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第16話

歓声が一段と大きくなる。

会場にいる生徒達には何が起きたのかは分からず、ただ、勝敗が決したという風にしか見えていなかった。


しかし、


「緊急事態です。テロ行為を確認、ただちに一般生徒の避難をお願いします!」


「「了解!」」


生徒会メンバーだけは、瞬時にこれが緊急事態だということに気づく。

華美の号令のもと、たんぽぽ、猛の両名はすぐさま行動に移った。


「うたう!緊急事態です。避難誘導をお願いします!」


そして、華美は実況を担当していたうたうの元へと向かうと事態を説明、誘導避難の指示を出す。


「りょーかい!任せといて!」


うたうの能力である声質変化は、実況向きの声音にも変えられる他、こういった非常事態にも効果を発揮する。生徒に動揺なく避難させるためにはベストな判断だ。


華美は、会長としての役目を迅速に終えると、フェニックス、ロト、梓の3人を見つめる。

そして、フェニックスの前で横たわる紅羽を見かけると全速力で走っていた。



「私が勇者だと?」


「ええ。そうです。隠したって無駄ですよ?神界の者である私には分かりますから」


「そうか。それなら人違いだ」


「だから隠しても無駄だと」


ロトの声を遮るように梓は間合いを一気に詰めて居合切りを決める。

深くは刺さらなかったものの、確かにその刃はロトを捉えた。


「なぜなら私は、勇者の娘だからな」


抜いた刀を鞘に収めながら梓は、そう言った。



横たわる紅羽の横で、フェニックスは必死になっていた。


「くそ!出血が多い!まずはこれを止めねーと!」


すでに、心臓の活動を停止している紅羽の出血を止めた所で、なにも変わりはしない。そう、本来ならば。


「フーくん!」


華美はフェニックスの名前を呼び、紅羽を見る。

華美は一瞬で紅羽が死んでいることに気づいた。


「おう華美!お前も手伝え!」


「無理よフーくん。紅羽さんはもう」


「うるせぇ!こいつをこんなところで死なせるわけには行かねぇんだよ!」


「でも……」


「大丈夫だ!こいつは神界の者に殺された!神界のやつらは殺したやつの魂を自分たちの手で神界に持ち帰る!だから持ち帰る前に奪い返す!そのためには肉体を残しておかなきゃならねぇ!だから手伝え!」


「…!分かったわ!」


フェニックスの指示を受けながら応急措置する華美は、紅羽の身体の至るところに小さな光があるのを見つける。


「超応急処置だ。この光がある限り、肉体の細胞は死なない。まだ大丈夫だ!」


「なら確実にトドメを刺せばいいのですね?」


フェニックスたちの背後に梓と交戦中のはずのロトが立っていた。

フェニックスの背筋に冷や汗が落ちる。


(くっ、部が悪すぎる!魔力の大半を紅羽に使っちまってる以上こいつとまともにやり合えば確実に殺られる!)


「フーくんここは任せて」


華美がすっと立ち上がる。

そして、勇敢にもフェニックスの盾となった。


「まさか貴方は魔王の ……これは面白い。まさか魔王が人間に助けられるとは」


「俺は魔王の息子だっての!すまねぇ華美。頼んだ!」


「弟のピンチはお姉ちゃんが助けるものだからね」


毘沙門高校は、国立高校の中でも武力がトップクラスの学校だ。

そしてその、トップクラスの高校のトップクラスに位置しているということは、すなわち、1人で一つの国の軍事力レベルと言える。

毘沙門高校フェイステン第3位、舞桜華美は1人いるだけで一つの国の軍事力と同じ戦闘力を持つ!


神界から来たというロトに対してもその戦闘力はさすがという他なかった。

怒涛の連続攻撃、適所に付く重い一撃。その攻撃によってロトの表情からは、余裕がなくなっていた。


「つくづく思う。こんな小さな国にこんなにも大きな力を持った人間がいるとはと」


紅羽の応急処置をしているフェニックスの横に先程までロトと戦闘していた梓がボロボロの身体でやって来た。


「しかし、所詮人間は人間。神には適うはずがない」


「だからお前たち勇者はよえーんだよ」


「なに?」


「さっき聞いたぞ。お前、あの勇者の娘なんだって?」


「よくもまぁあの状況で聞こえたものだ」


「耳だけは昔から良かったからな」


「しかし、逆に言えばさっきまで気付いてなったか」


「お前は俺の正体に気づいてたって言うのか?」


「当たり前だ」


「けっ」



「すごい!あれが会長の闘い」


華美とロトの戦闘を氷麗が避難する列の波から逃げて観察していた。


ただこどじゃない何かが起きたことは分かったが、華美が戦闘を開始したのを見て、やはり何かがあったのだと確信した。エキシビションでの模擬戦ではない何かが。


「つーちゃんー!」


「なのは先輩!一体何が?」


「説明は後でするからここはとりあえず逃げよーじゃないとはーちゃんが本気で戦えないから」


「分かりました」


できれば何か手伝いたい。

そう思う心が強かったが、華美の戦闘はとても氷麗が割って入れるような代物ではなく、レベルが違いすぎていた。

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