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第四話

続きです。

三話投稿の二話目になります。短いです。

よろしくお願いします。

 


 私がコンビニに戻ると彼女はまだそこに居た。背の高い筈の彼女の姿が今はやっぱり小さく見える。私が私自身へある種の疑念を抱いているように、彼女も何かを抱えているのかも知れない。


 敢えて踏み込む必要は無いんじゃないの?

 踏み込まれたくないんじゃないの?


 そう思うけど彼女のことが気になるし、この寒さの中に彼女を放って置きたくはない。

 けど、彼女は人を待っているとかそんなことかも知れない。それならそれでべつにいいわけだし、私が今からすることは単なる私のお節介で終わるだけ。


「よし」


 私は大きく息を吐いて気合いを入れて、彼女の傍へ自転車を押して近づいて行った。


 ここの駐車スペースでアイドリングしているエンジン音とか道路を走る車の音がある割に、私の押す自転車の立てるチキチキという音がやけに響く。


 やがてその音は止まった。 


「ねぇ」


 彼女は私が声をかけても顔を上げずに携帯をいじっている。人を寄せ付けないオーラを発しているけど私は気にせずもう一度話しかける。ここまで来て相手にされずとぼとぼ帰るなんて真似はできない。


「ねぇ。ねぇってばっ」


「あ? なに?」


 顔を上げたと思ったらもの凄い怖い顔で見下ろされて睨まれる。怖い。けど私は負けない。頑張って明るい声を出す。


「黒田さんでしょ? 四組の。ここで何してるの?」


「ああ? なんであんたが私を知ってって、あんた…確か椎名だっけ?」


 怖い顔が少し緩んだ。彼女に取って私は一応知っている人間と認識されたらしい。けど、なんで私を知っているのか。私は即座に疑問を呈す。


「あれ? 私のこと知ってるの?」


「そりぁ椎名は可愛いって有名だからな。ウチのクラスでも男どもがよく話してんだよ」


「ほうほう。なら見る目あるねその男ども。確かに私は可愛いからね。そうなっちゃうのは仕方ないね」


 私はうんうんと頷いてみせる。敢えておちゃらけてみせるのは笑う相手に牙を剥く人はあまりいないと思うから。自衛のためだ。


「はっ。言ってろ」


「これは事実です」


「なに言ってんだか」


 彼女は呆れたふうに声を出した。その言葉使い乱暴なものだったけど怖かった顔はすっかり緩んでいた。ほんとよかった。





「ちょっと行ってくる。自転車見てて」


 私はコンビニを指差して、返事を聞かずさっさと中に入って肉まんとピザまん、それと温かいペットボトルのミルクティーを二つ買った。


「ありゃあとあしたー」


 ビポピポピポーン


 あのやる気の無い挨拶とこの音、さっきも聞いたなぁと少し可笑しくなりながら彼女の傍まで戻って先ずは袋からミルクティーを取り出して渡す。


「はいこれ」


 彼女は戸惑いつつも受け取って両の手を温めるように持った。私はそれに満足して、袋から同じ物を取り出してキャップを捻ってひと口飲んだ。それだけで体が温まる気がする。そしてすぐにまたひと口飲む。


 ゴクリとのどを鳴らしながら彼女をよく見ると、彼女は私のように手袋もマフラーもしていなかった。金色の英単語がプリントされたペラペラ生地の黒いジャージを着てはいるものの、どう見ても着のみ着のままぽかったらこんな真冬に相当に寒かったんだと思う。


 それから持っていた袋を彼女の前に突き出して中を見せる。そこには白と薄い赤の丸くてホカホカした物が入っている。冬になるとみんな何食べたくなるみんな大好き中華まん。


「あとこれ。寒いから一緒に食べよう。肉まんとピザまんどっちにする?」


「なんで…」


 奢ってもらう謂れはない。けど食べたい。そんな感じに戸惑う彼女に私は有無を言わせずぐいぐい行く。


「いいから。どっち?」


「じゃ、肉まん」


「肉まんね。はい」


「…ありがと」


 素直に受け取ってくれた彼女に微笑んで、私は肉まんを渡した。なんだか恐縮している彼女はさっきと違って怖くもなんともなくてただただ可愛かった。


 そんな顔もできるんだ。いや。たぶんこっちが本当の彼女なんだろうなと私は思った。



「「ふー、ふー」」


「あっふいっ」


「うまうま」


 ふーふー、は一緒に。あっふいは私。うまうまは彼女。私はピザまんを半分に千切って食べ始める。彼女はそのまま、大きな口で肉まんに齧り付いた。


 大きい口だなぁとか熱くないのかなぁとか、つい肉まんを美味しそうに頬張る彼女を見ていたら、驚くことに肉まんは三口で無くなってしまった。


「三口」


 聞こえているのかいないのか、彼女は口をもごもごさせながら少し冷めてしまった筈のミルクティーを飲んだ。


「ごちそうさま」


「三口とか」


「うるさいよ」


 キッと睨まれるもやっぱりさっきみたいな迫力はない。私に対して少しは気を許してくれたのかもと嬉しくなる。

 そして私は餌付けに成功したような気分になった。なら、もうひと押ししてしまおうかな、なんて考えが浮かぶ。


「これ半分食べて。よく考えたらもう夜ご飯食べたから入らないや」


「もらう」


 半分に千切ったピザまんをまたまた彼女に押し付けるように渡すと、彼女は素直にそれを受け取って一気に口に放り込んだ。


「ひと口」


「ふるふぁいよ」


 恥ずかしいのか照れているのか、文句を言いつつ私と目を合わさずに通りを見つめて口をもごもごしていた彼女が小さくありがとうと呟いたことを私はちゃんとわかっていた。

 ピザまんを頬張ったままだったから、正確には、彼女はふぁりふぁほぅ、と言ったんだけど。



読んでくれてありがとうございます。

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