第12話
全国国立高等学校、特別新人戦、通称新人戦。
一般高校の高総体と同じようなこの新人戦は、特別高校ならではの大会で、能力を使った競技を行い順位を争う大会である。
個人成績の他に学校事の成績もあるため、個人というより団体戦と言った方が適切な大会でもある。
毎年5月頃に行われるこの新人戦は、夏に行われる本戦の前哨戦という立場にあたる。
「去年、我々毘沙門はこの新人戦で総合3位でした。今年はこの新人戦で1位を取り本戦でも1位を目指したいと思います」
進行役である猛が言い終えると、自警団側から失笑が漏れた。
「なにか?」
「3位でした、か。そうなったのはお前ら生徒会のせいだろう?そのおかげで本戦でも2位と振るわなかったんだ。しかも3位とは数ポイント差でな」
自警団を代表して梓が口を出した。
「確かに我々のミスもありました。しかし、我々生徒会だけが悪いとは限りません」
「ほう……。今年は生徒会には任せられない私たち自警団に司令室の権利を譲ってもらおうか」
突然の物言いに、生徒会側に衝撃が走った。
しかし、すぐさま華美が反論する。
「それはできかねます。毎年司令室を担当できるのはは各高校の生徒会と大会ルールにも記載されており、高校側での判断で変更はできません。なので、今年も我々が司令室をやらせてもらいます」
「しかし大会本部へ打診すれば変更は可能のはずだ」
「確かにそうですね」
「そこで一つ提案がある。末にある1年による模擬戦のエキシビションとして私たち自警団と生徒会で司令室をかけて勝負をしないか?」
「勝負とは?」
「そのままの意味だ。5対5で模擬戦を行い勝ち星が多い方が司令室をやる。どうだろうか?」
梓の提案に華美を始めとする生徒会の面々が思案していると、フェニックスが口を開いた。
「面白いやってやろーじゃねーか」
「貴様には聞いていない。黙っていろ」
「……あ?何を言っている人間ごときが。勝負を吹っかけてきたのはそっちだ。指図される筋合いなんてねぇんだよ。なんなら1対5でもいいんだぜ?俺が全員ぶっ潰してやるからよ」
このフェニックスの言葉に自警団側から「ふざけるな」「舐めすぎだ」などと言う声が上がるが、フェニックスはシカトしただ1点と梓を見つめる。
「フーくんの言った通り我々生徒会は勝負を受けさせて頂きます」
緊張が走る空気の中で華美が高らかに宣言した。
この華美の宣言に動揺する生徒会のメンバーはおらず、新入生であるはずの氷麗も穀然とした態度で座っていた。
「しかし、これ以上は議事進行に影響を及ぼすためこの話はこれで終わりに。また、細かなルールはエキシビション当日こちら側から通達します。公平性をかくため基本は学校規則に則ります」
「いいだろう」
納得した梓がそこで黙ると、再び議事を猛が進行し始め、この日の会議は終わった。
☆
生徒会室に戻ってきた生徒会メンバーが各々の席に腰掛けると、一斉に息を吐き出した。
「ふー。疲れたねー」
「やっぱり自警団とはすんなりといかないものですね」
「自警団とは仲が悪いんですか?」
「うーんー。まぁ、昔からねー。何かと衝突が多いからねー」
「つか、身内同士でやり合うってその新人戦とか本戦は大丈夫なのか?」
「どうだろうね。こんなんだけど去年はそこそこの成績は納められてるし」
「そうか。よし、じゃあそろそろ下ろせ」
「えーもうちょい乗ってなよー」
「お前に乗ってると後頭部がいてーんだよ。いいから俺専用の椅子を出せ」
「もう!失礼だよフーちゃん!」
離れようとするフェニックスを紅羽が更に抱きしめる。すると、胸のクッションがない紅羽の絶壁なる胸板にフェニックスはまたも頭を痛めるのだった。
「会長、一年生による模擬戦ってなんなんですか?」
「あっちの赤髪のやつも言ってたけどお前ってなんも知らねーのな」
「う、うるさいですよ!行事関連は昔から疎くて……」
「模擬戦と言うのはそのままの意味よ。この前フーくんと氷麗さんでやったみたいに一年生同士で模擬戦闘をやってもらうの」
「これをやるとねー単純な強さとか、誰がなんの能力を持っていてどんなことが得意なのかすぐに分かるんだよー」
「新人戦の選手選びにピッタリというわけですか」
「そうそうー。それとねー大会でも模擬戦はあるから経験させるにもいいしー。上位になったら本戦に出てもらうことだってあるよー」
「事前に模擬戦をやるやらないの意思は取るから強制でもないし、能力が戦闘向きでない人も出場できないから存分に力を出してもらってけっこうよ」
「大会で模擬戦ですけど、戦闘なんて種目あるんですね」
「人間も根っこの部分ではそういうのが好きってことなんだろ」
☆
自警団が本部に戻ると、生徒会メンバーと同じく息を吐き出し、一息ついていた。
「毎回のことですが生徒会とは話が会いませんね梓さん」
「団長もよく何回もやってられるものだ」
「あの小さい男の子には迫力がありましたね」
「そうだな……」
団員の1人が梓の元から離れると、梓は小さく呟いた。
「フェニックス……」




