第七話
続きです。
本日二話投稿の二話目です。
よろしくお願いします。
意識を戻すと空のトレイが明日香の足元に落ちていた。
ルックのトレイにあったのはイチゴ、イチゴ、パイナポー、パイナポーの四つ。あまちゃんはルックのど素人だから当然全種類を当てることができなかったから。
けど明日香はそんなことを気にもせずひと口で食べてしまったのだと思う。混ぜるとまじで美味いと明日香は言っていたし、種類がどうとか細かいことを気にしない人だから。
私はトレイを拾って袋に入れた。
それを脇に置いてスマホを見るとお昼休みは残り二十分くらい。背後の体育館から、うおーとかよっしゃとか男子の大きな声とバタバタと走る音とボールの弾む音が聴こえてくる。無駄にうるさくてまさに学校って感じ。
「そう言えばこの前、久しぶりに理香に会ったんだよ」
「理香って理香ちだよね?」
「そう。で、その時に話を聞いたんだけどさ」
私とあまちゃんと明日香。それぞれご飯を食べ終えあと、三人の内の誰かがこうして話したいことを話すのが私たちのお昼休み。
今話しているのは明日香。私のルックがブレンドされた匂いをさせている。
「高校の仲間とカラオケ行ったらそこにいた他校の奴らとケンカになって相手をボコったんだって」
年頃の女子が三人集まっても私たちは恋バナにならない。私には事情があって明日香には中学の時の嫌な出来事が影響して男性に対して一線を引いているから。
「そしたらボコった奴の上が出てきちゃったらしくて」
あまちゃんに関してはよくわからないけど、たぶんあまちゃんは中身が凄く大人だから子供がする恋愛には全く興味が無いんだろうと私は睨んでいる。誰かが恋バナしている時あまちゃんはいつもつまらなそうに聞いているし。
「その人がさ、よりにもよってゴリさんって言って私も知ってんだけどまじでヤバめで喧嘩超強い人でさ、そんなのに絶対勝てないってなってさ」
「大変だ」
「ああ。けどゴリさんの仲間にほら、ウチらの先輩のなーさんがいてさ、で、なーさんが話をつけてやるってなって、その場にいた奴ら全員の土下座で許してやるってことで話がついたらしいんだよ」
「ねぇ椎名。これなんの話?」
私の制服を摘んでちょいちょいと引っ張って、訳わかんないんですけど眉間に皺を寄せるあまちゃんに私は教えてあげる。
「これはね、この辺りのレディース最強列伝みたいなやつだよ」
「ああ、なんだ」
あまちゃんは明日香のいつものやつかと興味を失った。あまちゃんは明日香と行動する場所が違うから、あまちゃんにとってヤンキー云々の話は子供の恋愛と同じくらい興味を引かない話なわけ。
「んで、みんなで土下座するって話しになったんだけど、理香と亜衣が絶対しないって言い出して」
私は明日香とは中学が一緒だし昔も今もよく一緒にいるし、訊いてもないのにこの前さーとか言って嬉しそうに教えてくれるから大体のことは把握している。お陰で地元の名のあるヤンキーの名前とか、ヤンキー相関図が私の頭の中に入っちゃっているわけ。当然、中学の先輩のなーさんは明日香を通じて知っているし、会ったこともないゴリさんも一応頭の中には入っているわけ。
「亜衣も?」
そんなもの、私も特に興味があるわけじゃないんだけど、私の記憶力は伊達じゃないから覚えちゃうし明日香が楽しそうに話すから私が聞かない理由がない。それに、人は話自体に興味がなくても好きな人が話す声や素振り、くるくる変わる表情なんかを見ていたいと思うもの。
明日香の話すレディース列伝に関してあまちゃんと私の態度が違うのはそういう理由。だからあまちゃんが明日香を嫌っていると言う話ではないの。そもそもの話、あまちゃんが明日香のことを嫌いならあまちゃんはこの場所に来ないから。それなら会わずに済むんだから。
とは言え、あまちゃんもせめてもう少し興味がある振りくらいしてもいいんじゃないかなぁと思うけど、明日香もあまちゃんのファッションの話を始めると大きな欠伸をしたりして全く興味を示さないから、そこはイーブンかなぁと思う。
私はオシャレに興味があるからあまちゃんの話をへぇほぅと聞いているし、一緒に買い物に行って勧められた服を買ったりしている。
つまり、空気を読める私は空気を読もうとすらしない二人のバランサーみたいな役割が自然と出来ているわけ。
「うん。そしたらゴリさんが激怒しちゃったらしくてさ、そうなるとさすがになーさんも庇えなくなって」
「なるほど」
「で、理香と亜衣は別にケジメをつけるって話になってさ」
「あらぁ」
こうして話を続けていたら私の右側が重くなった。寝る気満々、目を閉じたあまちゃんが私の耳元で、終わったら起こしてなんて小さい声で囁いて私の肩に頭を乗せたから。私は空いている方の手でおやすみなさいと優しくトントンとあまちゃんを叩いた。
「で、呼び出された公園に行ったら車で攫われたんだってさ。乗れって言われて後ろに乗ろうとしたらトランクだろぼけってゴリさんに言われて蹴り入れられたって」
「なにそれ怖い」
「んで、ほら、だんご山の方に貯水湖あるじゃん」
「あの大きな公園のあるとこの?」
「そう。で、二人とも橋から貯水湖に突き落とされたって。ウケる」
「う、ウケるのかなぁ?」
だってさ、亜衣は普通に悲鳴だったらしいんだけどさ、理香のやつその時ぬおーって言っちゃったってさ。ぬおーだぞぬおー。ぬおーはないだろまじウケるあはははははと明日香が笑っている。
私は思い切りひいたけど私の体の右側が小刻みに揺れている。実は話を聞いていたらしいあまちゃんが珍しくツボに入ったらしく、くくくと小さく笑っていた。
「ふっ。ふふふふふ」
笑う二人に釣られて私も笑ってしまった。理香と亜衣に会うことがあったら謝っておこうと思う。
「あ。そう言えば」
「なに?」
「今の話しで思い出したけど、なーさん彼氏できたって。だから引退するって理香が言ってた」
「へぇ。そうなんだ」
豹。私のなーさんこと丸和先輩のイメージはそれ。細身でしなやか。明日香くらい背が高くて目が大きくてヤンキーだけど普段は慌てず騒がず物静か。それはまるで、弦をグググと引き絞ったまま力を溜め込んでいて、何かあるとそれを一気に解放する弓矢のような人。突貫する人。
思わず男の人に甘えるなーさんを想像してみちゃった。
「うわぁ…大丈夫かな。その彼氏さん」
「な。それみんな言ってるってさ」
私は苦笑。明日香はまたあははと笑った。あまちゃんは空気。当然だよね。興味無いんだもん。
「けど明日香は駄目だよ。ケンカとかそういうの」
今みたいなレディース最強列伝を聞く度に明日香が変なことに巻き込まれないか心配になる。私の頼りないなりの釘を刺したくなる。
「ね」
私の口調と真剣な眼差しを感じたみたいで、明日香もまた真面目な顔で真剣に答えてくれた。
「わかってるよ」
「ならいいけど、あ痛いっ。ちょっとあまちゃんなにっ?」
「べーつーにー」
あまちゃんが膨れっ面で私の脇腹を抓っていた。拗ねているのはなんとなくわかるんだけど抓られた理由とその理由は私にはわからないけど頑張って想像してみた結果、おそらく私のことも気にかけろみたいなことだと当たりをつけた私はさっそく私の想いを口にする。
「あまちゃんも。あんまり大人になり過ぎないように」
「なにそれ?」
「えと、大人のエロス的な? あっ、痛いってばっ」
「言っとくけどわたし超処女だから」
「えぇぇ」
「超処女ってなんだよ?」
「最強ってことよ」
あまちゃんが放ったあまりに衝撃的な発言に私はつい私の本音を口にしてしまう。
「嘘ぉ」
一瞬間が空いてあまちゃんの抓りが力を増した。明日香は超処女最強ってわけわかんねーとまた大爆笑している。
「いったぁい」
「椎名が私をどう見ているのかよくわかった」
「だってその大人の色気って言うかその気怠げな場末のエロい感じが、って痛い。あまちゃん痛いよ」
私はあまちゃんを遠ざけようと頑張るけどあまちゃんは全然離れない。細いくせに意外と力が強い。伸ばされた手を撃退してはまた掴まれてみたいなことをやり出す私とあまちゃん。
「お前ら仲良いなー」
って、明日香が言うけど私は必死。痛いのは嫌いだから。
「羨ましいでしょう」
「わっ」
あまちゃんが急に手を出すことを止めたせいで勢い余った私はあまちゃんの胸へ。あまちゃんはふふんと笑いながらそのまま私を抱いてその腕に力を込めた。
「私の方が仲良いけどなー」
負けじと明日香が私をぐいっと引っ張って私をその胸に囲い込むと私を抱いていたあまちゃんも一緒についてきた。
「「うわぁ」」
「椎名は私のだからな。水野にはやらないぞー」
明日香が笑ってそう言った。けどそこに恋愛的な要素はない。明日香の中で私は友だち。親友。心友。
明日香は純粋にそう思っているだけ。明日香の気持ちはそれ。特別な想いがあっても私の望む特別とは違う。その域を出ることは決してない。
ねぇ明日香。そんなこと、わかっているけど悲しくなるよ。
「なぁ。ちょっといいか?」
背後の扉が開いて男子が顔を出した。
その声に反応したひと塊になっていた私たちが一斉に顔を向けると驚いたのか少しのけ反っていた。たぶん明日香が怖かったに違いない。
男子と女子。互いに向かいあったまま暫し沈黙するあいだに、私たちはゆっくりと体を離して元の座っていた姿勢に戻った。
出て来た男子は全部で四人。四人とも少し息が弾んでいる。たぶん今までバスケか何かをしていた人たち。声をかけてきた男子は確か鈴木とか言う名前だったような。よく知らないけど何度か話したことがある同じ学年の男子だ。
右を見ればあまちゃんは既に視線を外してフェンスの方を向いている。興味がないのが丸わかり。左に顔を向ければ明日香はただ男子たちを見ている。ただ見ているだけなのは私にはわかるけど、男子たちは怖かったらしくじりじりと後退っている様子。
あまちゃんはスルーで明日香は口を開かない。仕方がないのでバランサーの私が代表して用件を訊くことにした。
「なに?」
「榊が椎名に話があんだってさ」
「私か」
鈴木(仮)はその横に立つ、名前すら知らない男子の背中を押して私の前に押し出した。
その瞬間、明日香の目が厳しくなったのがわかって、あまちゃんがブンッて勢いよく向き直ったせいで亜麻色の髪の先が私を叩いた。ちょっと痛い。
私の前で緊張している男子を見れば、勘のいい私はあまりいい予感がしない。けど、有耶無耶にすることはしない。誰かを好きになると言うことは、その対象がその好きという気持ちをどう思うかはともかく、叶う叶わないはともかく、本人にとってはとても大事な気持ちだから。それは私がそうだから。
私は立ち上がって長くも短くもないスカートのお尻の所を払い、その男子の前に立って言葉を待った。
「すっ、好きです。俺と付き合ってください」
「お断りします」
ちゃんと目を見てお断りをしてこの告白イベントの私の役割は終わり。
私の答えを聞いてその男子は俯いた。私に出来ることは返事をすること以外に無い。それはもう終えた。だから私は黙ってこの告白イベントの終わりを待っている。
「そういうことだ、榊。諦めろ。お前もわかってただろ」
と、鈴木(仮)が声をかけると俯く男子が小さくああと呟いて頷いた。それと同時に私の両隣の空気も弛緩した。私はほっとして息をついた。二人のただならぬ空気に実はちょっと焦っていたから。
「あー悪かったな椎名。こいつ親の急な転勤で来週引っ越すんだよ。だから最後にって」
「そうなんだ」
「そんじゃあ俺たちは戻るわ」
鈴木(仮)が落ち込んだ男子の肩に腕を回して歩き出そうとしている。私はそこに声をかけた。
「待って」
「ん?」
「榊? 君だっけ。私は君の気持ちに応えられないけど、好きになってくれてありがとう。元気でね」
私は彼の目を見て微笑みながらそう伝えた。いつもは決してしない行動。なら、なぜ私はそんなことをしたのか。
それは彼の事情を知ってしまったからで、彼の気持ちが軽くもちゃらくも浮ついてもあわよくばでもないことが私に伝わって来たからでもあり、なにより彼が自分の想いにちゃんとケリをつけに来たんだと思ったから。そうじゃないかもしれないけど、私にはそう思えたから。
そして、彼が私には無い勇気を持っていたから。
叶わないとわかっていても相手に想いを伝えようとすることがどれだけ勇気がいることか。既に諦めている私にはそんなこと怖くてできないから。
「お前って結構いいやつなんだな」
「鈴木もね」
「残念。俺は佐藤。って、掠ってもいねーじゃねぇか」
「一位か二位かの違いでしょう?」
「金メダルと銀メダルくらい違うけどな」
それからじゃあなと私に手を挙げて、鈴木(仮)改め佐藤を始めとする他のみんなが落ち込む榊君の肩を抱いたり背中を押したりして口々に慰めの言葉をかけながら引き返して行った。
私はその光景をじっと見ていた。大丈夫。私は伝えないからああはならない。私は自分の中だけでちゃんとケリをつける。そんなふうに考えて。
「私たちも戻ろっか」
暗い顔はお終い。私は事の結末まで待ってくれていた二人に明るく声をかけつつ振り返った。
「そうね」
「おう」
それぞれの教室に戻る前、お手洗いの洗面台で三人並んで手を洗いながらこんな会話をした。
「ねぇ椎名」
「ん?」
「あそこは普通ごめんなさいじゃないの? 私はそうしてるんだけど椎名っていつもあんな感じなの?」
「あ。それ私も思った。みんなそう言って断ってるよ。な?」
「そうね」
「いやいや。私はなにも悪くないから。悪くないんだからごめんなさいなんて言わないし頭も下げないよ。悪くないのにそんなことしたらなんか凄く損した気分になるじゃん」
「そ、そっか」
「お、おう」
「え、なに? ちょっと二人とも。なんでそんな顔になるの?」
「そう言えば椎名って男子に呼び出されても行かないよな?」
「いつもスルーしてるわね」
「え。そんなの普通でしょ? なんで私がわざわざ行かなきゃならないの? 用がある人が来るべきでしょ。呼び出したら来てくれるなんて思ってる方がおかしくない? ね?」
「…行くか。遅れるもんな」
「…そうね」
「え。ちょっと。なんで、はい解散、みたいになるの?」
ストックがガガガがが。ということでぼちぼち書いていきます。
変換ミスが多くてごめんなさいです。
読んでくれてありがとうございます。




