第15話
「次はお前だな紅羽」
「んーだねー」
「なんだ?なんか浮かない顔してんな」
「私って模擬戦とは言え戦闘行為があんまり好きじゃないんだよねー」
紅羽の発言に、自分自身が戦闘を好んでいるフェニックスは、こういうやつもいるのかと思う。
「ん?でもお前ってフェイステンに入ってるよな?」
「まぁ一応ねぇ」
浮かない顔をしている紅羽を見て、ふとフェニックスは紅羽の戦闘しているところを見たことがないことを思い出す。他の生徒会メンバーはあるが紅羽のだけは無い。浮かない顔をしているとは言えフェイステンの実力を持つ紅羽はどんな戦闘をするのか。フェニックスは若干の好奇心に駆られていた。
「じゃあ会長、フーちゃんのことお願いします!」
華美の元に立ち寄った紅羽は抱っこしておいたフェニックスを華美へと手渡す。
俺を物みたいに扱うな!というフェニックスの言葉は無視し、華美に両脇を掴まれてなんとも健気な姿をしているフェニックスを見て紅羽は悶えた。
☆
「ほらフーくん暴れないの」
「華美!てめーおろせ!」
「でも見れないでしょ?」
「うっ……」
「あと、紅羽さん戦闘となると人が変わるから気をつけてね」
「気をつけろってどういう」
「子供には刺激が強いから」
「俺はガキじゃねぇっての!」
フェニックスは続けて言葉を言おうとしたが、うたうの選手紹介により掻き消された。
「それでは次鋒戦始めましょう!」
猛の時とは違う演出に、会場のボルテージが上がる。
ライトアップされる紅羽は特に男子からの声援が凄かった。
「意外と人気があるんだなあいつ」
「知らないの?紅羽さんは可愛いから全学年の男子から絶大な人気を持ってるのよ?私もだけどね」
「自慢を入れてくるのがうぜぇ」
「先鋒戦では自警団側はお情で猛くんの幼馴染を出しただろうけど、これからは本気で勝利を取ってくるはずよ」
「みたいだな。あのちっこいのだけが妙に戦闘力が低いからな」
「フーくんも小さいけどね」
「うるせぇ」
うたうの紹介が終わり、両者バトルフィールドの中央で向かい合うと軽くお辞儀する。
(見たことない人だ。そう言えば転校生が自警団に入ったって噂があったっけ?その人かな?)
相対する自警団の次鋒を見た紅羽は、自身の記憶に彼のデータがないことを確認する。
「お初にお目にかかります。ロトと言います。まさか私の相手がフェイステン第8位とは……」
「何が言いたいのかな?」
含みのある言葉に紅羽は若干の苛立ちを覚える。
彼の今の言い方はどう考えても舐められている。
「いえ。エキシビションとは言え、大事な一戦。もぎ取らせて頂きます」
「怖い言い方するねー。フーくんには君みたいにならないように教育しないと」
お互い一言二言の言葉をかわした後に、モニターに開始の文字が映り出された。
文字が映り出されたのとほぼ同時に両者動く。
空中闊歩しながら高く舞い上がったロトは光剣を繰り出し、紅羽に突撃しようとする。
その最中、紅羽は自身の能力を発動した。
根元付近は真紅に、そこから毛先に向かって薄くなっていく紅羽の髪色が真逆の紺碧へと染まっていく。
そして、額には特徴的な角が3本生えだした。
目は大きく見開き、ロトを真っ直ぐに捉える。
そして、向かってくるロトに真っ向から立ち向かった。
☆
「すげー戦闘だな!」
バトルフィールドを存分に使った攻防の中、フェニックスが興奮した面持ちで華美に言う。
「刺激が強いと思ったけど、大丈夫そうね」
「たりめぇだろ?俺は魔王の息子だぜ?けど、まぁあの紅羽がここまで性格が真逆になったつーか、獰猛になるとは思わなかったけどな」
「彼女の能力は鬼神化。見ての通りね。でもああなった彼女は性格も鬼みたいに獰猛になるし、一定期間暴れないと気がすまなくなるわ」
「まさに鬼だな」
「そんな彼女を能力発動中は蒼羽と呼んでいるわ。鬼の蒼羽ってね」
「まんまじゃねーか」
☆
「やはり、8位の実力ですね」
「何を!私の攻撃に合わせるので一杯のくせに!」
「こんな無駄な戦いは早く終わらせましょう。でないと、あの人に怒られる。……天使の輪」
ロトが天使の輪と口にした瞬間、フェニックスと梓が気づく。
ロトは名前の通り天使の輪上の物体を紅羽目がけて放つと、その輪は大きくなり、紅羽を捕らえる。
「な、にこれ。身動きが」
「では、お言葉通りその命もぎ取らせて頂きます」
☆
ロトが天使の輪と口にしたのを気づいた瞬間からフェニックスは、華美の体から抜け出すと、バトルフィールドへと向かっいた。
「あれは、天使共が使う枷じゃねーか!なんでそんなものをあいつが!」
紅羽が天使の輪によって捕まると、フェニックスに嫌な予感が生まれる。
(あの枷は並大抵のことじゃ外れない!それにあれを天使が使う時はたいてい、殺ると)
ブスッ!!
ロトの持っている光剣が紅羽を貫いた音が響いた。
そして、浮力の失った紅羽の体は重力に逆らうこと無く、地面へと、フェニックスの目の前に落ちた。
絶命する寸前、視界に捉えたフェニックスの姿に、紅羽がポツリと語りかける。
「フー……ちゃん」
紅羽から目の光が消えた。
「て、てんめぇ!!!」
フェニックスの咆哮を無視し、ロトはもう1人に関心を向けていた。
「まさか貴女までこの世界に居たとは勇者」
梓は静かに刀に手を置いた。




