ッ!!」」
「ヤート殿、イリュキン、見事な陽動です」
兄さんと姉さんが、イーリリスさんに触られてベシャッとまた地面に叩きつけられた。操られてる兄さんと姉さんは大霊湖へ向かう最大の障害としてイーリリスさんを警戒してたけど、僕とイリュキンが派手に魔法を発動させたから、一瞬僕達を意識してイーリリスさんの接近に対応ができなかったというわけだ。
それにしてイーリリスさんは、触っただけでどうやって地面に叩きつけてるんだろ? まあ、状況が動いた今考える事じゃないか。……イーリリスさんが姉さん寄りに位置取ってるから、まず姉さんを相手取るみたい。兄さんと姉さんはどっちも力押しが得意だけど、姉さんはさっきリンリーとイリュキンをけん制したように上手い戦い方もできるから優先するのは賛成だ。というわけでイーリリスさんが姉さんを動けなくするまでは、兄さんを僕とイリュキンの魔法の物量とリンリーの奇襲で攻め立てて、できるならそのまま押しつぶす。
僕は樹根触腕と緑盛網で兄さんの動ける範囲を限定していき、イリュキンも僕に合わせて水弾と水帯を兄さんに向けて放った。自然と僕が妨害と拘束でイリュキンが攻撃に役割が別れたやり方が兄さんを追い詰めていく。さすがに操られてる兄さんでも、やりづらいのか強化魔法任せで強引に突破しようとしてきたけど、僕とイリュキンに狙いを定めた兄さんのスキをついて兄さんの後ろに回り込んだリンリーが兄さんの後頭部に蹴りを入れた。
「スキありです」
「ッ!!」
兄さんを蹴った後リンリーは兄さんから反撃される前に、僕とイリュキンの魔法の死角に紛れて見えなくなる。これで兄さんは僕とイリュキンの魔法を破ろうとすればリンリーの奇襲をくらい、リンリーを警戒すれば僕とイリュキンの魔法の密度が増して動ける範囲が減っていくという状況におちいった。元々三対一なのが卑怯この上ないけど今は仕方ないと割り切るしかないって、僕が微妙な気持ちになっていたらイリュキンが注意を促してくる。
「ヤート君、ガルが狙ってるよ」
「……そうだね」
兄さんは僕とイリュキンの魔法への対応は最低限避けるだけにして魔力を溜め出す。本当に操られるとは思えない淀みのない動きだけど、ここは兄さんの魔力が溜めきる前に決着をつけたいところだね。
「イリュキン、兄さんの動きを止めれる?」
「……やってみよう」
「ありがとう。リンリー、これから勝負に出るから万が一の時はお願い」
「はぃ」
耳元に微かだけど確かにリンリーの声が聞こえたから、僕は二人を信じて腰の別の小袋に触って集中しよう。
「水よ。縛れ!!」
イリュキンが水弾を解いて水帯の本数を増やし速度も上げて兄さんを拘束しにかかる。でも、兄さんが手を高速で動かして水帯をはねのけた。タキタさんみたいな動きだけど、兄さんはタキタさんみたいに達人のような無駄のない動きができてないから当然スキができる。そしてそういうスキを見逃さないリンリーが兄さんの足もとに姿を現した。
「ガル君、すいません」
「ッ!?」
兄さんがリンリーに足を払われてよろけて地面に手を着く。イリュキンはそれを見逃さず水帯で兄さんをガチガチに縛ってくれたから僕は準備をしていた魔法を発動させた。
「緑盛魔法・深眠粉・深寝花粉」
僕が触っていた腰の小袋から強い誘眠性のある煙が兄さんに向かって流れていく。竜人族の耐性とかを考えればしょうがないんだけど、兄さんを二~三日、いや一週間は眠らせるつもりだ。……嘘でしょ。危機的状況を察した兄さんが強化魔法の出力上げて僕の魔法を遮ってる。しかもイリュキンの水帯の拘束がギギギギギギギギと軋んできた。
「ヤート君!! このままだと水帯がもたない!!」
「…………こうなると足止めが役割とか言ってられないか」
兄さんの周りに伸ばしていた全ての根を僕の手元に戻して僕は覚悟を決めた。根をギチギチに編み込み数瞬後に出来上がったのは巨大な根の拳と太く強靭な根の腕で、拳部分を強く固めて腕の部分を限界まで振り上げるように反らしていく。
「…………兄さん、本当にごめん。後で何回でも謝るから。緑盛魔法・樹根撃拳」
大質量の根の拳が僕のつぶやきとともに高速で強化魔法ごと兄さんを殴って吹き飛ばす。正直なところ硬金樹の成長に巻き込んで動きを止めたり、痺れ根の檻を使うとかの兄さんを無傷で止める他の選択肢があったのに、強化魔法の出力を上げた兄さんに対して有効かどうか分からず、結局単純で強力な一撃を当てて兄さんを動けなくするしかなかった。
…………最悪だな。吹き飛んだ兄さんが地面に落ちて強化魔法も解けてピクリとも動かなくなっているのを見て、もっと上手くやれたんじゃないかとか僕が欠色じゃなかったらとかの後悔や未練しかこみ上げてこなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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